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第2話 絶望

 授業が終わり、帰宅の時間となり皆がそれぞれ部活や帰宅の準備をしていると悠馬も部活に必要な荷物を持って部室に向かおうとしていた。


「さてと、練習にいかないと……」


 悠馬が教室を出ると、遠くからざわついた沢山の人の声が聞こえて来た。

 

 普段、こういった声を聞くことが無かったため、珍しいと思い、妙に気になっていた。

 

「なんだろう…… 向こうかな」


 声のする場所に近づくにつれて、徐々にではあるが、人の声の内容が理解出来る程になっていた。

 

「いやああああああ、一条君なんでえええええ」


「ウソよっ! 一条君は私と付き合うんじゃなかったのおおおお?」


「ちょっと、喜多川さん! あなた、高峰君と付き合ってんじゃなかったの?」


 付き合うだの付き合わないだのと言った内容から恋愛関係なんだろうと思った矢先、悠馬の耳に入って来たのは誰よりも知っている二人の名前。

 

 ―― 一条 透

 ―― 喜多川 明日奈

 

 いや、これはきっと自分の勘違いなのだろう、聞き間違いなのだろうと悠馬は自分にそう言い聞かせながら現場に到着した。

 

 そこで目撃したのは……

 

 

 

 

 幼馴染(・・・)の明日奈の肩を抱く透の姿……

 

「えっ……?」


 その驚きのあまり、動きが止まってしまった悠馬。まるで自分の時間だけが止まったかのような感覚。

 

 息をする事も忘れ、ただ口をぽっかり開けている状態で固まっていた。

 

 その悠馬の表情を視界に入れた明日奈はとても嬉しそうな表情で話しかけてきた。

 

「悠馬、遅かったわね。貴方の事を待ってたのよ……」


「明日奈…… ど、どう言う事? 何で君達が……?」


「あら、見て分からない? 私と透は恋人になったって事。理解したかしら?」


 わざと透に抱き着く様な体制で悠馬を煽る様に露骨な恋人アピールを行っている。

 

「だ、大体…… ()は誰とも付き合わないって……」


「そうだったかしら? でもまあ愛し合う二人を止められなかったって事じゃないかしら? ねえ、透」


「あ、あぁ…… そうだね。すまないけど、明日奈は俺と付き合う事になったからさ」


「う、嘘だ…… そんな……」


 血の気が失せた、まるで死体の様な表情をした悠馬がフラっとしながらその場を立ち去ろうとする。

 

 そして誰にも聞こえない程の声量でポツリとこぼした。

 

「ぼくが…… ぼくが先に好きだったのに……」


 悠馬の誰も見たことのない様な表情を見た周りのギャラリーたちはとても悠馬に話しかけられる雰囲気ではなかった。

 

 ただ、悠馬が立ち去る姿を目で追う事しか出来なかった。

 

 そして、悠馬は部室に向かうのではなく、そのまま正門に向かって歩いて行った。





 悠馬が突然の帰宅をしてからというもの、サッカー部の面々は動揺を隠せないでいた。

 

 悠馬の帰宅理由について部室内でサッカー部員みんなで何が原因なのかを確認していたところ、部員の何人かが現場を目撃したという話があったので話し合いを行っていた。

 

「え? 高峰先輩がどうして?」


「なんかさ、キャプテンの幼馴染の喜多川先輩いるっしょ?」


「あー、俺らが入学する前までは夫婦同然みたいに言われてた公認カップルじゃなかったっけ?」


「そうそう、だけどさ…… 実際は付き合ってなかったみたいだし、俺らが入学した時にはもう倦怠期の別居状態みたいな夫婦関係になってたじゃん。なんかそれが関係あるんじゃないかって」


「だとしてもさあ…… 一条先輩と付き合うって普通じゃないだろ…… ほとんどの女子生徒を敵に回す事になるしな」


「てかさ、一条先輩って誰ともつきあわねえみたいな事言ってなかったっけ?」


「それを言ったら喜多川先輩だって男子を遠ざけてるみたいなところあったから誰かと付き合うってイメージなかったっぽいけどねえ」


「「「「うーん」」」」


 そんな部活前の他愛もないはずの会話が次に入って来た人物によって全てシャットアウトされてピタッと止まった。

 

「あ、一条先輩お疲れさっす」


「おざーーーす」


「あぁ、お疲れ様」


 つい先程まで井戸端会議を行っていた部員たちは目線お互いキョロキョロさせながら透にバレない様に顎をくいくい向けて「誰か聞けって」とアピールするが、「聞けるわけねーだろ」とほぼ全員が一致する中…… 一人の勇者が現れた。

 

「あ、あのー…… 一条先輩、ちょっといいっすか?」


「ん? 何だい?」


「高峰先輩の事なんですけど……」


 着替え中の透はその言葉にピクッと反応して背後にいる後輩たちに向かって首だけ向けていた。

 

 その様相は睨んでるようにしか見えなかったため、余計に聞きにくい後輩たち。


「悠馬の…… 何を聞きたいの?」


 恐れを知らない一年(勇者君)のおかげで皆が聞くに聞けなかった事情を聞けることに内心ワクワクしていた面々。

 

 しかし、張本人である透からの反応は乏しかった。

 

 部員の全員の共通認識としては透が悠馬に対してライバル心を持っていた事は知っていた。

 

 だから、悠馬に一矢報いたことを誇るのかと思いきや、浮かない表情をしている透は大きいため息をついていた。

 

(まさか…… 悠馬のあんな表情を見る事になるなんて…… 三年一緒に居て初めてだった。悔しがらせるどころか、やってはいけないことをやってしまったような…… ラインを超えたそんな感覚。明日奈…… 本当にこれでよかったのか?)


 悠馬の表情を今でも鮮明に思い出す透。胸のもやもやが理解できずに苛立ちを隠せない。

 

「あああああ、もう!」

 

 普段見ない透の激昂にビビり散らかす部員たち。

 

「ど、どうしたんですか? 一条先輩?」


 後輩のビビった一言に我に返る透。


「あっ、す、すまない。驚かせるつもりはなかったんだが……」


「高峰先輩って明日は来ますよね?」


「来るだろ…… アイツは責任感があるから…… キャプテンだしな」



 だが部員全員の祈りも空しくその日以来、悠馬は学校に姿を現さなくなった。

お読みいただきありがとうございます。

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