第93話 何故
【パレス 大広間】
バン!!
派手に広間の扉が開かれ、エリーナとヨースラが息を切らして広間に駆け込んできた。
広間にはハーショウが一人、ドナが淹れてきた紅茶をすすっている。
「本当にいない……」
エリーナは、ガランとした広間に呆然とした。ヨースラも、見慣れないその光景に目をパチクリさせる。
待機しているはずの、51期生が誰もいない。もうすぐ、リンゴの特訓の時間ではないのか。
ハーショウは焦っている様子の二人を前に、朗らかに笑顔を向けた。
「遅かったね、二人とも」
「ハーショウさん」
「ハーショウさん、どうしてここに?」
「うーん、それはね」
口に出すか、迷っているようだ。何かあったのだろうか。
いや、それよりまずは、51期生の事を聞き出さなければならない。そう思い直し、エリーナはもう一度口を開く。
「ハーショウさん、あの子達見ませんでしたか?」
「いや、ここに来た時はもういなかったよ。僕もビックリしたんだから」
「そうですか……」
エリーナは次に、ソファーの後ろで無表情で立ったままのドナに尋ねる。
「ドナ、あなたは何か知ってるのかしら。あの子達が何故いないか、知っているの?」
「はい」
「本当ですか?」
血相を変えて詰め寄る二人に、ドナは追加の依頼の存在を明かす。街に現れた、見えざる者らしき謎のキツネ。
その依頼の内容を、彼等に見られてしまったのだという。
「依頼の内容を確認すると、出て行きました」
二人の顔から、分かりやすく色が無くなる。
「あの子達が?」
だが、少し疑問は残る。
他の子はともかく、ナエカは突然パレスを出て行ったりなどしないと思うが。あの大人しい子が。
アイリだって、道に詳しくないのに無謀に出て行ったりするだろうか。
「いえ、ショウリュウさんが」
「え!?」
正確に言うと、ショウリュウが真っ先に出ていき、他の三人が止めようと後を追って出て行った。
「そういうことですか……」
ヨースラの言葉と共に、エリーナもガックリと肩を落とす。
そんな大変な状況を、淡々とした口調で話さないで欲しい。
それにしても、三人が止めに行ったにしては一向に帰ってこない。ハラハラする心臓に、ハーショウがトドメを刺す。
「もしかしたら、話が盛り上がってキツネを探す話になってるかもしれないね」
「あーのー子ーたーちー!!」
エリーナはもうカンカンだ。ヨースラは珍しい団長の怒りに、冷や汗を流す。
じゃあ、今頃はそのキツネを探しているのか。
──待っておけと言ったのに、ヒミツがあるのに、特訓があるのに。何故勝手に任務に行こうとする。
エリーナはため息をつくと、スッと目を閉じる。
「ジェイ、聴こえる? あなたの言った通り、あの子達全員いないわ」
『ホンマか、何かあったんか?』
「追加の依頼があったんだけど、それを見て出て行っちゃったみたいなの」
『ウソやろ!?……うわぁ、やりおったな』
「あの子達の居場所分かる? なんとか探さないと」
『むっずかしいなぁ、せめて大体の向かった場所が分からへんと』
その言葉に、エリーナはパッとドナの方を振り返った。
「そうだ、そのキツネの依頼はどの通りからの依頼だったの?」
「ユハバ通りです」
「ユハバ通りよ、ジェイ」
『……やってみるわ、カリンもそっちに向かわせる』
「私達も向かうわ」
ジェイとの頭の通信を終えると、エリーナはさて、と薄い手袋をはめ直す。
「行きましょうか」
早く、あの子達を連れ戻さないと。あのやんちゃ達を放ってはおけない。
「ちょっといいかい、エリーナ君」
急いで広間を出て行こうとするエリーナに、ハーショウが待ったをかけた。
紅茶の入ったカップをテーブルに置く。
「僕も行っていいかな」
「ハーショウさんも?」
「どうしてですの?」
政府の異能機関の高官が、団の任務に着いていくという。
エリーナの問いかけに、ハーショウはうーん、と言葉を濁す。
「そのキツネ、なんだけど──ちょっと心当たりがあるんだよね。気になるから、着いて行ってもいいかな」
「キツネについて、何か知ってるんですか?」
ヨースラが尋ねると、ハーショウはキラッと歯を光らせた。
「そりゃ、僕は異能機関の情報部だからね。何でも知ってるよ、任せなさい」




