☆6
妙案とばかりに魔王が変なことを口走った。
間髪入れず、発言の通り俺とそっくりな姿になる。
「どうです?勇者スワンそのものでしょう?」
気味が悪いくらいにそっくりだ。いや、自分の姿は自分では直接見られない。自分が思っている以上に魔王は俺にそっくりなのだろう。
流石に気持ちが悪かったので、やめてもらった。そして俺と年頃背格好が同じ男に変身してもらう。これなら同期のように見えるし、動きやすそうだ。
案の定町中をはしゃぎまくって動き回る魔王。
「勇者さん。母親が子供を叩いています。あれは良いのですか?」
「いや、やりすぎは良くないがしつけの一環だろう」
「学びました! 『自分が正しいと思ったことを伝えるための暴力はいい』ということですね」
「語弊があるような気がするが」
「ほら、あの子供もそれを理解したようです。あの子が欲しいおもちゃを取った弟を叩きました! あの子もちゃんと学習しましたね!」
「いや、小さな子を叩いちゃだめだよ」
小さな子を叱る母親を見て、変なことを学んでしまったようだ。
「あ、勇者さん! 男の人と女の人が喧嘩してますね! おお、女の人口が上手い! あおり上手だ。おっと、男の人が手を出しましたね。あの人も学習した人でしょうか」
「いや、男性が女性に手を挙げるのはだめだろう。止めてくる」
魔王に変なことを学習されても困る。というか、ここで学んだことを何に使うというのか。そんな心配もあり、早急に暴力を魔王の目から排除する。
困惑顔でなおも周りをきょろきょろする魔王。
「勇者さん。難しいです。私には基準がわかりません。ああ、あそこで殺戮が行われています。止めた方が良いのですね?」
「いやいや、あれはチキン屋が鳥を絞めているんだ。食べるんだからいいんだよ」
「なるほど。食べるためならいいんですね! ではあそこの犬さんを絞めてきます!」
「いやいや、犬は食べないから!」
「何でですか?」
何でかって?それは改めて聞かれると返答に困る。しかし、ここで適当に答えても後が怖い。真剣に考えて、答えた。
「何でって、……かわいいし、かしこいし。あとコミュニケーションが取れるから?」
「なるほど。醜く愚かで理解できないものは生きている価値がないということですね」
「いや、そこまでは言っていないけど」
「なんというか、人間ってとてもあいまいな生き物ですね。なんで私が殺されたかもなんとなくわかってきました」
「それは……」
そう言われてしまっては立つ瀬がない。確かに魔王退治をすることに至った基準とは何なのだろうか。もちろん人間にとって脅威だったからに他ならない。しかし、怖いから問う理由で敵対するすべての生き物を殺していいわけでもない。魔王と話していると哲学的になってくるのが不思議だ。
なんといえばいいのかわからなくなり、俺が押し黙ったのを見て、「帰ろうか」と言う魔王。この日も魔王の小屋に引き返すことになった。