11話 パーティー結成
ベリオスが連行されたあとは一気に事が進んだ。
彼の悪行は冒険者ギルドを通じて王国へ通報され、翌日には近隣であるグトナムの領主が国の命令によりロウタスの領主を一時的に兼任することになり、領主邸の捜査が行われた。
案の定、違法奴隷に禁止魔道具、脱税した隠し財産などが次々と発見された。
それらは全て国に没収され、ガルベージ伯爵家はお取り潰し、当主であり主犯であもあるベリオスは極刑が決まり、今は背後関係を調べるための尋問を受けているそうだ。
ちなみに情報伝達が早いのは転送陣によるものだ。200年前の勇者が開発したものだそうで、人や大荷物を運ぶのはコストが高いが、手紙なら比較的低コストで済む。この連絡網が各国の中央省庁や冒険者ギルドの各支部を繋いでいるのである。
そして俺はというと、多少の事情聴取を受けたりはしたが特に問題はなし。唯一マズかったのはヴォルガがギルドの壁をぶち破ってギルマスを連れ去ったことだが、壁の修繕費を伯爵家から没収した財産から充てられることで俺はお咎めなしとなった。
シェーラはベリオスに手を貸していたものの、初犯かつ妹を人質に取られていたことによる情状酌量が認められた。
むしろ、ガルベージ伯爵の行いは下手をすれば二人の故郷であるエルフの里・フォレスティアとの外交問題を引き起こす可能性すらあったため、王国から二人に対し補償金が支払われることになった。
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「おめでとうございます!シグルさんは晴れてAランク冒険者となりました!」
「・・・おう、そんな急に?」
後始末のあれこれが終わったあと、ギルドへ依頼を受けに行くと受付嬢さんからパンパカパーン、といったテンションでランクアップを告げられた。
「はい、元々シグルさんの力はAランク冒険者と遜色ありませんでした。ただ登録したばかりだからCランクだっただけです。しかし、この度の事件解決に大きく貢献していただいたことで名実共にAランクとして認められたのです!」
そう言ってシンボルの部分が金色になったカードが差し出された。
「それじゃあ今ある中で強めの魔物が出るやつを見繕ってくれるか?」
「はい、では少々お待ちください」
受付嬢さんが奥の棚を漁っている間、カードを懐にしまっているとシェーラとノーラが声をかけてきた。
「あら、シグルじゃない。そのカード、Aランクになったの?」
「ああ、さっきもらったんだ。この前の事件解決で認められたんだと」
「何気に大事件だったものね。・・・っ」
「ん?どうした?」
「な、なんでもないわよっ」
シェーラの顔が少し赤くなっているのは媚薬を服用させられて迫ってきたときのことでも思い出したのだろうか。
確かに恋人でもない男にあられもない姿で迫らされた挙げ句、結果何もなかったわけだから彼女からすれば普段の性格も相まってとんだ黒歴史だろう。
大丈夫、俺は鈍感系主人公よろしく無自覚に藪をつついたりはしない。ここは少し話題を変えよう。
「そういえば、二人はここを拠点にしてるのか?それとも旅を?」
「旅の途中よ。次はこの国の王都へ行こうと思っているわ」
「そうか・・・なぁ、せっかくだし俺も一緒に行って良いかな?」
「え、えぇっ!?」
これは少し前から考えていたことだ。父さんが冒険者をやっていた頃もパーティーを組んでいたそうだし、俺も旅の仲間というものに憧れがあった。
実力的にもシェーラは申し分ない。精霊魔法もそうだが、弓や短剣、薬草知識に関しては俺よりも一日の長がある。
そしてノーラは姉と同じくBランクで、多才な姉に対し妹は精霊魔法に特化しているのだそうだ。
中~後衛しかいないが二人はBランク冒険者のタッグなので大抵の敵には勝てるだろうが、やはり前衛役は必要だろう。
その点俺はヴォルガと共に前衛に立てるし、彼女らがエルフだということもすでに知っているから精霊魔法を隠す必要がない。
要するに俺・ヴォルガのペアとエルフ姉妹ペアは組む上で何かと相性が良いのだ。
それを説明しようとしたところで受付嬢さんが戻って来たので続きは隣の酒場で行うことを提案。取りあえず話を聞くだけならとシェーラも頷いてくれた。
依頼を受領する手続きを済ませて酒場に行くと先に待っていた二人がいるテーブルに着く。三人分の飲み物と軽食を注文してから、先程の話を二人にも説明して俺と組むことのメリットを訴えた。
「・・・そういうわけで、どうかな?俺とパーティーを組まないか?」
「う~ん・・・確かにシグルは強いし、ありがたい話だと思うけど、あなたの行動方針はどうなの?私たちには私たちの旅の目的があるのだけど」
「特に問題がないなら付いていくさ。俺は決まった目的地とかはなくて、ただ見聞を広めるために旅を始めただけだからな。むしろ移動先を悩まなくて済むのは楽だし」
「あなたはどう思う?ノーラ」
「・・・(コクリ)」
・・・ノーラはずいぶん無口な性格のようだ。活発で行動力のある姉とは対照的なんだな。
シェーラは少し考える素振りをしたあとにひとつ頷くと、こちらへ向き直る。
「分かったわ。じゃあしばらくの間よろしくね」
「・・・(ペコリ)」
「おう!こちらこそよろしくな!」
俺はシェーラの差し出した手を握って握手を交わす。
こうして、俺の旅は始まって早々に仲間が増えたのだった。
「それでシェーラ、君らの旅の目的は何なんだ?」
「それはね、魔物の調査よ」
「というと?」
シェーラの話によると、それは新たな魔王の出現時期を予測するための調査であるらしい。
魔王の出現が近くなると、魔物が一部狂暴化するようになったり、通常より強力に進化した個体が現れたりするようで、過去の記録と照らし合わせることである程度予測出来る。
先代の魔王が勇者に倒されてからそろそろ100年が経つので各国は警戒を強めており、エルフの国フォレスティアでは二人のように若手である程度の実力を持っている者たちが世界各地に派遣されているのだそうだ。
「なぜ若手なんだ?経験豊富な実力者を送った方がより確実だろうに」
「実地訓練を兼ねているのよ。状況が切迫すればそうするだろうけど、最初からベテランに任せると後続が育たないから」
「なるほど。ならこの依頼も丁度良いかもな」
取り出したるはさっき受領した依頼。場所はこれまた丁度良いことに王都へ向かう途中にある森だ。
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『未確認生物の調査』難易度:B
ダシュワの森にて奇妙な現象が発生。
目撃者曰く、旅人を迷わせ誘い込み、幻を見せて脅かしにかかるとのこと。
死傷者は出ていないので危険度は低いが、原因の正体、目的、能力全てが不明なため、念のために用心するべし。
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「・・・確かに怪しいわね。とは言っても死傷者が出ていないあたり、魔王にはあまり関係なさそうだけど」
「どうだろうな。だが調べてみる価値はあるだろ?」
「そうね、どちらにしろ王都への道のりの途中だから行ってみても良いんじゃない」
「決まりだな。じゃ、この依頼を行うついでに王都へ向かうってことで」
話がまとまったところで一時解散し、食料の買い込みなど荷物の準備を各自整えた上で出発することとなった。