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流されて生きてきた。それも悪い事では無いけれど


雪人さんが運転する車と、伏見さんが運転する車で、隣町まで来た。

 途中で伏見さんの車とは別れて、ボクは雪人さんの車に乗って、街の外れにある二階建ての住宅の近くにやってきた。


 メンバーは、雪人さん、悠太くん、秋山さん、麻波さん、佐藤さん、ボクの6人だ。


 流石に車で目の前まで行くのはバレてしまうから、車を遠くに止めて徒歩で移動した。


「悠くん。沙織さんからきたLINEの通り表札に村田って書いてあるよ」


 現場を偵察に行った麻波さんが帰ってきた。どうやら彼女の足はオリンピック選手と変わらないくらい速いらしい。


 その脚力を発揮する事にならなくて本当に良かった。


「OK。ならここで間違いねえな。状況は?」


「見張りもなし、門も私たちなら簡単に越えられそうだよ」


「じゃあ正面突破だな。何か物音とかしなかったか?門の中に見張りがいるとか」


「……えっとね。あんまり言いたくないんだけど女の人の声しか聞こえなかった」


 山本さんの言う通り智はここに居るって事だよね。


「それなら私と麗奈さんと涼夏は外で待機かしら」


『お姉さんは悠太と行く』

「いや、外で待ってても良いんだぞ?」


『行く』

 佐藤さんと悠太くんは気を使って、外にいるよう提案したけど、秋山さんの意思は固いようだ。

 女性なら見たくない場面のはずなのに、この子はどうして一緒に行きたがるのだろうか。


 智が中でどんな扱いを受けているか。ボクしか知らない。ボクが知ってるのも触りだけで、もっと酷いものになっているかも分からない。


『ここにいるメンバー全員、女性を食いものにするような人は許しておけない。悠太は一層それが強い。お姉さんは悠太のストッパーでもある』


「お前が人質になるかもしれないだろ」


『悠太が守ってくれるから心配ない。必要なら琥珀も呼ぶ』


「だーっ!分かったよ。だけど油断はすんなよ?」


『大丈夫。もしもの時はこれを使う(っ>ω<c)☆.°』


 秋山さんが取り出したものは、黒い長方形の物体、先っぽには金属の棒がついてて、スイッチを入れると、バチバチと光と音が鳴った。

 テレビでしか見たことないけど、スタンガンの音ってこんなに大きいの?


『沙織に貰った特別製( *¯ ꒳¯*)エッヘン』


「威力マシマシじゃねえか!俺にくれた拳銃といいあの人は限度ってものを知らねえのか!」


 そうだよね。人を殺せそうだってボクも思った。


「使う機会がねえことを祈るよ」


 悠太くんはそう言って歩き出した。


 僕達も後に続く。住宅に近づくにつれて、麻波さんの情報通り、智の叫びに近い喘ぎ声が聞こえてきた。


 それが聞こえる度に胸が張り裂ける思いになる。

 あの時死んでおけば良かったんじゃないか。そう思いながらも、仮に世間を動かせたとして、救助された智の心の傷は癒える事はあるのだろうか。

 もしかしたらボクと同じ道を辿ってしまうんじゃないか。


 それはボクたちが救助したとしても、元の智は変わり果ててしまっているんじゃないか。


 悲観的な事ばかり頭に浮かんでしまう。


 頭を振って考えるのをやめた。

 ここまで来たんだ。後はなるようにしかならない。


 ボクには何も無かった。虐められて学生生活を過ごしたし、両親から期待もされてなかった。

 ボクの人生に彩りをくれたのは智だ。


 悠太くんが言った。武力は無くとも、心は強くあれ。

 ボクは弱い。親や智が決めてくれて、従うだけだった。


 智はボクのこと優しい人って言ってくれたけど違う。いつだって、嫌な事を裂けたい。頷いた方が相手が喜んでくれるから、逆らわなかっただけだ。


 「ボクがボクの方向性を決めたのは、死のうとした時だけだった」


「どうした?急に」


「いや、悠太くんみたいに、自分のしたい事を明確に表現出来るのが羨ましくて、かっこいいなーって思ったんだ」


「流されるのも悪いことじゃねえよ。俺だって流されたから、まだ生きている訳だし?」

 ボクがそう言うと、彼は暗がりでもわかるくらいに、ニカッと笑った。


「俺が好き勝手生きているのは姉ちゃんの教えだよ。生きている以上時間は平等に進む。時にはたくさん悩むこともある。でも出来るだけ前に、前に進み続けなさい。失敗かどうかなんて、死ぬ時まで分からないってな!」


「いいお姉さんだね。凄い人なんだろうな。会ってみたいかも」


 この子を導くくらいだから女神様とか。


「俺が辿り着く前に、朔さんが飛んでたら、もしかしたら会えたかもね」


 悠太くんは一瞬俯いて、苦笑いをした。


「亡くなってるんだ。ごめんね」


「良いんだ。姉ちゃんは俺の心の中で生き続けてっから、な、雪兄」


「心の中という、まんま生き写しみたいだぞ。悠太は……そうだな小さい葉月って感じだ」


「小さいって言うな。姉ちゃんは口悪くねえよ。優しくて暖かくて、色んなことを教えてくれた」


『シスコン。お姉さんだって優しくて暖かい上に柔らかいと思うけど、君に色々教えるよ』


 お姉さんを自慢する悠太くんに、秋山さんが割り込んだ。嫉妬なのかな。


「柔らかさで言えば、菜月姉ちゃんが1番だよ」


 悠太くんが毒づいた。

 これから殴り込みに行こうって言うのに彼らの緊張感の無さが、場馴れしている感を醸し出していて、心強く感じる。

 緊張はほぐれた、と思う。



「酷いな」


 住宅の目の前まで来て、雪人さんが呟いた。

 酷いというのは、智の叫び声。最近できた住宅で防音もそれなりだろうに、ここに居てもはっきり聞こえる。


 声の発生源は2階、カーテンから光が漏れ出てるあの部屋だと思う。カーテン越しに何人かのシルエットが動いてる。


「酷い。けど、これなら多少大胆に行ってもバレやしねえだろ」


 悠太くんは、2階のカーテンに映ったシルエットを一瞥すると、壁を蹴って、門を飛び越えて、中から門の鍵を開けてくれた。


 門を入ると、住宅の1階は、明かりが消えていて、無人なことが伺える。

 

