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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

コインロッカーベイビーの話

作者: 風土帽

真愛(まい):語り手。ドラッグストアの店員。特にオカルトが好きというわけではないが、明子からよく話を聞いている。人付き合いはいい方。


明子(あきこ):真愛の同僚で友達。生粋のオカルト好き、真愛によくオカルト話をしている。寺や神社巡りも好きで、真愛を旅行と称して連れまわすこともある。






「ねえねえ、コインロッカーベイビーの都市伝説って知ってる?」

「あんたほんっとそういう話好きね」



 全く、明子のオカルト好きも困ったもんだ。私は特に都市伝説が好きなわけではないし、怖い話も好きではない。いつも適当に聞いてあしらって終わりだ。



「まあまあ聞いてよ」

「聞くだけね」

「よっしゃ!

 その話はね、とある女性が一人で赤ちゃんを育てるところから始まるの。でも、一人だけで育てるなんて無理があるし、もう疲れちゃったんだろうね。その人はコインロッカーに赤ちゃんを閉じ込めて捨てちゃったんだ。

 その女性は後ろめたさや恐怖から、そのロッカーを遠ざけるようにして通勤してたんだけど、ある時コインロッカーの近くで泣いている子供がいたの。女性は子供を心配して、『名前は?お母さんはどこ?』って聞いたんだって」

「それで?」

「子供はバッと振り向いて、鬼の形相で『それはお前だぁ!!』」



 明子は迫真の演技で、その言葉を叫んだ。

 よくある怪談噺の最後だ。もうその手の話は何回も聞いたし、その演技も何回も見た。今更驚かないよ。



「はいはい、よくあるやつね。これで終わり?」

「つれないな~。都市伝説自体はこれで終わりだけど、元ネタが実際にあった事件だってはっきりしてる稀な話なんだよ」

「え?」



 都市伝説は元ネタになった事件があることがあると、明子から聞いたことがあった。そこから尾ひれをつけて、怪談になっているものだと。



「場所は伏せるんだけどね、駅のコインロッカーに赤ちゃんの死体を遺棄したって逮捕された女がいたの。その赤ちゃんは不倫相手との子で、妊娠に気づいたときには中絶できる時期を過ぎてたみたい。それで、産んだはいいけど家に連れ帰れるはずもなく、産まれた赤ちゃんをゴミ袋に包んで、コインロッカーに入れて鍵をかけたんだって。

 んで、その翌日にコインロッカーから異臭がするって駅員さんから警察に通報があって、開けてみたらゴミ袋に入った死体があったって事件ね」

「うへえ~、想像するだけで気持ち悪いし、胸糞だね」

「ね。それで警察が調査したら、ばっちり監視カメラにその女が映ってて逮捕ってなったんだって」



 その女にとって、望まない子だから捨てたって感じなのだろう。法律を犯したり不倫はよくないし、何より自分の子を自分で捨てるというのが理解できない。



「で、朝から胸糞悪い話を聞かされた私に何かないのかい?明子さんや」

「ごめーんね☆」

「うわ、うっざ」

「あははっ、ごめんって!こういう話聞いてくれるの真愛しかいないからさー、楽しくて!」

「もうっ」

「日頃の感謝を込めて、明子さんがコーヒーを奢ってしんぜよう」

「スターニャックスね」

「それは、また長編を話してもいいと?」

「奢ってくれるならね」

「やった。その言葉、忘れんなよ?」

「はいはい」



 そんないつもの職場のロッカー前での会話。

 ただ、今回の話だけは妙に記憶に残ってしまった。




 ◇ ◇ ◇





「お疲れさまでしたー」

「「「お疲れさまでした」」」



 仕事が終わり、あとは電車に乗って家に帰るだけ。

 職場は駅から近く、すぐに電車に乗れる。家のある駅までは10駅ほどでつく。今住んでいる賃貸マンションは、駅から近いが都心からは遠いため少し家賃は安め。電車に乗っている時間は長いが、スマホをいじっていれば特に気にならない。



『次は~、はすみ駅~、はすみ駅~、お出口は左側です』



 私の降りる駅だ。この駅は、近くの観光施設までのアクセスがいいためコインロッカーが他の駅より多めだ。通路にずらーっと並んでいたり、奥まった小部屋に所狭しと並べられていたりする。

