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龍神と英雄に成る男  作者: 高錫裕貴
2章 王都アリア
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14話 手合わせ

九尾が仲間になりたそうにこっちを見ている。

『妾も連れていってはくれんかの?』

「へえ?そりゃあまたなぜだ?」


 九尾はもじもじとやけに人間くさい動きをしながら訳を話す。


『実は常々人間の町を散策してみたいと思っていたんじゃが、何かと目立ってしまってのう・・・』


「人に化けたりはしないのかしら? 得意でしょ?」

『もちろんじゃ。ほれ、この通り』


 シェーラの疑問にそう答えると九尾は体を眩い光で包んでいき、次第に人の形に収まっていった。


 それは狐の獣人の姿をした妙齢の美女。明るいブロンドの長髪と金色の瞳を持ち、服装は和服のようなものを着崩していてグラマラスな肢体の魅力をさらに引き上げていて・・・


「・・・って、その格好じゃ目立つに決まってんだろ」


 その見た目はまるで遊女のようで、人によっては痴女にしか見えないだろう。


「そうなのか?この前行ってきた獣人の国には所々にこのような格好をした娘がたくさんおったぞ?」

「それは多分遊郭・・・娼館街だぞ」


 獣人の国・バルテト獣王国は和風な感じの街並みが特徴の国だ。確かに和服は獣人の民族衣装のような扱いになっているが・・・


「なるほど、人間の男にやたらと声をかけられると思ったがそういうことじゃったか。妾は魅力的な雌である故当然のことじゃと思って気にしておらなんだ」

「まあ確かに服装を改めたところで今さらだろうが、悪目立ちするよりはマシだと思うぞ」

「ほう、そなたも妾の魅力をよく分かっておるようじゃのう。う~む・・・、こんな感じかえ?」


 九尾は再び光に包まれ、収まると今度は少し落ち着いた色合いになり、露出部分も少なくなった。


「うん、だいぶ良くなったな」

「そうかそうか、存分に妾の美しい姿をその目に焼き付けるが良いぞ・・・と、それでどうじゃ?妾も仲間に入れてはくれぬか?」

「そうだなあ、特に断る理由はないんだが・・・皆はどうだ?」

「私も反対はしないわ」

「・・・(コクリ)」

「ウォン!」

「だそうだ。なら仲間に入れるのは構わないが・・・ひとつ条件がある」

「条件?・・・あぁ~、なるほど。もちろん良いぞ」


 九尾は首をかしげたあと、一人で何やら納得したかと思えば唐突に帯を緩め始め・・・っ!?


「ちょ、おい!何でいきなりストリップ始めてんだお前!?」

「む?おかしなことを言う。脱がねば交わることが出来ぬではないか」

「なぜそうなる!?」

「古来より男が女に付ける条件と言ったらこれであろう。妾もそなたのような強き男であれば喜んで抱かれようではないか。さ、その獣欲を存分に発散するが良い」

「どんな偏見だよ!?つーか仮にそうだったとしてもこんな真っ昼間の外で盛ったりしねえ!!」

「おかしいのぅ。この前脅かした男が持っておったこの本には確かにそのように書いておったのじゃが・・・」

「エロ本の常識を現実に持ってくるんじゃねぇよ・・・」


 思わずジト目になるが、九尾は気にする様子がない。羞恥心皆無かこの狐・・・。その辺は野生なのだろうか。


 後ろではシェーラが突然の展開に目をパチクリさせ、ノーラは手で顔を覆ってはいるが指の隙間がしっかり空いている。ヴォルガは・・・周囲の見回りに行ったようだ。何て紳士的でできる相棒なんだあいつは・・・!


