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第80話 余裕

『べべべべへへ!! ヘッヘヘヘ!!』



『いった~い!!』



突然床と天井が反転して落下し、床──いや、天井に打ちつけられたカリン。未だに続く痛みに顔を歪めた。


ヒリヒリと痛む足にめげず、カリンは気丈に立ち上がる。


すぐ横を、足が一本欠けた椅子が虚しく転がっていく。



「空間の中身をいじる能力か?」



「やるやんけ、こいつ」



そんな術を使う者がいるなんて。



「な、何これ!」



アイリは、他の画面に映ったものを見て悲鳴に近い声を上げた。


反転したのは、その部屋だけではない。


建物の、内装の全てが反転していた。


全てがあべこべになり、床が天井に変わる。階段は天井にくっつき、全くの無意味な出っぱった壁と化していた。


椅子やら机やら戸棚やら、全ての固定されていない物が真っ逆さまに落とされ、壊れて挙げ句横倒しになっている。


穴があちこちに空いたカーペットが、何故か窓にひっかかりぶら下がったまま。


ガラスの破片だろうか、何かがパラパラ落ちている音が映像から聞こえた。



「団長! 団長、大丈夫か?」



『だ、大丈夫。心配ないわ。何があったの? 見えざる者?』



エリーナは丁度、階段を降りて別棟の一階に向かっていたところだったらしい。自身の能力でふわりと浮き上がり、上手く着地したようだ。


突然動いた建物に、何事かと困惑している。


エリーナがふと窓の外を確認すると、外の景色は反転しておらず、普通の光景が広がる。建物の中の、構造の上下だけ変わってしまったのだ。



「ヨー!! ヨー、大丈夫か!?」



ジェイはヨースラの画面の様子に気付き、焦って大きな声で呼びかける。


ヨースラがいた部屋は物が多く、ヨースラは共に落下した物の洪水に埋もれてしまっていた。


どうやら本棚が並べられていた部屋だったらしく、本が降って来たようだ。



『はい……、なんとか』



必死に本の山から這い出るヨースラだったが、這い出たヨースラを見えざる物達が取り囲んでいた。


余裕たっぷりの表情で。



『……!!』



『ゲゲゲゲゲ!』



『ビィヤアアア!! ビィヤアアア!!』



レツの状態に切り替わったらしく、先程とは違い、映像にもくっきりと影が形となって映る。


手を振りかざし、一斉に飛びかかってきた。



「ヨー!!」



ヨースラもダメージを受けながらも、物を押しのけ押しのけ、なんとか応戦する。天井が、それほど高くない部屋だったのが幸いしたか。


本を上手く蹴飛ばし、見えざる者にぶつける。



『ギョベベ!!』



だが見えざる者は、チャンスと思ったのか応援を呼んだらしい。画面に映る影が、みるみる増えていく。


焦ってルノが立ち上がろうとしたが、ジェイがグイッと服の袖を引っ張り、ルノを止めた。



「やめとけや」



『べべべべヘヘヘヘ!! ミタ、ヤッタ、ヤッタ!!』



長はざまぁみろ、と言わんばかりに高笑いする。


カリンは、キッと見えざる者を睨みつけた。先程の大きな音から、カリンは既に察していたのだ。


──これってぇ、もしかしてこの部屋だけじゃなくて、他の場所も。



『……後輩ちゃんの前で、かっこ悪いとこ見せたくないのになぁ』



カリンは、スクッと立ち上がった。



『べべべべヘヘ!! べべ、マタ、マタヤル!! ヤルゾ!!』



見えざる者は、もう一度目に力を込める。


また建物の中を反転させる気だと、画面で見ていた一同が身構える。



「こいつ、またやるつもりだぜ!」



「もう一回光ったら、どうなるの?」



「……元に戻るかも」



「元に戻ればいいけどな」



そうだ。次にどう建物が動くのか、予想が出来ない。同じように反転するとは限らない。


どうなってしまうのか。



『べべべべヘヘ!!』



子供のように、大はしゃぎする見えざる者。



見えざる者に、カリンは余裕たっぷりの表情でニッと笑顔を向けた。


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