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第23話 リベンジ ~告白~

 明日奈が悠里の元を訪れてから約束の二週間が経過した。

 

 約束の時間が近づくにつれて日はどんどん落ちてきて、人も殆どいなくなっていた。

 

 指定の場所から少し離れた所……。

 

 コンテナの陰に隠れて指定の場所からだと死角になるような場所から伺っている二人の女性がいた。

 

「なんで私まで連れ出されている訳? うー、寒い…… 家で炬燵(こたつ)に入ってPC弄っていたい」


「いや、だって…… 私一人で見届けるの辛いから…… それにこの日の為に走り回ったんだから瑞樹だって気になるでしょ?」


 きょろきょろと周りの人目を気にしながら、まるでストーカーの様に指定の場所を伺っているのは明日奈。

 

 そして、腕を組み、寒そうに震えながら鼻を啜っているのは明日奈に無理矢理連れ出された犠牲者、瑞樹。

 

「まあね、ここまでやったんだから報われてもらわないと困っちゃうよね。まあ、明日奈からしたら複雑な心境でしょうけど…… 悠里ちゃんはあれからどんな感じだった?」


「次の日から食欲も出てきて、ちゃんと睡眠もとれてるみたいだから大分顔つきも良くなっていたわ」


「そりゃ何より。じゃあ、今日は成人式以上の美しさで来てくれるんだろうね」


 瑞樹の発言に自分の事の様に語る明日奈の表情は誇らしげだ。


「悠里は何時だって、可愛いし、美しいわよ。今日の為の服だって一緒に選んできたわけだし」


「出たよ、姉バカ」


「……アンタ何でそれを……」


 瑞樹はいつも持参しているノートPCをチラつかせながら「私に隠し事なんて百年早いよ~」とニヤニヤしている。


 一瞬、驚いた表情を見せるも直ぐに冷静になり、その表情からは諦めた様な感じが見て取れる。


「そこまで来ると、怖いを通り越していい加減、気持ち悪いわ」


「ひっど…… あ、主役の片割れが来たんじゃない?」


 瑞樹が誰か来た事に気付き、指定の場所に目をやるとそこに現れたのは透。

 

 悠里よりも一足先に現れたようだった。

 

 透は周りをキョロキョロして腕時計で時間を確認している。

 

 まだ悠里が来ていない事も合わせて確認しているようだった。

 

「ねえ、明日奈……」


「言いたい事は分かる。ちょっと気になってた」

 

 透の服装に違和感を覚える二人……。

 

 そう、透はスーツを着て来たのだ。

 

 成人式で着ていたとはいえ、社会人前の学生がスーツを着る機会はそう多くはない。

 

 そもそも着慣れていないのだから、二十歳辺りの青年であれば清潔感に気を使ったくらいの私服でも違和感はないはず。

 

「成人式の再現でもする気かしら?」


「ただの告白にしては少々重いよね…… まさかねぇ……」


 二人がああだこうだと考察している内に透が来た方向とは反対側から悠里が二人の視界に入って来た。

 

「悠里ちゃん、来たよ」


 悠里は白ニットワンピースに黒のタイツと黒のブーツにネイビーのジャケットを着ていた。

 

「前回は振袖だったけど、今回は流石に着れないから…… 少々大人の女性をイメージしてみた」


「ちょっと大人過ぎない……? 悠里ちゃんの顔の作りが若すぎるからなあ…… 若干アンバランスな気がする」


「そのギャップがまたいい味出してるのよ」


 などと告白よりも別の話を展開させて盛り上がる二人。

 

 その間に二人は会話が届く距離まで接近していた。

 






「悠里……来てくれたんだね。ありがとう」





「透君……その、ごめんなさい」





「えっ!? 何を言う事も無くダメって事?」





「えっ!? …… あっ…… ごめんなさいってそういう意味じゃなくて、ああああ…… 勘違いさせてごめんなさい」



 透は悠里の『ごめんなさい』にこんらんしている!

 

 悠里も透に勘違いさせてしまった事に気付き、必死に訂正しようとするが、お互いの認識が合うまでに少し時間が掛かった。



「成人式の日…… 透君の事情も知らずにあんなこと言っちゃってごめんなさい…… って言いたかったんです」





「そういう意味か……良かった。でもそれに関しては、僕も悠里に謝らなければならないんだ…… ちゃんと事情を説明できてなくてごめん。ただ、説明しようにも当時の事って無意識的に記憶を閉じたのか、普段は思い出せなかったんだ。それをこの間自覚して……」





「うん、その辺りは明日奈から聞いたよ」

 

 

 二人の間に微妙に沈黙の時間が流れる。二人共何か会話をしなければと必死に会話内容について脳内で模索している。

 

 沈黙を切り裂く様に透が何かを思いついたかの様に口を開く。

 

 

「少し、歩かないか?」


 悠里は「うん、いいよ」と言うと透のすぐ隣に移動する。

 

