お弁当【蓮花】
「あっ・・・・・・・・・・・・」
俺の席の隣から声が聞こえた。
振り向いたら、紫苑さんのお弁当箱が、見事にひっくり返っていた。
紫苑さんは紫色の瞳を、うるうるさせて、しばらく固まっていた。
紫苑さんのお腹から、くうと音が聞こえてきた。
「ぷっくっ・・・・」
俺は笑いそうになるのを必死でこらえた。
「水でも飲んで、おなかを満たすか・・・」
それを聞いて俺は思わず紫苑さんに声をかけてしまった。
だって少し可哀想になってしまったんだもの。
「あの、もし、よかったら、これ食べますか?」
俺は、三段ある重箱の一つを、紫苑さんに差し出した。
「いいの?ありがとう蓮花君!」
彼女はオレに満面の笑みを向けて、重箱の一つを受け取った。
彼女は重箱をしばらく眺めてから、蓋をそっとあけた。
そして重箱の中身を見て目を見開いていた。
彼女は本当に自分が食べてよいのかと遠慮がちに、俺の方を見つめた。
「初日なので、張り切って作りすぎてしまって・・・俺もさすがにこの量は食べきれないので、紫苑さんが食べてくれると助かります。」
俺が遠慮する必要はないよ、むしろ食べてくれると助かるよ、という意味を込めて、そういうと、彼女は糸が切れたかのように、重箱の中身を食べ始めた。
紫苑さんは美味しい!美味しい!と言って、俺の作った料理を一口一口味わって食べてくれた。
特にだし巻き卵が気に入ったようだ。
重箱一箱だけでも、結構な量があるから、半分くらいは残すだろうな、と思っていたが、案外見事に米粒一つ残すことなく完食してくれた。
料理を作った側からすれば、それはまあ嬉しいわけで。
「そんなにお気に召したならまた作ってきますよ。」
俺がそういうと、紫苑さんはとろけるような笑顔を向けて笑った。
・・・・・・・この人、相当食べることが好きなんだな・・・・・・。
「うん。蓮花君は絶対にいいお嫁さんになれるよ!」
「・・・・・・・・!?」
俺は紫苑さんに、色々とツッコミたかったが、面倒くさくなったので、あえてスルーをした。