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三題噺もどき4

その時とその後

作者: 狐彪

三題噺もどき―ろっぴゃくろくじゅういち。

 



「ふぅ……」

 手に持っていた、えんぴつを置き、一息つく。

 細々としたものを見て疲れた目を労うように、目頭を軽くもむ。

 今はパソコン作業をしているわけではないから、眼鏡をかけていないものの、近くを見るのは疲れる。遠視なら全く疲れないのに……。

「……」

 疲れにくくなるような眼鏡とか無いんだろうか。

 この身で眼精疲労とかなりたくないだろう。吸血鬼のくせにとか。

 それなりに回復は早い方ではあるが、蓄積されると疲れるのは同じなのだ。

 人であろうとバケモノであろうと。

「……」

 外は雨が降り出したのか、激しい雨音がする。

 こんな夜中に降りだすなんて迷惑なものだ。

 私は起きているしこの時間が行動時間だから関係ないが、大抵は寝ている頃だろう。これで目が覚めるような人も居るんじゃないだろうか。起きない人もいるかもしれないが。

「……」

 疲れたせいか、少し霞む視界の中で時計に目をやる。

 そろそろ頃合いだろう……休憩もかねて飲み物でも淹れに行こうか。確かココアが微妙に残っていたはずだ。あれを飲み干さなくては次が買えない。

「……」

 すこし本気で耳を澄ませば、この雨音の中に階段を上る音が聞こえてくる。

 アイツのことだから傘なんてものは持って行っていないだろう。降られる前に返ってこられたようで何よりだ。

 玄関前で水も滴るなんとやらを再現されても困るからな。

「……」

 机の上に置かれたコップに手を伸ばし、立ち上がる。

 凝り固まっていたからだが、ほとんど予備動作もなしに動いたものだから少し悲鳴を上げた。関節が痛むが、まぁたいしたものではない。どうせこの後また仕事をするのだから。

 姿勢が悪いのはどうにかしたいところではあるとずっと言っているが、結局どうにもなっていない。どうしたら猫背は治るんだろうな。

「……」

 耳で追っていた足音がさらに近くなり、きっとこの階の廊下に出たであろうタイミングで。

 部屋の戸を開け、廊下に出る。

 人が居なかったそこはヒヤリと冷たい空気でおおわれている。

 電気もついていないから真っ暗で、どこか不気味ささえ感じる。人間であれば、ああいう木目に人の顔を見て怯えるのだろう。

 私は、視界は良好なのでなにも問題はない。

「……」

 裸足のままでいるので、廊下の冷たさがダイレクトに伝わってくる。

 仕事中に動くわけでもないので、冷え切った足ではその冷たさもあまり意味がない。足の指先なんて結構冷えて感覚が朧げだ。……靴下を履けとどやされそうだ。あれは窮屈であまり好きではない。家でなら履かなくてもいいだろうと思う。

「……」

 足音を立てずに廊下を進んでいき、リビングへと向かう。

 その途中にある玄関の目の前で一つの気配が立ち止まる。

 くるりと鍵が回り、ドアノブが動き、扉が開かれる。

「おかえり」

「……ただいま戻りました」

 そこに立っていたのは、私の従者である。

 私がここに居ることに気づかなかったのか、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。そこまでではないか。こいつは驚きの類はあまり顔に出ない。残念ながら。

「……」

 あまり扉を開かずに、土間に入り込む。

 知らない人が見たら、何かに追われているのかという感じだが、コイツはいつもこんな感じだ。家の中を見られるのが嫌とかではなく、さっさと部屋に入りたい上に人に見られるのが嫌だからそそくさとこうして入ってくる。

「……」

 その姿はいつもの小柄な少年ではなく、美しい顔立ちの青年である。

 同じ服を着ているのにどうしてこうも印象が変わるんだろうなぁ……こんなのが教室にでもいたりしたら大変なことになりそうだ。奪い合いが始まる。

「何を買って来たんだ?」

 手に持っていたトランプ柄のエコバックを床に置き、こちらに背を向けながら靴を脱ぐ。

 そのまま脱いだ靴は靴箱に入れる。偉いものだ。

 私は入れない。毎日散歩に出かけるからな。いちいち取り出すのが面倒だ。

「ちょっと材料を……珍しいですねこの時間に部屋から出ているの」

「いやなに。キリがよかったのでちょっと飲み物をな」

 こちらの質問に返答しながら、立ち上がる。

 身長が私より微妙に高いのがどうにも癪に障る。

 しかしまぁ、コイツのこの姿はいつ見ても飽きないほどに美しいし、いつまでも見て居たいと思う。細身のパンツがよく似合うんだよなぁ……きっちりと履くから私よりウェスト周りが細く見えるのもなんとも。今日は上にパーカーを着ているからそれは隠れているが。

「ついでにお前のその姿を見ておこうと思って」

「…………」

 あからさまに嫌そうな顔をされた。

 普段の意趣返しだ。甘んじて受け止めろ。

 ついでに猫の方も見せて欲しいとは言わないでおこう。





「……何を飲むんですか」

「ココアが残ってただろう」

「あれは今から使うので無理です」

「なら紅茶……」

「明日使うので無理です」

「……お前」

「なんですか?」






 お題:えんぴつ・教室・ココア

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