15話 新たな仲間、そして王都へ
その頑丈さはさすが神獣というべきか、九尾はあれから10分ほどで目を覚ました。
「う・・・」
「気付いたか。俺の相棒は寝心地も最高だっただろう?」
「ウォン!」
「うむ、そうじゃな・・・そなたが手入れをしてやっているのか?うらやましい限りじゃ」
ヴォルガの毛並みはだいたいひと月ごとに俺が魔術で洗って整えているので見た目も触り心地も最高なのは俺の自慢だ。
「いやはや、それにしてもそなたはやはり強いのぅ。まさか妾の術を力でねじ伏せるとは畏れ入ったわ。カッカッカッ!」
「戦いは常に力ずくとはいかないから、出来るだけ戦術を意識したいところではあるんだがな・・・」
「そうね、確かに戦術を磨くことは大切ね。でもその辺は仲間を頼るというのもアリだと思うわ。一人で全てをこなせるようにしないとっていうのは贅沢な悩みというものよ」
「そうだな。ただ、仲間に依存しないようにしないと後で父さんに死ぬほどしごかれるから・・・」
「あなたのお父さんはどれだけ厳しいのよ・・・」
ヴォルガは父さんの怒りの形相を思い浮かべて尻尾を丸め込んでいるし、シェーラたちは若干引き気味だ。
うん、これが普通の反応だよな。
「さて、狐さん・・・そういえばお前名前はあるのか?」
「そういえば名乗っておらんかったの。妾の名は八雲。改めてよろしくじゃ、"主様"」
「・・・ん?」
"主様"ってどういうことだ???
「妾が共に行くことを望み、そなたが受け入れ、そしてどちらが上かを示した。つまりそなたが妾の主となるのじゃ」
「いやいや待て待て、何で仲間じゃなくて主従になってんだよ」
「何でもなにも、すでに従魔の契約はなされたぞ?」
「いつの間に!?・・・って、この展開見覚えあるな」
「ウォン!」
そう、ヴォルガと従魔契約を交わしたときもこんな感じだった。あの時も弁当を分けて一緒に食ってたらいつの間にか従魔契約が結ばれてたんだよな・・・
「というか、従魔契約ってそんなあっさり結ばれるもんなのか?なんかこう・・・あるだろ、儀式的なやつ」
少なくとも本で見た記述には魔力で魔法陣を描いて・・・といった手順があったはずだ。
「さあのぅ?妾にも良く分からん。だが自分でも驚く程にすんなりと納得しておるのじゃ。そなたを主とすることにな」
「ウォン!」
ヴォルガも『僕も本能的に主だと思った!』と言っているのだが、俺に何か原因があるのか?
「気になるけど、分からないことを考えても仕方ないな。・・・それじゃ、そろそろ出発しようか!」
新たに神獣・九尾の狐である八雲を仲間に加え、俺たちは王都へ向けて出発した。
ー ー ー ー ー ー
王都アリア。アートレア王国の政治・経済・文化全ての中心であり、この国最大の都市である。
当然国中から商人や旅人、出稼ぎの労働者なんかが集まってくるため、門の前は行列が出来ていた。・・・ズラ~っと。
「うげぇ、この行列じゃ下手すると数時間は待たされそうだな・・・」
「うぁ~、退屈なのじゃ~・・・なんぞ面白いことでも起こらんかのぅ~・・・?」
「やめてよ、八雲。縁起でもない」
退屈そうにフラグが立ちそうなセリフを言う八雲に対して、シェーラが心底嫌そうな顔で窘める。
今のシェーラとノーラはまた精霊魔法で人間に姿を変え、さらに念のためフード付きのローブで顔が見えにくいようにしている。
トラブルを避けたいシェーラとしては何も起こらないに越したことはないだろう。
ちなみに八雲は狐の獣人に見せるため、尻尾を一本にしている。
それから数時間後、特に何の問題もなく王都へ入ることが出来た。
案の定俺やヴォルガで少しざわついたり、八雲の身分証明で少し手こずったりしたが、例のお姫様にもらったメダルを見せるとすんなり通してもらえた。やはり権力者の威光は偉大である。
「おおぉぉ~、これほど大きな町へ入るのは初めてじゃ!門兵がいるところは大体門前払いされてしまっておったからのぅ」
八雲はお上りさんよろしく周りの建物をキョロキョロと見回して目を輝かせている。
「取りあえず冒険者ギルドに行って八雲の登録をしようか」
「なら手分けしましょ。私とノーラは宿を確保してくるわ」
「分かった。飯と酒がうまいところで頼むぜ」
「ウォン!」
「はいはい。行くわよ、ノーラ」
「・・・(コクリ)」
俺・ヴォルガ・八雲はシェーラたちと分かれて冒険者ギルドに向かうことになった。