「はぁ、まったく・・・それで条件ってのはな、俺と手合わせをすることだ。仲間になるなら戦闘スタイルや実力を把握するのは必須だからな」

「おぉ!それは願ってもないことじゃ。さっそくやるか?」

「当然だ。二人とも、少し離れててくれ」

「分かったわ。行きましょ、ノーラ」

「・・・ファイト」

「おう!」


 二人は風を使ってふわりと飛び上がり、近くにあった高い木の上に慣れた様子でそっと降り立つ。さすがは森と共に生きるエルフだ。動きや魔法がとても自然で安定している。


 充分離れたことを確認してから、俺と九尾も少し距離を取ってお互いに構える。


 九尾は周りに紫色の炎を浮かべ、右手には鉄扇を持つ。


「じゃあ始めるか!」

「うむ!手加減はせんぞ!」


 まずは小手調べ。風の魔術で衝撃波を放って相手の出方を窺いつつ、距離を詰める・・・が、九尾の姿が一瞬にして掻き消えてしまった。


「さっき使ってた気配を消すやつか・・・やっぱりこれが厄介だな」

『悪く思わんでおくれ。そなた相手に真っ向から力勝負だとちと分が悪そうでな』

「いや、それがお前の戦闘スタイルだろ?卑怯だなんて言わないさ。自分の得意な土俵で戦おうとするのは当たり前だからな」

『では、遠慮なくゆくぞ!』


 言うが早いか、ありとあらゆる方向から紫炎の火の玉が飛んでくる。

 風を纏わせた拳と蹴りで捌くのは出来るが、相手の位置を把握出来なければキリがない。しかし、さっきはノーラに強化されたシェーラの精霊魔法でようやく位置を把握出来たというほどだから俺の探知は意味がない。


 では、このまま捌き続けて相手のスタミナ切れを狙うか?


 いや、それも下策だろう。相手のスタミナがどれ程あるのか、そもそもスタミナを消費するのかも分からないのにそれはリスクが高すぎる。


 それなら『破壊』で幻術を破る?


 それこそ無理だ。『破壊』は対象の存在を認識しないとならない。それに見えないところから放たれる攻撃を警戒するというとんでもなく集中力が必要なことをこなしながらさらに集中力を要する『破壊』は不可能だ。


