表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
96/327

第95話 綺麗

【カイロ通り】



ガラガラガラガラ。



石畳の通りの上を、並んだスクーターとスケートボードが軽やかに駆け抜けていく。


二人乗りのスクーター、運転はエリーナだ。後ろに座るハーショウは、流れていく景色に興奮していた。


その隣で走る、最近街でも流行り出したスケートボード。誰かが乗っていると気付いた通りの人々は、乗っている人物にギョッと目を見開く。


女性は皆、顔をポッと赤く染めた。



「ひゃあ!!」



「きゃあ!!」



「こんにちは」



スケートボードを器用に操りながら、ヨースラは通りの人々に笑顔をふりまく。


風になびく姿が、なんとも爽やか。



「ヨースラよ〜」



「ふわあああ」



少し異常な光景だろう。


スケートボードに乗るヨースラ、スクーターにはエリーナ。そして何故か、エリーナと二人乗りしている謎の男。



「何だあの男は」



「エリーナちゃんの何なんだ」



不審者に向ける視線をシャワーのように浴びながらも、ハーショウは気にすることもない。明るく、爽快な景色に大きく伸びをした。



「いやぁ〜! いい景色だね〜」



「ハーショウさん、きちんと座ってくださいね。ほら、下り坂ですわ。歯を噛まないように」



「おわっ!!」



急な下り坂に、スクーターがフワッと軽くジャンプする。持ち上がる心臓、ハーショウは慌てて座席を掴む。


スケートボードも軽くジャンプし、見事に着地。


エリーナはグッとハンドルを握りなおし、眉をひそめた。怒りのままに。


パレスを出てからもずっと、エリーナの怒りは収まっていないようで、ヨースラは内心ヒヤヒヤする。



「……あの辺りね、ありがとうジェイ」



「お、見つかったのかい?」



「ええ」



流石はジェイだ、あっさり後輩達を見つけてしまった。


しかし、エリーナの表情は深刻なままだった。



「……」



「ん、どうしたんだい?」



「あの子達、誰かと一緒にいるようですの」




【ヌーブ通り】



一方、その少し先を曲がった通り。


パレスに向かって歩く、彼等の姿があった。



「そういえば、貴族さんの名前聞いてなかったっすね」



「そうだ」



何故か前を行く青年に、レオナルドが名前を尋ねる。だが青年は、うーんと渋ってみせた。



「この僕は貴族なんだよ。危ないから、簡単に名前を明かすなって言われてるのさ」



「どうして?」



キョトンとするアイリに、ナエカはどう説明したものかと悩みながらも、言葉をひねり出す。



「……ほら、お金持ちだから。怪しい人に狙われるかもしれないから」



「そっかー」



「アイリが納得した! すげぇ!」



「あながち間違ってねーけど、やめとけよ」



ショウリュウは毒つきながら、ジッと青年を凝視する。


貴族の端くれとか言ってたが、名前を明かすなと言われるくらいの地位はあるんだな。



「貴族さんってのも、大変なんすね」



「そう、だから名前言えないからさ」



青年はクルッと振り返り、ぴょんとアイリの目の前に立つ。驚くアイリの前で、優雅にうやうやしく、ポーズを決めた。



「ルーイが決めてよ、この僕の名前」



「ほえ……私?」



突然の指名に、アイリは戸惑う。



「私が決めていいの?」



「うん。この僕の名前だから、美しいのがいいな」



他の三人もポカンとする中、アイリはうーんと考え込む。


──この人の名前、美しい名前。


美しい、美しい、美しいものといえば。


例えば、里の丘に咲いている花、この街の景色。万華鏡のような、ルノの瞳の色。


例えば、先程現れた獣。まるで雪のような、あの美しい白い毛。


……雪?



「そうだ」



舞い降りてきた考え。昔、里で聞いたとある言い伝え。


アイリは名案だ、と言わんばかりに、目をカッと開く。


アイリが考えた名前は。



「シキ!!」



「シキ?」



「うん、シキ」



どっから出てきた、と問いかけるショウリュウに、アイリはクルッとその場で回ってはしゃぐ。



「昔ね、フェミーナおば様がおっしゃったの。どこかの山で雪が降ると、シキカイトという雪を告げる妖精が、山から降りてくるんですって!」



随分古い言い伝えだ。


その案内人の妖精は、羽根を生やし大層綺麗だそうな。見た者に幸せを運ぶ、と伝えられている。



「だから、シキ!」



シキカイトからとって、シキ。



「アイリ、あんたそれゴーレムと変わらないセンスだぞ」



「なるほど〜! この僕はまさに今、ルーイ達に情報を告げるシキカイト、というわけだね。なんて美しいんだ!」



本人はいたく気に入ったらしく、うんうんと何度も頷く。その反応に、アイリもニコニコと頬を綻ばせた。



「いや、絶対そこまで考えてないだろアイリは」



青年──シキは、再び一同に向き直った。



「じゃあ、よろしく。この僕のことは、これからシキ、と呼んでくれて構わないからね」



友好的なシキにホッとしたのか、ナエカがおずおずと進み出る。もう、ビクビクと震えたりしない。



「よろしく、シキさん」



「んーん、シキでいいよ。この僕は紳士だからね」



「自分で言うかよ」



「いや〜楽しいな」



ショウリュウのジトッとした目つきもなんのその、青年は軽やかに先を歩きだす。


しかし、すぐにその足が止まった。



「……ん?」



シキは、ゆっくりとこちらを振り返る。



「おかしいな」



シキは何かを確かめるように、ズイッとレオナルドの目と鼻の先に立つ。



「お、おわ!! おいおい、なんだぁ!?」



「……」



レオナルドだけではない。しっかりと一人一人に近づき、何かを確かめていく。



「ほえ」



次々と確かめていく度に、先程までの余裕綽々の表情から徐々に余裕が失われる。


その顔がまさか、と言っていた。



「だから、何だよいきなり」



「もしかしてルーイ達、剣の団なのか?」



思わぬ言葉に、一同は言葉を失う。


──何故それを。そんなこと、言ってないはず。



「まだ言ってなかったね」



「じゃあ……そうなんだね?」



四人は目を見合わせたが、アイリを皮切りに次々と頷く。


そんな四人に、シキは雷に打たれたように驚愕した。目も口も大きく見開き、茫然と頭を抱えだす。



「なんてこった!! この僕としたことがあああぁ。まずい!!」



「はぁ!?」



「ご、ごめんねルーイ達、この僕はおいとまするよぉおおおお!!」



そう叫ぶや否や、凄まじい勢いで逃げ去っていく。



「ええぇーー!?」



「何で……?」



「なんだよ!!」



「獣の次は今度はこっちとか、ナシだってぇええ!!!」



四人は、慌ててシキを追いかけたのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