 二人は歩き出すと、ようやく透が今日の為に購入してきた服装について触れていた。

 

「今日の服装、素敵だね。良く似合ってる」


 悠里が明日奈と選んだ服を褒めてくれたことが余程嬉しかった様だ。


「あ、ありがとう…… 今日の為にね…… 明日奈が一緒に選んでくれたの。と、透君のスーツ姿も素敵だよ」

 

 ようやく雑談らしい会話ができ始めた頃、悠里が何か不安そうにしていた。

 

「あのさ…… 初めての彼女ってどんな人なの……? 高校三年の時に転校してきたとは聞いていたけど、その時は何もなかったんだよね?」


「うん、元々は僕に復讐する予定で、当時は表向き彼女だった明日奈には手を出したらしいんだけど、一瞬で返り討ちだってさ」


「そうなんだ…… やっぱりさ…… その人って、透君が付き合うくらいだから…… 綺麗な人…… なんだよね?」


「容姿だけで言うなら…… 綺麗な人であるけど、そういう理由だけで付き合ったわけじゃないから……」


「そ、そうだよね…… 透君…… 素敵な人だし、誰とでも…… どんな人とでも付き合えそうだよね…… 私なんて”元男”だし……」


 悠里が自虐的に自分を笑いものにしようとするが、その言葉を聞いた透は悠里の肩を掴み真っ向から否定していた。


「それは違う」


「ひゃっ!?」


「ご、ごめん。びっくりさせちゃって…… 


 でも、間違えないで欲しいし、勘違いしないで欲しい。

 

 これさ、明日奈にも聞かれたことがあるんだよ。

 

 『何であの子を好きになったの? 女の子になったから好きになったの? 男のままだったら好きにならなかった?』

 

 その時に、君と出会ってからの五年間を思い出していたんだ。

 

 そりゃあ、最初はライバル視して食って掛った事もあったけど、

 

 一緒に過ごしていく内に、僕の中から君の存在が離れなくなっていたんだ。

 

 決定的だったのは、あの成人式の日……

 

 トラウマが発症して、去っていく君を見てはっきりと自覚した。

 

 それを明日奈にも、元カノにも伝えたんだ。

 

 男だろうと、元男だろうと関係ないって。

 

 人を好きになる…… いや、愛するってこういう気持ちなんだって。

 

 これは生まれて初めての感情だし、この感情は、想いは誰にも否定させない。

 

 君を誰にも奪われるつもりもないし、渡すつもりもないって」



「えっ!?…… 愛する……って えっ……!? それって…… つまり……」



 悠里は顔を真っ赤にして慌てている。

 

 つい気恥しくなったのか、顔を両手で押さえながらも、指の間から透の顔を見つめている。

 

 透は一直線に悠里の目を見つめている。

 

 

「はい……



 僕、一条 透は


 

 高峰 悠里さん…… 


 

 あなたを愛しています。


 

 付き合って欲しいなんて半端な事は言わない。


 

 結婚してください」

 

 

 

 

「……………………」





 透の言葉に時が止まったかのような悠里の表情。

 

 ハッとするまで数秒を要していた。返答が無く不安になった透は回答を求めていた。



「返事を……いただけませんか?」



 悠里は目に涙を溜めて、身体を震わせている。

 

 顔を覆っていたはずの両手はいつのまにか涙を拭っていた。

 

 少し鼻声になって、声を震わせていた。



「わっ……わだじ…… ほんとはずっと怖かったの……


 高校卒業辺りからずっと来てくれて……

 

 それって不登校になったから、ただの罪悪感だけで来てくれてたんじゃないかって……

 

 ずっと不安で……

 

 いつか時間が経ったらすぐに忘れられるんじゃないかって……

 

 透君が帰った後は…… 寂しくて泣いてたりしてたこともあったの。

 

 透君は…… 私の事…… 完璧超人みたいな事言ってくれたけど、

 

 本当は…… 本当の私は 泣き虫で、嫉妬深くて、すぐ感情を表に出すポンコツだけど……

 

 そんな…… こんな私でもいいですか? 

 

 それでもいいなら…… わ、私を…… 貴方のお嫁さんにしてください」





「はい………… 一生大切にします」




 自然と二人は少しずつ歩み寄り、ゆっくりと抱き締め合う。


 しばらく二人はそのまま、お互いの温もりを確かめ合い、少し顔を見合わせた後に口づけを交わしていた。


 遠くからそれを見ていた明日奈も小声で「終わっちゃったなー」と空を見上げながら呟いていた。


 二人は照れ合いながら、手をつなぎその場を後にしようとしていた。









 

 その時、下卑た声が透達の近くから聞こえて来た。


 


「何を盛り上がっちゃってんの。 俺達も混ぜてくんない?」

 

