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☆7 完結

「ところで魔王。良心を学ぶために俺のところに来たのだろう。それは学べたのか? 善人にはなれそうか?」

魔王の小屋の前に置かれたベンチに腰掛け、なんとなく去りがたくて話しかける。


「いやだなあ、勇者さん。『良心』と言うのは良い心ではなく、善悪を判断してそれに従うことをいうのです。どこに判断基準があるのかを学びに来たのです」

「そうなのか。お前国語の先生みたいだな」


魔王はどや顔だ。そしておどけたように大げさにもろ手を挙げて言う。


「とりあえず、わかりました。力こそ正義です! 力がある側が正しい。町の人たちを見て学べましたよ! 勇者さん。私が弱いとしいたげられましたが、強いと好きに行動できました。そして、問題が起きても強い勇者さんが来ることで解決しました」


「いや、そうではない。初めから暴力はいけない。話し合いで解決をしなければならないんだ、魔王。なんか変な学び方をしているぞ」


「私は話し合いなどする前に殺されましたが?」


「……その件は悪かった」


確かに。魔王城への攻撃は完全に奇襲であった。それまで国は魔王から使わされる魔獣によって国を荒らされ、辛酸をなめさせられてきたので、排除するのは当然の動きだったのだろう。そして魔王が強すぎたからこそ話し合いの場を設ける余裕もなく、完全に隙を見ての攻撃を仕掛けたわけだ。


だが今こうして話してみればわかる。魔王は驚くほどに話が分かるやつだった。たまに価値観の違いが顕著にあるが、それを差し引いても、話しやすい。むしろ今まであった中でもいいやつの部類だ。


悪かったと頭を素直に下げると、何も言わずににっこりと笑っている。変身も落ち着き、俺の仲間と似た雰囲気で優しそうに見える。


簡素な小屋のような家の向こう側に夕日が沈んでいく。


穏やかに話していると、魔王の瞳に不思議な星のきらめきがあるのがわかった。そういえば変身していても、いつもあったような気がする。その瞳を見ていると吸い込まれそうになる。


(不思議な奴だな。話していると気を許したくなる)


そんなことを思いながら、しばらく色々な話をつづけた。


ふと、違和感に気が付く。魔王の周りに日の光とは異なる光が。


「勇者さん。いままでありがとう。おかげで楽しく過ごせました。もう時間切れのようです」


まるでおとぎ話のお別れのシーンのようだ。


「なんでだ? ようやくお前のことがわかりかけてきた。もう少し一緒に暮らそう。色々教えてやるから、色々教えてくれ」

「もう魔力が残っていないのです」

「あの状態から生き延びたんだ。お前の力ならどうにかできないのか?」

「生き延びた? いやだな。私は死んでいますよ。首と体がサヨナラしたんですよ。魔力が残っていたので、魔力の器で魂を包み込んで、少しばかりこの世を名残惜しんでいたのです」


俺も明らかに魔王はあの時死んだのだと思っていた。国軍も含めてその死を確認したはずだ。証拠に死体を持ち帰るはずだったが瘴気が濃すぎて近寄れなかったため断念していた。そうか、死んでしまっていたのか。


「でも勇者さんと話し合っていてわかってきた気がします。これが話し合いというやつですね。勇者さんと過ごした日々は、今まで生きていた中で一番穏やかでした。まあ今は死んでますけどね。できることなら来世はそんな、強さと優しさを持った人のもとに生まれたいですね」


魔王は寂しそうに笑う。


「こんどは、殺さないでくださいね」


そう言って光とともに消えていった。魔王ならもっとおどろおどろしい終わりを迎えそうだが、まるで妖精が天に帰るかのような消え方だった。





実家に帰ったら魔王が雑用していた。そんな思いもしなかった状況は振り返ると数日間のあっという間の出来事だった。


魔王が去ってからも、彼の問いかけを何度も繰り返し思い出す。何も理解していなかった。この世の善悪の基準というものを。自分が今まで思うままに振るってきた力のありようにも。もう一度向きなおろうと思った。


それに。きっと生まれ変わってきた魔王となら仲良くなれそうだ。もう一度出会ったらどんな話をしよう。彼が何を思って魔王として過ごしていたのか。何のために良心を学びに来たのか。そして、生まれ変わったら何をしたかったのか。


また会えるのを信じて。




☆☆☆



十年後。


剣術指南役として国王に招集された俺は、対峙した幼き王子の瞳の奥に見覚えのある星の輝きを見た。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ありがとうございます。 ありがとうございます。 ありがとうございます! 感激です! タイトルから、コメディなんだろうなと思っていましたが、それ以上にハートフルな物語。 ちょっと天然…
[良い点] 魔王様の、素の純粋な質問と、頓珍漢な理解と、力こそ正義な結論など、コミカルな笑いの提供……そして、最後。 [一言] 強すぎて、周囲は恐怖しか覚えなかったのだろうな、と。ぜひとも、穏やかに話…
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