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龍神と英雄に成る男  作者: 高錫裕貴
2章 王都アリア
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16話 次から次へと・・・

「外にいる白狼は君の物なのだろう?言い値を払ってやるから私に譲りたまえ」

「お断りします」

「それは、私がクライム侯爵家の当主であると知ってもかね?」

「もちろん。あいつは子どもの頃からの相棒で、値を付けるような”物”じゃないんで」


 溢れ出た殺気が周りの冒険者も威圧してしまい、ギャラリーが少し引いている。


 しかし目の前の男は表情を崩さない。少なくとも小物ではないな。侯爵と言っていたし、そこは上級貴族として相応の胆力を持っているのだろう。護衛達も警戒はしているが萎縮はしていない。


「その瞳、人間ではないな。竜人か?ふむ、では要求を変更しよう。君が私の元へ来たまえ。もちろん仲間や相棒は連れてくるも置いて行くも君の自由としよう」

「それもお断りします」

「・・・私の要求を即答で断るか。まさかとは思うが何でも力で解決できると思っているわけではないだろうな?だとすれば君の評価を下方修正しなければならない」

「ならこれではどうでしょうか?」

「・・・!」


 いよいよ本来の目的を発揮するときが来たぞお姫様メダル!さすがに身分の頂点にある王族の威光の前には侯爵も驚きを隠しきれていない。


「なるほど、すでにお手つきだったか。であればこの場は引くとしよう。さすがに王族の”物”に横から手を出すわけにはいかんからな」

「ご理解いただけたようで何よりです」


 ずいぶん嫌味な奴だ。皮肉たっぷりの言葉は非常に貴族らしいとも言えるが。


 こちらも何か言い返してやろうかとも思ったが、貴族は面子が命。下手にプライドを傷付けると面倒な逆恨みをされかねない。


『とかなんとか言って、丁度良い切り返しが思いつかなかっただけではないのか?』

『・・・うるさい』


 八雲からからかうような声の念話が飛んでくる。ちらっと振り返ると袖で口元を隠していたが、あれ絶対ニヤニヤしてるだろ。


『毛繕いしてやらんぞ』

『あっ、それは卑怯なのじゃ!』


「・・・君、名前は何という?」


 侯爵とにらみ合いの緊張状態・・・と見せかけて俺はただ八雲との言い合いに気を取られていただけだが、向こうから口を開いた。


「シグルと言います」

「そうか。その名、覚えておこう」


 そう言い残すと、侯爵はそのまま背を向けて去って行った。


 とりあえずの面倒事は避けられたようだが、この王都でもあまり気を抜いてはいられないようだ。


「あの・・・シグルさん、大丈夫でしたか?」


 さっきの受付嬢さんが心配そうな顔で声を掛けてきてくれた。


「問題ない。竜人()神狼(ヴォルガ)のことを隠していない以上トラブルはつきものだからな。むしろバッチこいって感じだ」

「確かに王族の方にご縁があるのはかなり強いカードにはなりますが、それでも気をつけてくださいね。先程のクライム侯爵は一人Sランク冒険者をお抱えにしていて、それなりに強い影響力を持っています。その冒険者の指南を受けている私兵も相当な強さを持っているそうです」

「そうか、情報提供ありがとう。参考にさせてもらうよ」


 受付嬢さんに礼を言ってからギルドを出ると、外で待っていたヴォルガと一緒にシェーラと合流するために宿屋街の方へ向かう。

 合流場所などは特に決めていなかったが、そこはヴォルガに匂いをたどってもらって見つけた。


 二人が取っていた宿は『安らぎの泉亭』。大通りに面していおり、庶民向けの宿の中では高級な方に入る。ヴォルガが入れる大きさの厩舎があって部屋の大きさもそこそこあり、何より食堂から漂ってくる匂い的に絶対飯が美味い!


「これは期待大だな・・・お前らグッジョブ!」

「はいはい。で?八雲の冒険者登録は無事に終わったの?まさかとは思うけど何かのトラブルを引き寄せたりしてないわよね?」

「おぉ、よく分かったな。お前はエスパーか?」

「な・・・!」


 シェーラとしては冗談で言ったつもりだったのだろうが、結果は予想的中。クライム侯爵との一件を説明すると、いろいろと言いたそうにしながらも最終的にはため息からのジト目に落ち着いた。


「ハァ・・・なんかこうなってくると私たちが正体を隠している意味がなくなってきた気がするのだけど」

「そりゃあこのパーティーだとむしろ人間である方が目立つ可能性すらあるもんな・・・いっそ正体隠すのやめれば精霊魔法が堂々と使えてやりやすくなるんじゃないか?」


 どちらにせよ正体を隠す気がない俺と一緒にいる時点でかなり目立つし、盗賊退治や護衛依頼、冒険者間のトラブルなんかもいつかは通る道である以上、遠慮なく力を振るえるようにするのは大事なことだ。

