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☆2

一年以上経っているのについ先日のように思い出す。

魔王城へ乗り込んだときの恐怖と、ここまで来たかという嬉しさと。


魔王は強かった。おそらく仲間の一人でもかけていたら倒すことはできなかっただろう。


国軍総出で魔王城周辺の雑魚を倒し、ほかの勇者チームが魔王城の中の強敵を倒し、無傷でたどり着いた俺たちの精鋭チームが十人総出でかかって、たった一人の魔王をようやく倒せたのだ。


もう一度やれと言われてももうできないだろう。それほどまでに綿密な計画の末に行われた壮大なる奇襲攻撃だった。


魔王を倒したことで魔王が使役してた魔物たちもいなくなり、国には平和が訪れた。


魔王城から王都に凱旋帰国した俺たちはまさに筆頭勇者様御一行だ。


地がうなるかのような大歓声を受けて帰国を果たし、ほかの勇者チームがもらうよりもさらに豪華な報奨をもらった。俺たち精鋭チームは望むがままの金銀財宝を手に入れたのだ。


手渡す時の財務大臣のひきつった笑顔が印象的だった。


仲間たちは豪邸を買い、武器を買い、人も物も何もかも欲望のまま買い漁った。


魔物を狩り続けるという、ずいぶんと抑圧された暮らしを長いこと続けてきたのだから、解放された後そうなるのも当たり前だと思う。


仲間たちの人柄は少し変わってしまった。いや、元々はそういう性格で、これまでが我慢していたのかもしれない。今後も会うことはあるだろうが、毎晩豪遊する彼らに付き合うのも疲れてきていた。





(みやこ)での豪遊に飽き、めぼしい有力者からのパーティー招待が落ち着いてきたころ、ようやく故郷に帰れたわけだ。村は町に発展していた。


故郷への道のりも、『勇者ロード』などと言う何のひねりもセンスもない整備された街道ができたことによって、快適に帰ることができた。


故郷の町に近づくにつれ知らない店もたくさんでてきた。


『勇者ゆかりの地』『勇者御用達店舗』『勇者の浸かった湯』。……俺の知らない店も、たくさん出てきた。


乗合馬車を降りて、歩いて店を覗いてみることにした。





騒がれるのに疲れていたので地味な恰好をしていたため、どの店に寄っても観光客として接してもらえた。


むしろ、買う気がなかったのと、あまり目立たないように昔村から出てきた時の服を着ていたためか、貧乏人扱いされ邪険に扱われた。こんな扱い、凱旋後のこの一年間どころか今までされたことはなかったのだが。


変わりすぎじゃないか? 俺の村。そう思ったが、まだここは本来村があったところより外側。後から発展してできて町の一部となった部分。


村のあったところは昔とそうそう変わらないだろう。そう期待して、歩みを進めた。そうして実家付近に差し掛かった時。


「おい、ジジイ。何さぼってるんだよ」


その声を聴き、口元がひきつる。角を曲がったところなので、姿は見えないが俺にはわかる。知人の声だ。


友人からの手紙に、『豊かになったけど、増長しちゃってる人間も増えたよ』とあった。こういうことか。


そう思いながらその声がした場所をのぞき込む。


驚くことに、そこにはとても見覚えのある姿が。とっっても見覚えのある姿が。罵声を浴びせる知人のことではない。もうこいつはどうでもいい。


その知人に蹴られている、老いぼれた爺さんのように見える人物。


力をなくし、やつれ、ボロボロになっているが、命のやり取りをした相手だ。とっってもよくわかる。


(魔王じゃねえか!!!)


そんな魔王が、「いや申し訳ない~。いま終わらせますからね~」と情けない声を出しながら、草むしりをしていた。なぜか俺の実家の庭周りの庭木を手入れしているようだ。


「ここは勇者様のお宅だ。この町にとって貴重な場所なんだよ。お前みてえなやつを雇ってくれてる勇者様のご家族に感謝するんだな」


そう言って、恐れ知らずにももう一度蹴り飛ばして、去っていく知人。


(というか、知人おまえはこの家に何の関係もないだろ)そう思ったものの、もっと重要なことがあるのでその命知らずはもう頭から追い出すこととして、目の前の重要なこと(まおう)を見下ろす。


「なんで魔王おまえがここにいるんだよ!!」


「いやだなあ、勇者サマ。久しぶりに会ったっていうのに。こういう時は握手を交わしたり抱擁を交わしたりするんでしょう? 私、学びましたよ」


そう笑顔で返す。今はしなびているが、かつての恐ろしい魔王の面影はしっかりと残っている。その笑顔に身震いしてしまう。


「なんだその間違った知識は。もう一度聞く。ちゃんと答えないと、その首もう一度切り落とす。お前。何でここにいるんだよ」


魔王は笑顔のまま返す。


「勇者の家で、良心を学ぶために」


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