 私のマンションに行くには、ロッカーがある小部屋を通り抜ける方が近道で帰りはいつもそっちを使っている。朝は混んでいることが多いので、広い通路がある方を使っている。


 コインロッカーベイビーの話を聞いたからか、いつものロッカーのはずなのに妙に気になった。

 今日はやけに赤が目立つ。使用中のロッカーが多い。そういえば、世間は夏休みか。学生の頃は意識するが、社会人になると全く関係なくなるのですっかり忘れていた。



 カツカツカツ



 この近道はあまり利用する人がいないのか、帰宅時間でも人通りが少ない。今日は私しかいなかったため、私の靴の音だけが響いている。


 そろそろロッカーを通り過ぎて、駅の出口につきそうだ。





 オギャーオギャー




 突然聞こえた泣き声に足を止める。

 辺りを見回すが、誰一人いない。

 耳を澄ましてみると、泣き声は仕切られたロッカーの方から聞こえる。あの話を聞いたからか、その時だけは声がする方を確認しに行ってしまった。


 声がするロッカーの方を覗いてみたが、誰もいなかった。それなのに声はまだ聞こえている。

 自分の心臓の音が嫌に大きく聞こえる。

 あんなのただの噂話だと思ってた。過去の事件もそうだと思いたかった。



 でも、本当だったら?

 このまま見過ごしてもいいの?




 少し考えてから、私はその声がするロッカーを探すことにした。

 その声のもとはすぐに見つかった。不自然に一つだけ青いランプがついた、空いているロッカーがあった。泣き声はそこから聞こえる。


 心臓が早鐘を打っている。心なしか泣き声がさっきより小さくなった気がする。

 まずいと思い、意を決してロッカーを開ける。



 ガチャッ



「何も…ない……?」



 ロッカーの中は空っぽだった。

 そして、あれだけ聞こえていた泣き声はぱたりと聞こえなくなっていた。



「そうだよね、そんな訳ないよね~」



 はあとため息をつくと、気が抜けたのかロッカーの扉から手を放してしまった。



 バアンッ!



「わあ!!」



 勢いよくロッカーの扉が閉まり、一人で驚いてしまった。

 どうしてロッカーって手を放すと勝手に閉まるようになってるんだろ!びっくりするじゃん!

 ………なんでロッカーに対して怒ってるんだろ。疲れてるわ。赤ちゃんの泣き声が聞こえたのも、疲れからの幻聴だろう。きっとそうだ。



 今日は早めに寝よう、そうしよう。





 ◇ ◇ ◇




「—―ってことが昨日あったんだけど。あんたの話のせいよ」

「ありゃー、そりゃすまんね」

「そうよ」



 昨日あったことを明子に話した。

 早めに誰かに話したかったのと、あんな話を聞かされたから幻聴を聞いたのだと案に言うためだ。



「でも、何もなくてよかったね」

「そうね。元ネタの事件は本当なの?」

「本当だよ~。ほら、これ」



 そう言って見せてきたスマホ画面には、コインロッカーに赤ちゃんを遺棄した女の初公判が行われたというニュースが映っていた。



「これは最近の事件だけどね。最初に起こったのは1970年代、その3年後に同様の事件が起こってから、1973年に大都市の駅を調査したら1年で46件の遺棄事件が発覚したんだって。社会問題にまで発展しちゃって、そこからコインロッカーの使用期限を5日から3日に短縮して、監視カメラも置くようになったんだって」

「よくもまあ調べたこと」

「そういうのも都市伝説の醍醐味ですから」



 裏話とか元ネタって気になるじゃん?まあ大体胸糞だけど、と苦笑交じりで話す。

 確かに聞いていて、気持ちのいいものではない。実際の事件ともなるとなおさら。



「まあでも、実際に自分が遭遇したらすぐ駅員さんに報告した方がいいね」

「今度からそうするよ」

「そうそう」



 その後はいつもの雑談をして、仕事に入った。




  ◇ ◇ ◇




「お疲れさまでした」

「お疲れさま。悪いね、遅くまで残ってもらって」

「いえいえ」



 ふ~、疲れた。今日はかなり店が混んでいたので、いつもより遅くなってしまった。

 いつもは誰かいるロッカールームも今日は一人だ。



 ガチャッ


 オギャーオギャー

 バタンッ!



