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「死」についての理想論

作者: 丸峰

私にとっての理想の死とはなんであるか。まず一つ目に、そもそも私は死ぬのかという問題があるが、死ぬかどうかがわからないのであれば、死を想定しておいた方が、想定していなかった時よりかは対応がスムーズであるから、ここは死ぬことを前提としたい。そして次に、私は「幸福に」死にたいのか、「安心して」死にたいのかという問題がある。前者はより能動的な死を経験しなくてはならない。何故なら、私が例えば食事について幸せであった、美味しかったという時、安全であったというよりも更に、外的要因が私を刺激せしめなければならないのだから。例えば、フグ料理が安全であると言うときと美味しいと言うときの閾値の違いのように。

ところで「幸福な」死とはなんであろうか。これは今までが快かったことになんら関係がない。「幸福な」死とはそれ自体が快楽でなくてはならない。ここで、誰か哲学に詳しい人は私は快楽主義者ではないだの、むしろストア派を支持しているだの言うのだろうが、そういった俗世からは少し離れた方々には是非とも自己完結していただきたい。何故なら、ストア派を支持するのであれば、その学派の一人、セネカの本を読み解けば良いだけであるし、他に、ノモスがピュシスであると説く少し時代錯誤のある方々、それでも立派な思想には変わらないのだが、それでもソフィストの嫌いがある方には、是非ともそれを十全に発揮して弱肉強食の内に自分の死を見出して欲しいのだ。であるから、私はまずこの「幸福な」死を否定したいのである。と言ってもその否定はごく一行に収まるものである。つまり、死とは快楽たり得ないと。

快楽とは、人間が動物的であったり理性的であったりすることによって発生するが、その大前提として生きていなくてはならない。そして生きることの反対とは死ぬことである。反対というのは鏡写しということではない。それぞれが別の概念体系を持っているのだ。一つは我々がよく知る概念体系を。もう一つはあるのかすらもわからないような未知の概念体系を。そこに、果たして幸福はあるのであろうか。こう言ったことから「幸福な」生は実現し得ない。

ここは議論が複雑なので少し例を出そう。私は電車に乗っていて、その電車はもう少しで終着駅だ。そしてその電車は、終着駅に着いた後どう振る舞うのか、例えば回送電車になるのか、それともさっきまで通った道を逆戻りするのか、私にはわからない。ここで、一匹の蝿が電車内で飛んでいるとする。その蝿は電車の進行方向に向かっている。だから、私はその蝿が電車の速度プラス蝿の飛んでいる速度で前へ向かっていると考えるわけだ。まあ、実際は違うのだが、この例示ではそう考えて欲しい。そして私は終着駅に着いた後、こう考えるわけだ。この蝿はこの後も先ほど私が考えた速度で飛ぶだろうと。つまり、先ほどの電車の速度プラス蝿の速度で飛ぶだろうと。もちろんそれはわからない。何故なら、電車が逆戻りしたら蝿は電車の速度分マイナスになるわけだし、終着駅で止まろうものなら、蝿は蠅だけの速度になるのだから。「幸福な」死について考えるのは、このように蝿の速度を先ほどと同じと考えるのに等しい。さらには、その死については、例示された蝿が存在するかどうかも怪しいのだ。

では、我々に残されたのは「安心して」死ぬことのみである。だが、この「安心」というのに今まで私がしてきたような哲学的な議論は必要ないであろう。何故なら、個人が不安に思っていることを全て虱潰しにしていけば良いだけなのだから。だが、そんなことは可能なのだろうか。私たちには無数の不安の種があるのだから。ここで、私は伏線回収のような提言をしたい。と言うのは、「幸福に」生きることが「安心に」死ぬことの近道であると。


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