第89話 追加
【パレス 大広間】
「ふええ、依頼こんなにあるの〜!??」
カリンは、嘆きの叫びをあげた。
積み上がる紙の束を抱え、ジェイも深いため息を隠せない。これは全て、助けて欲しいという人々の声だ。
今日だけで、こんなに困っている人がいるのか。
「俺ら、五人しかおらんのやで」
「あはは、ルノさんもう行っちゃいましたね」
「え〜!! ルノちゃんってば待ってよ、カリンがそっち行くの〜〜!!」
「待ちーや、カリンはこっちやろ」
「え〜〜!!」
揉めている時間は無い。
バタバタと出て行こうとする先輩達に、アイリ達も大変そうだとあたふたする。嵐のようだ。
エリーナはこの状況でも、フフと軽い笑みを浮かべた。
「今日はなかなか忙しいわね。じゃあ、行ってくるから」
「行ってらっしゃーい……」
バタン、と閉まる扉。
先輩達が突風のように全員出ていってしまい、広間に沈黙が流れる。
これからどうしようか。
「みんな行っちゃったね」
「教官来るまで、まだ時間あるじゃん」
遊ぼうかとレオナルドが提案した──その時。
ガチャ、と大広間の扉が開いた。
「あれ、ドナちゃん」
「おはようございます」
広間に入って来たのは、ドナだった。その手には、文字がびっしり詰まった紙の束。相変わらずの無表情で、淡々と彼等に頭を下げたのだが。
「……」
「ん?」
広間にいるのが51期生だけであるのを確認し、わずかにドナの目が泳ぐ。
「他の皆さんは?」
「全員任務に行ったみてーだけど?」
「そうですか」
ショウリュウの返しに、ドナは少し困惑しているようだ。普段機械のように動かない瞳が、鈍く揺れる。
「失礼します」
ドナが踵を返し、扉に向かおうとした瞬間。
机の角にぶつかってしまい、ドナが抱えていた書類が一枚、また一枚パラパラと地面に舞う。
「大丈夫かぁ!?」
「……こんなにいっぱい」
舞い散った書類の一枚を、レオナルドが拾う前に、ショウリュウが横からサッと拾い上げた。
どうやら、追加の依頼のようだ。
「……」
文面を目で追うショウリュウの顔。恐れを知らないかのように、これでもかとほくそ笑む。
何か、悪戯でも思いついたよう。
そんなショウリュウに、アイリは首を傾げ近付く。
「ショウリュウ?」
「じゃ、ちょっと行ってくるわ」
「え!?」
ショウリュウは軽く告げると、手に持った紙をヒラヒラさせながら、堂々と広間から出て行く。
突然のことに、残る一同は揃ってポカンとなった。
「ちょっと、ショウリュウ!?」
「おーい、待てって!!」
我に返ったアイリとレオナルドが呼び止めるが、ショウリュウは無視して出ていってしまった。パレスの外に。
「ほえぇ、どうしよう」
「どうしよう、って言ってる場合じゃねぇって!! 早く連れ戻そうぜ!!」
焦って飛び出そうとするレオナルドに、ナエカは尻込みした。
「でも、特訓が……ここから出ちゃダメだって」
「そーんなこと言ってる場合じゃねぇじゃん! リンゴ教官が来る前に、早くショウリュウ連れ戻さないと。リンゴ教官になんて言うんだよ!」
オオオオン?
リンゴの憤怒の表情、あの独特の語尾。アイリとナエカの頭にも、速やかに再現されていく。
──ダメだ、悪い結末しか予想出来ない。
「ヒィッ」
「い、行こう!!」
「よっしゃあ!!」
三人は結束すると、凄まじい足の速さでパレスを後にした。無表情のままのドナを残したまま。
とにかく、ショウリュウに追いつかなくちゃ。
「ショウリュウ、待ってよー!!」
「うお〜い!! ショウリュウ!!」
「アイリちゃん、速い……」
バタバタと去った後に広場を貫く、寂しい沈黙。
その時、もう一度広間の扉が忙しなく開いた。
「やぁやぁ、みんな!」
浮かれて威勢よく扉を開けた彼だったが、そこにいたのは取り残されたドナ、ただ一人。
「……あれ、ドナ君だけ? 51期生の子達もいないのかい?」
「いらっしゃいませ」
一人でパレスを訪れた、ハーショウだった。
「ドナ君だけ?」
「はい」
開いた、固い口。無愛想の中に明らかに困惑を抱えたドナに、何事かと目を見開く。
先輩達がいない中、唐突に出ていってしまったらしい。
「そうなのか」
……勿体無い、誰もいないなんて。
「せっかく、いい話持ってきたのにな」




