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1/1

開始

面倒事にはなるべく首を突っ込みたくはない。可能ならば見て見ぬフリをし、涼しい顔で生きていきたいものだ。

半ば引きこもりのような生活してきて幾数年、気がつくと私は光り輝く空間に突っ立っていた。


「…?」

「…あー、お目覚めかな。吸血鬼さん」


声の方向には、気まずそうな女性。衣服の端々にフリルを取り付け、首元には鍵型のペンダントとやたらに派手な格好である。


女は一息つきと、改めて此方を見てきた。


「ここはどこだろう…? といった顔だね。まあ当然だろうけど」

「そうね」


ひとまず私は、その女に攻撃を試みた。人差し指をそいつに向け、身体中の血液を指に集中させる。パン──という発砲音と共に凝固した血の弾丸が、命中することはなかった。


「…………」


女はことも無さげに素手で弾丸をキャッチしていた。手馴れた手つきだ、相当の手練なのだろう。


「ごめんなさい、気が動転してつい手が滑ったわ」

「…まあ、そういうことにしておくよ」


激高するか、もしくは何らかの行動でも繰り出すかと思っていたが、どうにも何もしてこない。面倒そうにやれやれと、血がついたベタベタな手を衣服に擦り付けていた。悪いことしちゃったかしら。


「貴方……んー、貴様を此処に呼んだのは私だ。なんとなく分かってるだろうが」

「どうやって連れてきたかは知らないけど、せめて事前に連絡つけるとか、連れていくよ〜とか言ってくれても良かったんじゃない? 貴方が誰か知らないけども」

「…………」

「…………」

「私が貴様を呼んだのは一つ、頼み事をしたいからだ」


スルーされた。


「実は私は…先日落し物をしてしまってな」

「へえ」

「この……ここをみてくれ」


女は首元に引っさげた鍵を見せてきた。よく見ると中央に不自然な窪みがある。これがなんなのだというのだろう。


「窪み?」

「そう、ここには…そうだな、力の結晶のようなものが嵌められてたんだが、この間、ある世界に降り立った際に落としてしまったんだよ…そこでだ」

「私にとってきて欲しいと」

「その通り」


「まず自分で探してみるべき…なんじゃないかしら」

「世界にはフィルターようなものがあるんだよ。正規の手段を取らず、無理やり入ると何が起こるか分からない。身体能力に大幅に弱体化したり、能力がヘンテコになったり…」

「悪いけど、お断りするわ」


私は面倒なことが苦手だ。誰かの落し物を探すなど、もっての外だろう。この女は何故私をピックアップしたのかは分からないが、間違いなく人選ミス。丁重にお断りさせていただこう。


「まぁ待て。話は最後までだ」


すると女は徐に鍵を外すと、私に投げた──。

私は手をかざしたが、鍵は掌をすり抜け右目に突き刺さり、消えた。何をする。


「その鍵を右目に宿した。鍵が右目にある間、貴様

はあ・る・程・度・の・デ・メ・リ・ッ・ト・を・相・殺・できる」

「…………」

「吸血鬼の特性である、太陽光による消失も勿論含まれる。お前は一日中、自由に動くことが出来るだろう。まぁ、ささやかな特権だ」


身体の中の、不安定だった場所がなくなったような感覚。面倒事はなるべく避けたいものだが、これは…


「落し物……力の結晶を探し出し、右目に突っ込むまでが一連の流れだ。おわかりかな」

「大体わかったけれど、期限とかはないのかしら? 私がだらけて、何時までたっても探さないなんてこともありえるわよね?」

「その鍵の力は永遠じゃない。ある程度の期間までしかデメリットを相殺できない上に、効力が切れたら世界から貴様ははじき出される」

「へぇ」

「まぁ、そのときは元いた森にでも戻すさ。無理やり連れてきた手前、な」

「元々暇だったし、暇つぶしも兼ねて行こうかしら。適当に探すつもりだから、そこはよろしくね。……最後に」


この女の言うことが何処まで本当かは分からないが、少なくとも此方よりは遥かな実力者。話は合わせておこう。


「何故私を選んだのかしら? 他に候補はあったんじゃないの」

「あぁ、ある程度の力があって、死にづらく、なにより──暇そうな奴がお前しかいなかったんだよ」

「…………」

「どうぞ、こちらへ」


女の背後にはいつの間にか青白い渦巻きがあった。煌々と輝くそれは、何処かへと繋がる転送路だということが直感でわかる。


「注意点がある、今から行く世界は偶に突出した強さを持つ者、致死性の高い現象や不可思議なことが平気で起こりうる世界だ。ヤバいと思ったら逃げるように」

「元々、私は面倒ごとは嫌いだからその点は安心して、そもそも弱点の消えた私に勝てる奴がいるとは思えないんだけど」

「あぁ……まぁ、うん。ゲートを潜ればわかる。まず目を覚ましたら、自分の状態をしっかり確認しな」

「?」


何はともあれ、ゲートに入るとしよう。あの女の言う通り、私は暇なのだ。弱点が消えたというのが本当ならば、暫くの暇つぶしにはなるだろう。


一歩一歩踏み出し、ゲートへと近づく。女はふぅとため息をつき、少し疲れたようだ。

そういえば


「私はモドニコ。貴方の名前は?」


自己紹介がまだだったな。


「いーから行きな! それっ」


女は面倒そうに手をかざすと突風が吹く。その勢いのまま、私はゲートに突っ込むのだった。


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