 ここはやはり魔術でどうにかするしかないか・・・


「取りあえずやれそうなことを試すしかないな。ハァッ!!」

『ぬおっ!?』


 まずは俺を中心に周囲へ爆発的な風を放つ。


 範囲攻撃なら影響を与えられるか。なら次は・・・


「あれは・・・気付け薬?何で今あんなものを?」

「っ!?ウォン!」

「わわっ!?ちょっとヴォルガ?」


 ちょいちょい風の爆発を放って牽制しつつ、手の上に作り出したのは水の球。そこへ気付け薬を混ぜる。


 それを見て俺がやろうとしていることを察したヴォルガが二人を自分の近くへ引っ張って来て防御を張ったようだ。


『一体何をするつもりじゃ?』

「・・・ちょっとエグいこと」

『とっても嫌な予感がするのじゃ・・・』


 俺の周りを風の壁で囲ってから、水球を気化させる。一気に水蒸気となった気付け薬が辺りに充満し、シェーラが前にガス爆弾を使ったときと同じような状態になった。


『こ、これはマズいのじゃ!?』


 九尾はとっさに球状の紫炎で自分を包み、水蒸気を防ぐ・・・が、


「これで尻尾を出したな?」


 こちらへ飛ばしていた紫炎の玉と同じように防御で出した紫炎の球も目の前にバッチリ見えている。


『えぇい!これは確かにエグいのぅ!水に混ぜ混んでおったやつをまともに吸い込んだりすれば絶対大変なことになるやつじゃろ!?』

「苦痛に悶え苦しむことにはなるが・・・なに、死にはしないさ」

『なんと恐ろしい・・・』

「フッ、そう。これは恐ろしい。そうだな・・・」


 確かにガス攻撃は地球でも国際法で禁止されているくらいに非人道的な攻撃だ。だが・・・


「俺がさっき与えられた恐怖はこんなもんじゃなかったんだからなぁぁぁあ!!」

『どんだけ怖かったんじゃ・・・』


 今さらながらにぶり返してきた怒りのままに紫炎球内部へ突撃。


 しかし、球の中に範囲を絞れたは良いが九尾の姿は依然として見えないままであった。


『残念じゃったな。狭い場所へ追い詰めても、結局こちらが見えなければやりようがなかろうて!』


 その言葉と共に感じ取った殺気と風の動きを元に攻撃を防ぐ。物理攻撃ということはあの鉄扇か。


「くっ、ふっ、ハッ!・・・見えない奴と、戦うってのは・・・難しいなっ!」

『そう言いつつも、妾の攻撃を捌き続けているそなたはとんでもないがな・・・!』

「そりゃあ"見えない速さ"で息子をボッコボコにする鬼畜な父親のおかげだな。あれは地獄だった・・・」

『なるほどのぅ。だがシグルよ、時間切れは近そうだぞ?』

「ハァッ・・・ハァッ・・・ハァッ・・・」


 彼女の言う時間切れとは、暑さだ。ここは炎の中であるため、当然温度は非常に高い。風の防御壁である程度防げるが、完璧とはいかない。真夏の炎天下くらいには暑い。


 ただでさえ暑いのにさっきから激しく動いてるわけなのでもう服は汗でグッショリ、額から流れ落ちた汗は顎から滴り落ちている。


『無理することはないぞ、シグルよ。その様子ではそろそろ限界であろう?』

「あぁ、そうだな・・・だから切り札をひとつ切るとしようか・・・!」

『なに・・・?』


 身体強化の応用で、細胞一つ、血の一滴に至るまで搾り尽くして引き出した魔力を全身に漲らせる。


「"全力開放(オーバーブースト)"ォッ!!!」


 爆発的に高まった魔力が荒れ狂う暴風のように拡散し、紫炎の球も、辺りに漂っていた気付け薬(ガス)も、そして九尾の幻術すらも、まとめて吹き飛ばした。


「な、なななっ!?純粋な魔力で術を吹き飛ばしたじゃと!?一体どれ程の魔力があればそんなことが・・・!?」

「驚いてるところ悪いが、こいつは死ぬほど燃費が悪いからな。一気に決めさせてもらうぜ!」


 全力開放(オーバーブースト)は文字通りの全力を引き出す技なので使用可能時間は短く、使った後は全身を激しい倦怠感が襲う。よって、時間切れはすなわち敗北を意味する。


『くっ、もう一度幻術で逃げれば・・・!』

「無駄だっ!」


 九尾は幻術をかけ直して姿を消すが、存在まで完全に消すことは出来ない。ゆえに超強化された風の魔術でより広範囲のわずかな風の揺らぎや足音を感知しており、もはやどこでどんな動きをしているかは手に取るように分かる。


 地面を強く蹴って一瞬で距離を詰め、腹へ拳を叩き込む。


「ガ、ハァ・・・ッ!?」

「これで、俺の勝ちだ、な・・・っ。はぁっ、ハァッ」


 まともにボディブローを食らった九尾は白目を剥いて意識を飛ばし、膝から崩れ落ちた。


 全力開放(オーバーブースト)を解除するとその反動で俺もたまらずに膝をつく。


「二人とも!大丈夫?」

「あぁ・・・なんとか。ヴォルガ、そっちの狐さんを寝かしてやってくれ」

「ウォン!」


 後ろに下がっていたシェーラたちが駆け寄ってくる。ヴォルガは俺の指示で九尾を腹の上へ乗せて寝かせる。


「まったく、無茶するわねぇ・・・全力開放(オーバーブースト)を使ってる人なんて滅多にいないわよ」

「確かにな・・・最終的に相手の策を力ずくで吹っ飛ばすくらいしか出来ないのはこれからの課題だよ」


 俺は先ほどの戦いの反省点を頭の中で挙げつつ、魔術で全身の汗を洗い流してから水分を飛ばす。あとはジャーキーをかじりながら九尾が目を覚ますのをゆっくりと待つことにした。

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