やはり王都なだけあってギルドの規模は非常に大きく、中で働いている職員や依頼を吟味したり酒場のカウンターで飲んだくれている冒険者も多い。
俺たちが足を踏み入れると、いくつかの視線が向けられるのを感じた。それは単純な好奇の視線ではなく、相手の力量を測ろうとする値踏みの視線。
あまり気持ちの良いものではないが、悪意のニオイはしないのでスルーして、さっさと受付に向かう。
「ようこそ、冒険者ギルド・アートレア王国本部へ。ご用件は何でしょう?」
「依頼達成の報告を出来れば別室で行いたいのと、新しい仲間の冒険者登録をしたい」
「はい、ではまずギルドカードの提示をお願いいたします」
俺が出したカードを確認した受付嬢さんはすぐにこちらへ返し、奥の棚から書類を取り出してきた。
「グトナム支部で登録されたシグル様ですね。Bランク依頼の『未確認生物の調査』でよろしかったですか?」
「ああ」
「達成報告は別室でとのことですが、理由を伺っても?」
「実はその未確認生物ってのが、こいつなんだ。それについて何か問題があったりしないか相談させてもらいたくてな」
「そちらの、獣人の方ですか?・・・かしこまりました。部屋を用意いたしますので、少々お待ちください」
さすが王都本部、職員のレベルも高い。よく海外から称賛される日本と比べても遜色がない。八雲を未確認生物の正体だと言ったときも若干訝しむような反応だっただがほとんど顔に出なかった。俺がAランクの冒険者だということもあるだろうが。
少ししてから奥の部屋に通された。ヴォルガはさすがに部屋までは入れないので外で待たせることにして、八雲と二人で部屋に入るとさっきの受付嬢さんともう一人男性職員が水晶玉のような物を持って入ってきた。
「お待たせしました。念のためこちらの魔道具で真偽を確かめさせていただきますがよろしいですか?」
「ああ、構わない」
水晶玉は嘘発見器の機能があるようだ。人によっては疑われるようで気分が良くないかもしれないが、別に嘘やごまかしをするつもりはないので問題ない。
「さて、先程そちらの獣人の方が未確認生物の正体がおっしゃっていましたが真実ですか?」
「真実だ。正確に言うとこいつは九本の尾を持つ狐の神獣で、単に通る者にいたずらしていただけらしい」
「うむ、騒がせて済まんかったの」
「・・・真実のようですね。神獣ですか・・・神狼に九尾、二体も神獣を連れているとなると確かに大騒ぎになりそうですね。・・・一体でも大概ですが」
「だろうなぁ。ヴォルガは無理だから仕方ないとして、八雲に関しては獣人に変装できる以上むやみに言いふらすつもりはないからその辺は配慮して欲しいところなんだが、いたずらのことも含めて問題はないだろうか?」
「おそらくあまり問題はないかと。神獣の行いを人の法で裁くのは難しいですから。死傷者が出るようなことがあればその限りではありませんが。それに冒険者の情報をいたずらに広めることもいたしませんのでご安心ください」
受付嬢さんの隣にいる男性職員も頷いているので大丈夫そうだ。面倒なことにはならなそうで少し安心した。組織や法律が絡むようなトラブルは力で解決する訳にはいかないからな。お姫様のメダルもつまらないことで濫用するのは申し訳ない。
その後いくつかの事情説明を経て依頼は無事に達成となり、報酬を受け取ることもできた。八雲の登録については俺の時と同じように実力はAランクだが、冒険者としての経験がまだ必要ということでCランクとなった。
手続きを済ませ、最後に受付カウンターで八雲のギルドカードを受け取る。
「ほう、これが妾のギルドカードか。よくできておるのぅ」
「それじゃ無事に片付いたし、シェーラ達と合流して今日はゆっくりしようか」
「そうじゃな。宿に着いたら妾もヴォルガのように毛皮の手入れでもしてもらおうかの!」
「ああ良いぞ。ヴォルガにもそろそろやろうと思っていたし一緒に・・・」
「おい、そこの少年」
突然声を掛けられ、振り返るとそこには仕立ての良い服を着て護衛の兵士を引き連れた貴族らしき中年の男。
「・・・俺のことですか?」
ぱっと見の印象だが、いつも通りの話し方だと無用なトラブルを招きそうだったので一応敬語を使って返したのだが・・・
「そうだ、外にいる狼を私に譲りたまえ。言い値を払おう」
・・・どうやら遠慮する必要はなかったようだ。