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第22話 幼馴染②

「だって貴方、私の事を姉として見てたでしょう」


「う、うん…… 私、一人っ子でしょ。だからお姉ちゃんに憧れてて……」


 私も一人っ子なんだが?


 そりゃ姉として見てたんだったら恋愛対象からは外れちゃうわよね。家族枠なわけだし……。

 

 まあ、なんとなく勘づいていたけど…… 事実としては知りたくなかった内容。

 

「なんとなくそうなんじゃないかって思ってたけど…… でもね、私は姉なんてポジション、まっぴらごめんだわ」


「えっ!? そうだよね…… やっぱり私なんか妹にしたくないよね」


 目に見えて分かる落ち込み様。そういうつもりで言ったわけじゃないけど、そう捉えられてもおかしくない言い方だったことは否定しない。


「そういう意味じゃない。姉なんて…… 恋人や配偶者と比べたら、すぐ記憶から忘れられるような存在なのよ…… いつかは子供ができて、自分で作り上げた家庭が世界の中心になっていく…… 私はそれが嫌だったの。貴方がいくら私の事を良く思ってくれたとしても、所詮は血の繋がっていない他人なんだから……」


「そんな事ない! 明日奈はずっと私を守ってくれてた。世界で一番と言ってもいい程大切な人なの。そんな人を忘れる訳ないでしょ」


 世界で一番……嬉しいはずなのに、その言葉は今の私の心には刺さり過ぎる。


「いえ、そうよ。だってあの変態バラゾウムシと付き合ったらすぐアイツの事ばっかりで私の存在なんて思い出さなくなる。今だってまさにそうでしょ。だから…… 嫌われても、憎まれたとしても私の事をすぐに思い出せるように貴方の心に刻みつけてやろうと……」


「それが三年のあれにつながったって事?」


「そうよ…… 大体、私があんなトップオブ不快害虫男と本当にそんな関係になる訳ないでしょ。生理的に無理! 悠里だって、私とアレが相性合わなそうって言ってたじゃない」


「それは…… そうなんだけど…… パニックになっちゃって…… 何が正しくて、何が間違っているのか、自分の頭で整理しきれなくなっちゃって…… 一度は開き直って高校も行かずに性転換しちゃえって…… 勢いで進めたはいいけど、途中からこれで本当に良かったのかなって悩んだりしたの」


「そもそも私がアイツと再会したのは高校卒業後は会ってないし、成人式の夜にこの近所をウロウロしてる不審者を捕まえたらアレだったわけ」


 成人式の日…… その言葉に悠里は驚いた様に目を見開き私を見つめていた。


「成人式の日……? まさか、透君がこの辺りに来てたの?」


「私は別の人に捕まって居酒屋に連行されてたんだけど、帰りにばったり会ってしまったの。そん時のアイツと来たら傑作な表情をしてたわ。何しろ、アイツ大泣きしてたのよ。『どうしていいかわからないよ~、助けて あすえもん』みたいな感じだったわよ。まあ、アイツからしたら悠里にフラれたって思ってたわけね。粗相をしちゃったわけだし……」


 悠里はオロオロし始めた。私の言葉に納得がいってないみたいだけど…。


「……え!? ちょっと待って…… 私は…… 透君にフラれたんじゃないの……?」


 やっぱり……。私はその現場を見ていたわけじゃないけど、二人の話を聞いてお互いの認識食い違いがある事は容易に想像できていた。


「まず、悠里は現状を把握する必要があるわ。アイツがやってしまった事により貴方が受け止めた認識には相当の乖離がある。この点を正しく改める必要があるわ」


 私は悠里に成人式の日に起きた事を伝えた。

 

 私が偶々、大泣きワラジムシ男の同級生に出会い、過去に起きた事件の話を聞いた事。

 

 それにより、トラウマを背負った事。高校で誰とも付き合わなくて過ごしてきた本当の理由。

 

 悠里から告白された時にトラウマが発症してしまった事。

 

 それにより悠里の告白を断ったと勘違いさせてしまった事。

 

 悠里の自宅周辺をウロウロして大泣きして土下座までした事。

 

 あの日の返事をもう一度する為に、トラウマを克服しようとしたこと。

 

 瑞樹の協力を経て当時の彼女を見つけたけど、実は同じ高校にいた事。

 

 彼女とビビりダンゴムシを合わせてトラウマは多分克服できたかもしれない事。

 

 その話を聞いている最中、悠里は絶句していた。話が終わるころには、俯いて力無く声を絞り出していた。

 

「……全然知らなかった。 私は何をやってたんだろうね…… 仲良くなったと思って、舞い上がって、先走って、彼の事情を知らずに勝手に暴走して、勘違いして…… 私…… 彼の何を見てたんだろう…… ダメ…… こんな私じゃ彼の気持ちを受け取る資格なんてない……」


 あら、また泣き出しちゃった。女性化してからかなり涙もろくなってるみたいね。


 他人の悩みはしっかり聞いて、ちゃんと対策まで立ててあげる子なのに、いざ自分の事となると一気にポンコツになってしまう。

 

 特に恋愛に関しては、経験なんて無かったわけだし……。

 

 そこが可愛い所ではあるんだけど……

 

 うーん、ちょっと一度こうって決めたら中々折れない性格なのも面倒な性格よね。


「人間はエスパーじゃないの。自分の気持ちは口にも出さないけど、全て汲み取れ、理解しろなんて無理な話よ。自分の過去をネタにする人だっているでしょうけど、アイツの場合は…… 身体に拒絶反応起きるし、無意識的に記憶を封じたような所があるっぽいから説明するのも無理よね……。だから、私はこれでいいんじゃないかと思ってる。経緯はどうあれ悠里はこれでアイツの本当の事情を知ったわけだし、その上で貴方はどうするのかちゃんと決めた方がいいわよ」


「うん……」


 話したい事も終わったし、久しぶりに悠里を抱きしめられた事で悠里成分を補充した私も満たされたし、最後に言うべき事を言って今日は帰る予定。

 

 私は立ち上がってキングオブ害虫からの伝言を伝える。

 

「帰る前に一つ言っておくわね。アイツは悠里にチャンスが欲しいと言っていたわ。もし、貴方がもう一度話をする気があるなら二週間後、この場所に行ってあげて欲しいの」


 私がスマホを見せて指定した場所はとある埠頭の一角。

 

 この時間帯でこの場所なら余計な人も来ないだろうし、二人で話するには丁度いい。

 

 まあ…… 私もそれをこっそり見届ける事で自分なりのケジメとしようかと思ってる。


「二週間後……」


「ええ、きっとあなたは身も心もボロボロになってる事だろうし、すぐ呼び出してもそんな状態で表に出せないでしょ? 一旦、身体と心をリセットするための準備期間として私がそう提案したの」


「私は…… 行ってもいいのかな……」


「それを決めるのは私じゃなくて、貴方なの。今まで何も知らない事を良しとしないのであれば断ればいい。でも…… 今の話を聞いたなら、どれだけ奔走したかも分かるでしょ。それも全ては悠里に自分の想いをちゃんと伝えたいが為…… 私から言える事はここまでかな」


 悠里もベッドから立ち上がり窓際に移動すると、雲の合間から見える月を眺めていた。

 

 月をアイツに見立てているのだろうか、それとも今ならアイツも同じ月を見ていると思ったからなのか……。


 私はそんな悠里を見てから部屋を去っていった。


お読みいただきありがとうございます。

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