第98話 貴族
「父上……」
現れた男性のことを、シキは確かにそう呼んだ。
後ろから、お付きの者らしき者達もぞろぞろと姿を見せた。一人や二人ではない。三人、五人、いやもっと。
突然のパレスの来客に、一同は反射的に立ち上がる。
やはりこの人物も貴族なのか。中央に立つその人物は、堂々と広間に入り一同を見渡した。その場に立っているだけで威圧されているような、強い存在感を放つ。
煌びやかなローブが、チカチカする程目立つ。角張った頬骨がいかつい。
「愚息が迷惑をかけたようだな、申し訳ない」
「い、いえ」
シキと似た格好をしたいかつい顔のその人物は、スッと帽子をとりうやうやしく礼をした。
慌てて、皆も礼を返す。
そのいかつい顔に、エリーナは見覚えがあった。
「もしかして、ノブレ様ですか? 以前お会いしましたわね」
「そうですな、議会のパーティーで」
ノブレ、という名前が出た時、ナエカがヒィッと声を上げる。アイリを除き、他の皆も息を呑んだ。
「ノブレだってぇ!?」
「ノブレってまさか……」
まさに、マルガレータが皆に紹介する。
「そうさね、この方はノブレ家の当主様だよ」
「……ノブレ?」
ノブレ家。
テイクンでも屈指の有力貴族だ。広大な土地を所有する地主。その当主、マケドニア・ジャン・ノブレ。
そんな偉い人が、何故こんなところに。
「めちゃくちゃ偉いんだ」
「ど、どうしよう。オレ、こんな格好だぜ!?」
「もう諦めよ」
その威厳に、途端に恥ずかしくなってくる。
皆の反応が面白かったのか、ハーショウは愉快そうに笑いながらシキに近付く。
「ピエール君。そろそろ君の名前、みんなに教えてあげたらどうだい?」
「……」
シキは、皆の集まった視線に耐えられなかったらしい。
ふぅ、とため息のような息を吐くと口を開いた。
「……ピエール・ジェフ・ノブレ」
躊躇いながらだったが、確かにそう口にした。
まさか、ノブレ家の子息だなんて。
貴族の端くれどころか、とんでもない家の息子だ。皆が仰天して、シキと父親を見つめる。
駆け抜けた沈黙を破ったのは、ショウリュウだった。
「待てよ、ノブレ家の奴がエイドリアン家系なわけないだろ! 旧家だぞ、なんで」
「この息子は、末の息子だがね」
割り込むように、主人が口を開き話しだす。固く、強い口調。
彼は、実はマケドニアの実子ではなく、使用人同士の間の子なのだという。
彼が産まれてすぐの頃に、ノブレの別荘が火事に見舞われた。その火事で、彼の両親が揃って亡くなってしまったのだ。
そんな彼を不憫に思った当主が、まだ幼かった彼を養子として引き取ったのだという。
「火事で……」
「貴族の端くれって言ってたのは、そういう意味か」
「貴族の養子は珍しないけど、それで養子にするやなんて珍しいやん」
「父親の方は、我がノブレ家の執事であった」
長きに渡り、信頼を置いた執事。母親の方も、長くノブレ家に勤めた人物だった。
そんな二人が、屋敷の火事で唐突に亡くなった。まだ小さく幼い、彼を一人残して。
火事は、このノブレ家に責任がある。だからこそ、マケドニアは彼を養子にしたのだ。
火事の話でそれぞれ思い当たることがあるのか、お付きの者達が一斉に項垂れる。
事情を知ったエリーナの瞳が、憂を帯びた。
「……なるほど。その亡くなったご両親のどちらかが、エイドリアン家系だったのですね」
「こちらで調べたところ、母方の家系がそうであることが判明した」
一度一族が離散し、行方が分かりにくくなっているアッカーソン家の血。
本人が、血を把握していないこともあるという。
「ある日、息子が能力を持っていることが判明した」
息子が能力を発現し、父親は驚きはしたがすぐに動いた。
ハーショウに、息子を剣の団に入れろと働きかけたのだ。
「それはどうして?」
「この愚息は能力が発現して間もない、能力を自分で操るのもままならぬ」
マケドニアがあちこちに相談したところ、剣の団に入団させてみては、とマルガレータが提案したのだという。
「えぇ、オーナーがどうしてぇ?」
「ここより、血の能力の専門のところなどないからさね」
そう言って穏やかな笑みを浮かべるのだが、言い方に何かを含んでいるようで、ナエカは縮み上がる。
いい子見つけたと、乗っかっただけなのでは。
「それなら、とこの私が軍部に働きかけ、入団させることにした」
「そら、えらい話やな」
父親がずっと喋る中、シキは一人無言で明後日の方向を向いたままだ。そんな彼を、皆がじっと見つめる。
やはり気になるのは、彼のその能力。
「……どんな能力なんですか?」
問いかけるアイリに、ハーショウは待ってました、とばかり身を乗り出す。
「凄いんだよ! 彼の能力はね──」
だが、そんなハーショウをシキは軽く手を出して制する。
刺すように強い、有無を言わせない目つきと共に。
「ルーイ達は何か勘違いしてるよ」
「え?」
シキは、一同をジロッと冷たい目で見渡した。
「剣の団に入るつもりは無いよ、この僕は。ルーイ達の仲間になるつもりはサラサラない」
age 7 is over.
次回予告!
「何度でも言うけど、この僕は入る気無いから」
「もう一度取り引きしようか、ルーイ達」
「いいですね、なんだか」
「ここに何しに来た、答えろ」
「冷たいこの世は何でもそうだ、与えなければ何も降ってはこない」
次回、age 8!
彼の彼による彼のための!
「大丈夫だよ。ね?」
お楽しみに!!