「なんだ、お前たちは……」



 遠目から見ていたのかは不明だが、ぞろぞろと風貌の悪そうな男たちが現れて透と悠里を囲もうとしていた。




 突如二人の間に割り込んできた乱入者の画像をカメラで取って調べ始めた瑞樹は、血の気が引いたような表情でキーボードを必死に叩きながら調べた内容を伝えている。

 

「や、やばいよ、アイツ等。この近くの繁華街を拠点にしてる半グレ集団『歩毛津都 紋素田亜(小袋の怪物)』だよ。ひーふーみーの…… じゅ、十五人くらいいるんだけど…… アイツ等の犯罪履歴は強盗傷害、拉致監禁、強姦致傷、詐欺、器物損壊、現住建造物等放火…… 殺人までやってる奴らだよ。マジ相手がまずいって…… って明日奈?」


 全然、明日奈の反応がなかった為、明日奈がいたはずの場所を振り返ると、そこには明日奈の姿は既になかった。

 


 つい数十秒前まで世界で一番幸せな表情をしていたはずの二人。

 

 その表情を、二人の世界を壊すかの様に突然現れた闖入者は、ニヤつきながら透と悠里の表情を伺っている様に見える。

 

 悠里はその風貌の連中に顔を青くしながら動けないでいた。



「こんな人気のない所に男女でいるもんじゃないぜえ、拉致られても文句は言えねえよ?」


「この女、めっちゃイケてんじゃん。イケメン君さあ、今ならお前だけは見逃してやるからこっから消えなよ」 


「何を言っている、彼女に触るな」


 悠里から一番近い位置にいたのは、スキンヘッドで顔面積の半分ほど入れ墨で埋まっている筋肉質の男。

 

 スキンヘッド男が悠里に近づこうとしていた為、透は悠里との間に割って入った。


「おい、俺達が優しく言っている内に消えろってんだよ。あー、先に言っておくと彼女はもうお前の元に戻らねえからよ。俺らのアジトで穴がガバガバになって廃人になるまで使い倒してやるからよぉ」


「この勘違い君、ちょっとボコさねえと理解しねえみたいだな。ちっと顔面崩壊程度で許してやるよ。殴り過ぎて歯が全部なくなっても恨むなよ」

 

 

 スキンヘッドの男は笑いながら手の骨を鳴らしてお構いなしに近寄ってきた。

 

 腕が届きそうな距離まで近づいた時、透を殴りつけようとした。

 

 

 しかし、スキンヘッド男の拳は透には届かなかった。

 

 

 そこに更に割って入って来た手によって止められていたからだ。

  

  

「楽しそうね、私も混ぜてくれるかしら」



 透を殴ろうとしたスキンヘッド男の拳を掴んでいたのは明日奈だった。


 スキンヘッド男は明日奈に捕まれた拳を引き剥がそうとするが、どんなに力を入れてもびくともしない。顔を真っ赤にするほど両手を使って全力で引っ張っても明日奈が握った手から離れない。

 

 明日奈は鼻で笑いながらスキンヘッド男の腹部にケリを入れると五メートルほど吹っ飛ばして気絶させた。さらに泡を吹いて、痙攣まで起こしている。

 

「あ、明日奈…… どうしてここに……」


 透はまさかこんな場所に明日奈がいるとは思っておらず、半分放心状態で確認していた。


「あら、誰かと思えば私から可愛い悠里を奪った泥棒ゴキブリ男じゃない。奇遇ね、私は丁度ストレスがマッハで溜まっていたから遊び相手が欲しかったところなの。だから……… アンタは悠里を連れてさっさとここから立ち去りなさい」


「いや、でも…… いくら明日奈でもこの人数は……」


 透がいても役に立たない。

 

 むしろ足手まとい以外の何物でもないと自覚しているはずなのに、この場からさっさと逃げ出さない透に明日奈は苛ついていた。


 舌打ちをして首だけ透に視線を送って睨みつける。


「いいから行けっ! もし、悠里の身体に一ミリでも傷を付けて見ろ…… 世界中のどこに逃げても、何年、何十年掛けてでもお前を追い詰めて、生まれてきた事を後悔させてやるから」

 

 今のセリフにハッとして、今何を犠牲にしても守らなければならないのは、悠里であることを透もようやく認識した。

 

 急いでお姫様抱っこで悠里を担ぎ上げる。

 

「わ、わかった。ごめん、今はここから離れよう」


「待って、透君…… ダメ、明日奈! お姉ちゃあああああああん」


 走って明日奈から遠ざかっていく。

 

 悠里は透の肩越しに明日奈に向けて手を伸ばそうとするが、どんどん遠ざかっていく。

 

 その様子を見た明日奈は安心して半グレ達に振り向き………



「ねえ、アンタたちに聞きたいことがあるんだけどさ…… ――――――ってある?」



 その時の明日奈の表情は今までで一番晴れやかな表情をしていたが、半グレ集団は全員首をかしげていた。


お読みいただきありがとうございます。

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読者様の応援が私のモチベーションとなりますので、何卒よろしくお願いいたします!

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