月夜神様と蓮花
「どうぞ、楽にしてください。」
シルバーは、紫苑と蓮花に椅子に座るように促した。
私たちはおずおずと椅子に腰を掛けた。
お屋敷の中は、案外狭かった。
いや、この部屋が、狭かったというべきだろうか。
狭い狭いといったが、広くないとも言い難い。
パッと見ただけでも、この部屋は畳十二畳くらいはある。
お屋敷があまりにも大きかったので、この部屋が狭く感じてしまっただけである。
「お茶を入れてきますね。ああ、それと、机の上にあるお菓子はすべて食べていいですよ。」
シルバーはそう言って、早々、どこかへ行ってしまった。
机の上には絶対に食べきれないだろう量のお菓子が山積みになっていた。
紫苑は他の人の家の中にいるということに、そわそわとしながら、クッキーをつまんで口に入れようとした。
「だめです!」
即座に蓮花にクッキーを取り上げられてしまった。
紫苑は恨みがましそうに蓮花を見つめた。
「なんで?シルバーさんは、机の上にあるお菓子は食べていいって言ってたじゃない。」
「知らない人からもらったものをほいほいと口にしないでください!毒でも入っていたらどうするんですか!?」
「あんなにやさしそうな人が毒なんて入れるわけないよ!蓮花君、考えすぎ!」
「紫苑さんが考えなさすぎなんですよ!ああいう人は、大抵頭の中でよからぬことを企んでいるものなんです!」
「さっきから、黙って聞いていれば…なんですか。失礼ですよ。」
シルバーさんの声が聞こえてきた。
振り返ってみるとお茶を運んできたシルバーさんは、冷めた顔をして蓮花をにらんでいた。
蓮花のほうを見てみると、彼もまた、シルバーのことをにらみつけていた。
あわわわ!どうしよう。
「れれれれ蓮花君、さすがにちょっとシルバーさんにひどいんじゃない?・・・紫苑のことを心配してくれたのはわかるけど・・・・ね?、謝りなよ。」
紫苑は蓮花を謝るように促した。紫苑の思いが通じたのか、蓮花は眉を下げながら、口を開いた。
「確かに紫苑さんの言う通りですね!すみませんでした……… 本当のことですけど。」
蓮花はシルバーに頭を下げた。
最後のほうに余計なことを口走ってたような気がするけれど、きっと、気のせいだ。
ちらりとシルバーのほうを見てみると、シルバーは俯いてプルプルと体を震わせていた。
そして…
「黙って聞いていれば、調子に乗りやがって!・・・・・・・・死ね!」
シルバーさんの口から、えげつない怒鳴り声が聞こえてきた。
ドゴッ
・・・シルバーさんは蓮花君の顔面をグーで殴りました。うそでしょお!!?
「はっ!ついついムカついて、殴っちゃいました!・・・・・すみません。」
シルバーさんは、蓮花を殴った後、しまったというように顔を真っ青にして、蓮花君に謝った。
「いえ。俺のほうこそすみませんでした。」
「本当にすみません。怪我、大丈夫ですか。」
「大丈夫です。」
それから、蓮花がシルバーに嫌味を言うことがなくなった。
紫苑がクッキーを食べても、もの言いたげな顔をしながらも何も言わなかった。