 それに、姉妹の二人旅だったときと比べて悪人に目を付けられてもそれを跳ね返すための戦力は充分にある。


 シェーラも同じ結論になったのか、徐にフードを外すと幻影を解いた。ノーラもそれに続く。


「今更だけど、良かったのか?」

「あなたとパーティーを組むと決めたときから薄々こうなるとは思っていたしね。それに、私あんまり人間が好きじゃないから丁度良かったわ」

「それは君個人の価値観なのか?それともエルフは基本的に排他的な感じなのか?」

「・・・私はそうでもない」

「ノーラはあまりそういうことに頓着しないからね。あなたの言うとおり、私たちはあまり他種族を積極的に受け入れるようなことはしないわ。排他的、と言うほどでもないけど」


 確かにエルフの里であるフォレスティアは森を結界で囲み、外敵だけではなく一般人も寄せ付けない。ただ完全に鎖国しているというわけではなく、最低限の交流はしているらしい。


 父さんに聞いた話では、「あいつらは死ぬほどクソ真面目だ。俺はあんまり好かねえ」とのことだった。簡単には人を信用せず、頭が固い。歳を重ねたエルフほどその傾向が強いが、しっかりとした誠意があれば彼らも心を開くそうだ。


 ・・・誠意を大切にするクソ真面目。確かに父さんとは相性が悪そうだと非常に納得がいった。


「それよりもクライム侯爵ってのには注意が必要でしょうね。王女からもらっていうメダルを見せた以上、いきなり襲撃を受ける事はないでしょうけど」

「クックック、中々面白いことになってきたではないか。やはり人の町は退屈せんなぁ」

「笑い事じゃないわよ八雲。大体、あんたが小説の伏線のようなことを言うからトラブルが引き寄せられたんじゃないの?」

「おや、そうじゃったか。なら今後もことあるごとに呟いておくとしようかの」

「シェーラほどじゃないけど積極的に呼び込むのは俺も勘弁して欲しいんだが・・・」


 この世界にもフラグに近い概念があるようだ。俺が読んでいたのは学術書が大半で小説の類いはあまり触れてこなかったから知らなかったが、物語のお約束はそんなに地球と変わらないのだろうか。


「お貴族様相手に啖呵切った男が何を言ってんだか・・・」

「それは仕方ないだろ?ならお前は貴族が『金は払うからノーラをよこせ』とか言ってきても穏便に済ませるのか「それはないわね」、よ・・・」


 あまりにも迷いがない即答だ。本当に彼女は妹のことを大切に思っているんだな。ガルべージ伯爵のときも妹を人質に取られたシェーラは首枷なしでも迷いなく命令を聞いてたもんな。


「・・・姉さんは子どもの頃から過保護すぎる。私に近寄る男子達を片っ端から吹っ飛ばしてた」

「あ、あれはあいつらがノーラに変なことしようとするから・・・」

「・・・お茶に誘ってきただけでも吹っ飛ばしてた」

「うぅ・・・だってぇ・・・」

「・・・私の精霊魔法は姉さんの暴走を抑えてた結果」


 聞けば姉妹はエルフの中でも人気があったようで、シェーラは男子をありとあらゆる手段で撃退していたら多才な戦士になり、ノーラはいつか姉がやり過ぎてしまわないように他者の力に干渉する技術を身につけていたらその応用で逆に増幅もできるようにもなり、精霊魔法に特化したスタイルになっていったらしい。


「プッ、アハハハハ!!!戦闘スタイルの構築にそんな経緯があったとは、全く予想外だったよ・・・まさか・・・ククッ、アーハッハッハッハ!!!」

「ホホホホ・・・ッ!シグルよ、そんなに笑ってやるでない。妾もつられて・・・クククッ・・・!」


 てっきり姉妹の連携を身につけてお互いを守り合うために、とかそんな感じで培った技術だと思っていたのが、まさかの理由に俺と八雲は思わず吹き出してしまった。


 シェーラ自身も暴走していた自覚があるのか、恥ずかしそうに顔を赤くしてノーラを責めるような視線で見ているがあまり感情を表に出さない彼女は全く意に介した様子がない。

 それどころか口元がほんのわずかに緩んでいる。姉をからかって楽しんでいるのか。意外とSな部分があるのかもしれない。ともあれ、姉妹仲が良いのはよいことだ。


「そんなことより!今はクライム侯爵の対策について話し合うんじゃなかったの!?」


 ・・・忘れてた。


「対策も何も今は情報が少なすぎるし、なんなら何も起こらん可能性だってあるのじゃ。あれこれ考えていても仕方あるまい?いざとなったら妾の幻術やそなたらの精霊魔法で身を隠して逃げに徹すれば良い」

「俺もそれでいいと思うぞ。ただし、仲間を見捨てるようなことはしないけど」

「それは当然じゃな」


 結論はふわっとしたままだったが、これでいいだろう。最低限の優先順位さえ決めておけば後は臨機応変に動くだけだ。


 ・・・と気楽に考えていたのだが、1週間ほど経ってそうも言ってられなくなった。



 王宮から直々にパーティーの招待状が届いたからである。

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