「……なんでっ……」



 ロッカールームを開けると、赤ちゃんの泣き声が聞こえた。びっくりした勢いで扉を閉めてしまったが、そうするとパタッと赤ちゃんの泣き声は聞こえなくなった。


 きっと何かの音が赤ちゃんの泣き声に聞こえただけ、と自分に言い聞かせて再度扉を開ける。



 ガチャッ






 何も聞こえない。

 やっぱり聞き間違えか。ほっとして自分のロッカーの前まで足早にむかう。



 オギャーオギャー



 さっきよりも小さな声が聞こえた。

 しかも、私のロッカーの中から。


 私の頭の中には怖いと、何でが交互に駆け巡る。

 でも開けないと家に帰れない。家の鍵も定期もロッカーの中だ。


 意を決してロッカーを開ける。



 キィィィ



 何もない。

 あるのは私の荷物と私服だけ。赤ちゃんの声もしなくなった。

 私は急いで着替えて、荷物をひっつかみ駅まで走った。



 電車に乗った後も心臓がバクバクいっていた。

 

 今日も早く休もう、忘れよう。




 ◇ ◇ ◇




 その後も何回か同じことがあった。

 何回か遭遇して分かったことは、必ず私が一人だけの時に聞こえるということと、時間帯は問わないということ。それが分かってからは、なるべく一人でロッカールームに入らないようにした。


 しかし、シフト制なので毎回誰かと休憩や帰りかぶるということはない。

 その日は遅番が私一人だったので、一人だけでロッカールームに入らなければいけない。



 呼吸を整え、気合を入れて扉を開ける。




 ガチャッ





 何も聞こえない。



「は~」



 ようやく得体のしれない何かもあきらめたか。

 なんか朝から疲れたな、早く着替えて仕事しよう。


 いつものように自分のロッカーを開け、着替えようと制服に手を伸ばす。







「よかったね」



 バアンッ!!



 自分の耳元で子供の声が聞こえた。

 驚いてロッカーを勢いよく閉めた。



「もう、やだ……」



 床にへたり込んで、そのまま動けなかった。


 その後、時間になってもなかなか来ない私を心配した店長が、ロッカールームでへたり込んで泣いている私を見つけて、今日はもう帰っていいと言ってくれた。

 その時の私は異常だったのだろう。店長から、悩み事があるなら相談に乗るから、気持ちが落ち着くまで休みなさいというメールが届いた。

 

 私もしばらくはロッカーを見たくないし、その場所に行きたくもなかったのでずっと家に引きこもっていた。


 1週間ほど休んで少し気持ちも落ち着いてきたころ、明子から今から家に行くとメッセが届いていた。



「大丈夫?」

「うん、前よりは」

「よかった。それで、何があったの?」



 明子に今まであったことをすべて話した。だんだんと涙声になってしまい聞きづらかっただろうに、明子は最後までうんうんと背中をなでながら聞いてくれた。


 私が話し終えると、明子は少し考えた後どこかに電話し始めた。

 明子は電話が終わると神社に行こうと、そのままあれよあれよと車でとある神社まで連れてこられた。



「こんにちは。神主さん、この子がさっき電話で話した子です」

「こんにちは。ふむ、これはこれは…………真愛さんだったかな。どうぞ、こちらに」

「あ、はい」



 促されるまま神社の中に入ると、明子と一緒にここで待っているよう言われた。

 程なくして神主さんが何か唱え始め、隣から小声で頭を下げてと言われたので言われた通り頭を下げた。



「はい、ご苦労様でした」

「「ありがとうございました」」



 訳がわからないうちに終わっていたらしい。



「明子、何だったの?」

「ん?真愛の話聞いて、なんか霊がついてるかもって思ったから、お祓いが得意な神主さんにお願いしたの」

「真愛さん、貴方には水子の霊がついていました」

「……え?」

「貴方が自分に気づいてくれたから、嬉しくて憑いてきてしまったのでしょう。もう、その子は空に還りました。今後は心配ないと思いますが、念のためこのお札を自分のロッカーと家に貼っておきなさい」



 その後、お布施を払い、そのお札も2枚買い、言われた通り自分のロッカーと家に貼った。それからは一人でも赤ちゃんの声は聞こえなくったし、仕事にも徐々に復帰できるようになった。

 帰りの車の中で明子から、ここは鬼子母神が祀られていて水子供養も行っている神社だと聞いた。続けて自分の怖い話でこんなことになってしまい申し訳ないと、謝られたが別に明子のせいではないので気にするなと言っておいた。

 今回は明子のおかげで助かったけど、もうこんなことはこりごりなので都市伝説はほどほどにと釘はさしておいた。



 お祓いとお札のおかげか、明子から都市伝説を聞いても特に何事もなく過ごせている。


 ただ、あの責めるような泣き声が今も私の耳にこびりついて離れない。

 

 

 

 

 


水子:生まれてあまり日のたたない子、新生児や流産、または人工中絶した胎児のこと。


 今回は都市伝説をモチーフにしたお話だったので、幽霊の怖い話にしてみました。最後の一文、水子の霊は嬉しかったのに、語り手にはなんで責めるように聞こえたんでしょうね?そんなことも考えつつ、読んでいただけるとまた楽しめるかなと思います。

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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