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龍神と英雄に成る男  作者: 高錫裕貴
1章 旅の始まり
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1話 プロローグ

 とある世界、とある孤島にて。


「おはよう、父さん」

「ああ、おはよう」


 父と息子は朝の挨拶を交わして朝食の席に着く。


 父の名はレクス。見た目はただの厳つい壮年の男性だが、その正体はかつて【漆黒の竜王】として世界から畏怖と尊敬を集めた黒竜族だ。


 息子の名はシグル。現在は10歳。黒髪に銀のメッシュ、瞳は金色。父は純粋な竜だが、母は別なので種族は竜人族となる。


 そしてシグルは神代竜也(くましろりゅうや)という日本人としての記憶を持った転生者でもある。転生する前後についての記憶はない。


 しかし不思議なことに、父レクスはシグルが転生者であることを理解している節がある。細かい事情を話す気がないのか、それとなく聞こうとしても教えてくれそうにはなかった。


ー ー ー ー ー ー


 朝食を済ませたあとは、いつものトレーニングと狩り・採集を行う。


 この島は大陸と離れた孤島ではあるが、そこそこの大きさがあり、固有の生態系も確立されている。その中には希少な種族もいるので父レクスを含めた黒竜族が管理している。


「さ~て、今日の獲物は・・・っと」


 俺、シグルは弓を携えて山の中を駆けていた。今晩の食事のための獲物を探している最中である。


 取りあえず辺りを見回せるような高い木に登り、魔力を探知する。一番近くにいたイノシシにあたりをつけて風の魔術を乗せた矢を放つ。


「ブヒィッ!?」


 威力と速度が上がった矢が勢いよく飛んでいき、イノシシの急所を正確に貫いた。


 倒したイノシシを手早く解体し、後片付けをしてから俺は亜空間から弁当を取り出す。


「さて、今日の弁当は・・・っと」


 中身はおにぎり。やはりこれは携行食として優秀だ。具材は色んなものがあるし、腹持ちもよい。

 それに元日本人としても米があったのは非常に幸運だった。


「うむ!やはり米はうまし!」


 俺のお気に入りはシャケと昆布。だがたくあんも好きだし、たらこも捨てがたい・・・おや?


「子犬?いや、狼か?」


 茂みの中から姿を現したのは美しい白銀の子狼だった。

 子狼は特に俺を警戒する様子もなく、ひたすらに俺のおにぎりをじっと見つめている。


 試しに手に持ったおにぎりを上にやる。


 子狼が上を向く。


 下にやる。


 下を向く。


 右にやる。


 右を向く。


 左にやる。


 左を向く。


「お前、腹減ってんのか?」

「クゥ~ン」


 子狼はこちらへ期待の目を向けている。

 動物好きの俺としては特に断る理由もないので弁当から取り出したおにぎりをいくつか与えることにした。


「どうだ、美味いか?」

「わん!」


 気に入った様子でバクバク食べる子狼を横に俺も頬張る。やがて食べ終わると子狼は満足そうにひとつあくびをすると俺の足元へすり寄ってきた。


「お前さん警戒心が無さすぎやしないか?いや、かわいいから良いけど」

「わん!」

「『おいしいご飯をくれる人に悪いヤツはいない』?その判断基準だと悪い人間に捕まるぞ?」

「わん!」

「『そこはニオイで分かるから大丈夫』?まあそれは俺も似たようなことできるし心配ないか・・・ってあれ?何で俺お前の言葉が分かるんだ?」

「わん!」

「『友達になったから』?よく分からんが・・・」

「クゥン?」


 『分かるでしょ?』と言わんばかりの反応だが、いまいちよく分からない。従魔契約だろうか?


「ま、いいか。父さんなら何か分かるだろ」


 父レクスは基本的に竜族らしく好戦的な性格だが、人間の社会で暮らしてた時の経験から知識量もかなり多いのだ。


 どうやら俺から離れる気はないようなので日向ぼっこをしながら子狼の話を聞くことにした。


 子狼曰く、『母上に「強くなるまで帰ってくるな」って巣から追い出された』とのことだったので巣立ちの時期だったようだ。


「それなら相棒になってくれるか?俺もあと何年かしたら家を出て旅をするつもりなんだ」

「わん!」


 もちろん!と頷く子狼。

 こういうのも悪くない。狼の相棒と絆を深め、連携して敵を狩る。心が踊るぜ!


ー ー ー ー ー ー


 家に帰ると出迎えたのは父レクスの呆れの眼差しとため息だった。


「はぁ・・・お前とんでもねぇ拾いもんしてきたな」

「そんなに珍しいの?この狼」

「ああ、こいつは神狼(エンシェントウルフ)の子供だな。人間の社会じゃ数十年に一回現れるかどうかってくらいだ」

「へぇ~」

「反応薄いな・・・」


 確かに数十年に一回ってなると地球で例えればハレー彗星とかになるから珍しいことは分かるんだけど、いかんせん俺はそもそも数十年も生きた経験がないからいまいちピンと来ないんだよな・・・

 あと日本のファンタジーではありふれた存在になってしまってるし。


「それで、会話が通じるのはやっぱり従魔契約ってやつなのかな?」

「多分な。俺自身はやったことねぇから具体的なところは分からんが・・・飯をやってたら会話が通じるようになったって辺り、そいつがお前に心を許したからなんかしらの繋がりが出来たってことだろうな」

「他に従魔については何かないの?」

「フム・・・ちょっと待ってろ」


 父さんは本棚から一冊の本を取り出して開くと眼鏡をかける。

 相変わらず厳つい顔には絶望的に似合わねぇ~・・・


ゴスッ!


「何か言ったか?」

「いや?言って()いないよ」


ゴスッ!


「殴るぞ」

「殴ってから言うなよ・・・イテテ」

「全く口の減らねえ奴だ・・・あ~っと、これだな」


『従魔契約:魔物と戦闘を行い屈服させる、幼少期に育てて懐かせるなどによって従わせること。契約期間の長さ、従魔との絆の深さによって主と従魔の力が強くなる。』


 なるほど。好感度の高さでバフがかかるって感じかな。中々便利なおまけつきだ。


「よしっ、頑張って強くなろうぜ!」

「わん!」

「そういやお前、そいつに名前をつけてやらないと」

「あ、確かに」


 名前か・・・名前、名前・・・難しいな・・・。


「そうだな・・・ヴォルガ。ヴォルガってのはどうだ?」

「わん!」


 気に入ってくれたようだ。これからよろしくな、相棒!

ハレー彗星:75.32年周期で地球に接近する彗星。自分は最初にドラえもんで知りました。


ヴォルガ:ヨーロッパ最長で、モスクワ近郊を流れる「ロシアの母なる川」。作者の祖母が飼っていたシベリアンハスキーの名前でもある。

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