第85話 観光地
【パレス 大広間】
「な、なんだよこれ~!!!」
今朝の新聞の一面。
記事の見出しに、真っ先に記事を手に取ったレオナルドは大きな声をあげた。
騒ぎだすレオナルドに、他の団員も何事だろう、と新聞を覗き込む。
「……あ」
そこには、驚くべき文章が踊っていた。
『新たな観光地登場! 床と天井がひっくり返ったあべこべの迷路』
『天井の上を歩く? 貴重な体験はヘヌニ通りまで』
『取り壊し予定だった学習舎、新たなる遊技場としてお披露目が決定』
『不思議空間、不思議遊技場。新たな新名所への期待』
そんな見出しと共に、あの学習舎の写真が大きく載っていた。
「まさか……」
アイリは、マジマジと記事を読み返す。
そこにはひっくり返ったままの学習舎を綺麗に改築し、通行路を確保して、新たな観光施設として誕生する旨が書かれていた。
あの者の術によって現れた、不可思議な内装をそのまま利用するという。合わせて、周辺地域にも手を入れるらしい。
まさかの発想だ、誰が思いついたのか。
「何それ行きたい~! ウフッ」
「お前もう見とるやんけ! 行ってどないするんや」
「え〜。面白そうじゃ〜ん、行こうよ〜!」
ジェイの呆れた声に、カリンはむくれる。
行って何をするつもりなのか、既に下見は終わっている。飽きるほど。
「まさか、あの任務の目的ってこれ……なわけねーよな」
「なわけあるかいや!!」
不審な目を向けるショウリュウに、ジェイは大慌てで否定する。
「見えざる者が元に戻す前に、僕が倒してしまったから……」
ヨースラは複雑そうな笑みを浮かべた。
建物の床と天井がひっくり返った、あの時。
ヨースラによってあの長、見えざる者は確かに倒された。だが一度ひっくり返った建物は、術の主が消えても元には戻らなかったらしい。
ならば、いっそ利用しようと。
どのみち廃墟だったのだから、そのまま取り壊しても良かっただろうに。それは惜しい、ということか。その発想が清々しい。
任務の結果、とんでもないものが出来てしまった。
エリーナがフフ、と笑みを浮かべて記事を手に取る。
「いいんじゃない? これであの寂しい通りも、少しは活気づくんじゃないかしら」
「お客さん、いっぱい来たらいいなぁ~。ウフッ」
カリンの言葉に、皆も笑顔を浮かべる。
警察官三人組は長く閉じ込められた疲労と、胃に入れた謎の食べ物の影響で、しばらく入院することになったらしい。だが、少し休めば復帰出来そうとのことだ。
西署から剣の団へ、直々に感謝状が届いていた。
流石に遊技場を作った事は無いが、剣の団にとっては任務は日常でしかない。
この街には、見えない魔物が蔓延っているのだ。
「まぁ、任務成功してよかったけどな」
「見学してもらって良かったわね」
「それぞれ出来る事を、自分のやれる事をする。それだけです」
「自分の出来る事……」
アイリは、自分の出来る事は何だろう、と考えた。
幽霊を召喚する。この物騒な能力で、どうやってみんなの役に立てる?
「……」
ふと、ルノと目が合い、グルベールと鉢合わせした時を思い出した。
──あの時のルノのように、カッコよく出来るのだろうか。
ナエカは、ヨースラの言葉を噛み締めていた。
「私の、出来ること?」
ジェイさんは私と同じように見えざる者を倒す能力じゃないのに、あんなに役に立ってて。
でも、私には?
しょうもない能力しかない、私は?
思い悩む中、51期生が動き出す日ももうそこまで近付いていた。
age 6 is over.
次回予告!
「グルルル……」
「キツネの怪物……?」
「ショウリュウ、やめて!!!」
「もしかして、さっきの白いバケモノを探しているのかなぁ?」
「まったく、あなた達は……」
次回、age 7!
街に狐あり!
「ルーイ達、この僕と取り引きしないかい?」
お楽しみに!