 タタタと悠太くんが玄関へと掛けていった。

「流石に鍵は空いてないか」


「別にこんだけ騒がしいんだから窓割って入ればいいんじゃないか?」


「確かに。じゃあそれで、玄関開けてくるから待っててくれ」


 悠太くんは手馴れた様子で、窓を蹴り割って、家の中へと入っていった。


 中に入っていった悠太くんが玄関の鍵を開けてくれたのを待って中へと入り、真っ直ぐ2階をめざして階段をあがる。


 部屋に近ずくにつれて大きくなる智の声。

 どうやら今、旦那より男の方が優れているか言わされているようだ。

 ボクたちが部屋の前まで来ているのも知らずに、智をいたぶって遊んでるんだ。


 自然と呼吸が早くなる。ボクがボクでなくなる感覚。今まで1度も怒ったことの無いボクだけれど、大好きな智を好き勝手弄んだこの人達だけは絶対に許せない。


 部屋の中に飛び込んだ。扉を開けたのはボク。真っ先に飛び込んだのもボク。

 部屋の中には10人くらいの男がいる。みんな全裸で、ベッドを囲うように自分の番をニタニタしながら待ってる。


 ベッドの上には3人の男が何かに群がってる。ボクはそれが何か認識する前に駆け出した。

「いやぁああ!見ないでぇ!」

 智の悲痛な声。ベッドの真ん中から聞こえる。


「智!智ぉお!」


 遅くなってごめんね。助けに来たよ。


 頬に衝撃を受けたボクは床に伏した。

 痛い。でも智の所に行かなくちゃ。


「誰かと思ったら旦那かよ。今更になって助けに来ても遅いんだよ」


 ベッドの上で智に群がっているうちの1人が腰を振りながら言った。


「やめろー!!っぐ!」


 床に這いつくばって進もうとしてるのに、上から踏みつけられた。


「この女はもう普通の社会じゃ生きられねえからよ!今俺たちでお別れ会をしてたんだよ。お前も最後にヤルかぁ?」


「智を離せよ。借金だって偽物じゃないか」

「証拠はあんのか?無いから嫁さん取られてんじゃん」


「帰せよ!ボクの妻を帰せよ!!」


「言い訳できなくなったらそれかよ。いやー返してやりてぇけどお前の妻が俺のがいいって離さなくてよ」


 そんなわけない。智はそう言う行為を好きじゃない人と好んでするタイプじゃない!


「なんだそりゃ。童貞の妄想かよ」


 全員がいつの間にかそこに居た彼を見て、その場の空気が変わった。

 ボクも気づかなかったけど、悠太くんが男の後ろに立って冷ややかな目で男を見下ろしていた。


「なんだぁ?てめぇ」


 男はヘラヘラした態度のまま、聞いた。


「俺か?俺は天使様だよ。そこの朔さんの守護天的な?」


「なんだ頭のイカれた女かよ!あっはっは!こりゃいいや!味方を連れて妻を取り返しに来たかと思えば、仲間は小学生の女!」


 その場の男たちが笑う。


「旦那も女みてぇな顔してるからまとめて売りに出してやろうぐびゃ!」


 男の言葉は最後まで続かなかった。

「黙れよ」

 悠太くんが男の顔に膝蹴りを叩き込んだから。

 蹴りに怯んだ男は智から離れた。そこを狙って悠太くんは男の股を蹴り上げた。

「ふぐっ!」

「んふ。これで男としてのお前は終わりだなぁ!」


 呆気に取られた敵を放置して、徹底的に男を叩きのめす。

 腹を蹴り、頭を踏みつけ、繰り返し、繰り返し。


 智に群がっていたうちの2人もいつの間にか智から少し離れている。

 背中の上に乗せられた足も重さを感じない。今しかない。ボクは踏みつけから這い出して智の元へと駆け出した。


「んで?次は誰が相手してくれんの?」


 悠太くんと入れ替わり、智の前まで来た。


「智、助けに来たよ」


「……来ないで……見ないで……もう放っておいて」


 涙を流して声を震わせながら蚊の鳴くような声だ。

「遅くなってごめんね」

 液体塗れの智をそっと抱きしめた。

「あの時黙って見送った癖に触らないでよ!」


「ごめんね」


「私はもう朔なんか嫌いなんだから帰ってよ!」


「ボクは智が好き」


「こんなに汚れた私を抱けるの!?」


 ボクは暴れる智を力いっぱい抱きしめた。


「抱ける。ボクには智しか居ない。智がどんな思いで居たなんて知らない。ボクは智が好きだから」


「……動画だって見たんでしょ……酷いことだってたくさん言った」


「ボクのより良かったんだっけ。良いよ。智が望むことは全て受け入れる。だから智はボクの奥さんで居てよ」


 そう言うと智は黙り込んだ。


「待ってて、僕も加勢してくる。彼らはボクの為に戦ってくれてるから」


「んあ?もう終わったけど?俺達外でてるから続けてくれていいよ?」


 どうやらボクが智と話をしている間に全員倒しちゃったみたい。

 悠太くんと雪人さんめっちゃ強い。

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