表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/327

第79話 長

「しゃ、喋ってるじゃん!」



はっきりと言葉を話している見えざる者に、レオナルドは慄いた。


これが、喋る見えざる者。見学している一同にも、緊張が走る。



『べべへへへ!! キタ、キタァ! ワザワザキタ!!』



「カリン! そいつが、そのアカデミーに隠れとる奴等の長や!」



目も手もどこかに隠した、ブクブク太った丸いだけの黒い体。雪だるまのように下腹部だけが膨れ、丸っこい足が五本伸びる。


とってつけたような小さな顔。全てを飲み込む大きな口だけが前に突き出し、出っ歯が目立つ。短く太い耳が一つ、頭の上から辛うじて覗く。


カリンは臆する事無く、その長をジロジロと凝視する。



『ふ~ん?』



会話が出来そう。それなら、ちょっと聞いてみようかな。


カリンは軽くステップを踏むと、ズイッと勢いよく見えざる者に近付く。



『べへ??』



『ね~ぇ、ここに誰かこなかったぁ? ウフッ』



『ダレカ?』



『三日くらい前なんだけど、知らないかなぁ? ウフッ』



『……?』



カリンの問いかけに、見えざる者はわざとらしく悩んでいる仕草をした。そして、下品に笑いだす。



『べべべべ!! キタ、キタヨ!! キタヨ、エモノ!!』



カリンの目が明らかに冷たくなり、見ていた一同も息を呑む。映像でも伝わる、滲み出る目の鋭さ。



『えもの?』



『べべヘヘ! ミツケタ……カラ? ミツケタラ、ニゲタ、ワスレテタ!! オイカケヨウ、オイカケヨウ』



『そうか、逃げられちゃったのかぁ』



どうやら警察官は、見えざる者から逃げ出せたらしい。モニターで見ていた一同にも、少しの安堵の雰囲気が流れる。


では、逃げ出した彼等は今、どこに。



「逃げ出せたなら、連絡くらいよこせばいーのによ」



ショウリュウは小さく呟く。その言葉に、ナエカとレオナルドも頷いた。


まさか、連絡が出来ない状況なのか。それとも。



『えもの、追いかけるって?』



カリンはそう言うと、スッと近くにあった机に手をかける。くっと力を込めて。



『ソウダ、オイカケル!! べべべべ』



『そっかぁ……』



──次の瞬間。


ガゴッと強い音と共に、机が宙に浮きあがった。


いや、カリンが机を持ち上げたのだ。それも、片手一本で。



「うわっ!!」



画面で見ていたレオナルドは、驚いて思わず声を上げた。アイリ、ナエカ、ショウリュウも、呆気にとられながら画面を見つめる。


カリンは、爽やかな笑顔を見えざる者に向けた。



『いっくよぉ~! そぉおおれ!!』



勢いよく振りかぶる。そのまま野球の花形投手のように、軽やかに机をぶん投げた。


あまりにも大きい、豪速球。



『べべヘヘ!??』



ガガン!!!



見えざる者は交わそうとするが、机が大きい為見事に当たってしまう。



『べべべべ、イタイ!!』



痛がってピョンピョン飛び上がりながら、部屋から出ようとする。カリンはすかさず出口の前に移動し、逃げ場を防ぐ。


──逃がさないもん!!



『べべべべ!! コウダ!!』



ビュン!!



見えざる者は逆に、側にあった椅子を二つカリンに向かってぶん投げる。カリンはとっさに、片手で一つずつ器用にキャッチしてみせた。



『べべ!?』



『おっかえし~!!』



キャッチした椅子をそのまま、凄まじい勢いでぶん投げる。



ガガガン!!!



『べべべべヘヘヘヘ!!』



見えざる者は宙に浮かんで交わそうとしたのだが、それも予測していたのか見事に椅子が命中した。



「すごい」



ぼそっと呟いたのはナエカだった。流石に先輩だ、このような戦闘に慣れているのだろう。


カリンは胸を張り、見えざる者の前に仁王立ちする。



『こっから先、行かせないもん! ウフッ』



『べべ、ムカツク!! ムカツク!!』



見えざる者は強く悔しがり、ダンダンと地団駄を踏む。



『オマエ、コウダ!! コウダ!!』



口から舌からビロビロ、と突き出し叫んだ──次の瞬間。



ビカーーー!!!



見えざる者の目が真っ赤に強く光り、ホノの映像が強く乱れる。



『きゃ!!』



赤く染まる視界。


画面も真っ赤に染まる。その眩しさに、一同は目を覆った。



「うわっ!」



「なんや!?」



ガガガン!!!



大きな音が鳴り、カリンはバランスを崩して倒れ込む。



「カリンさん!?」



ようやく光が収まった時、画面に映ったものは何故か部屋の天井だった。



「……あり?」



一体、何が。



『いたた』



何かに打ち付けられ、カリンは頭をさすりながら身を起こす。


大丈夫か、と声をかけようとしたジェイは、映像を確認して大きく目を見開く。



「こ、これは」



『……?』



状況が分からないカリンは、自身が倒れている場所を目をこすりながら見渡す。


──その時、左手が何かに触れた。



『ん?』



それは、逆さまになったシャンデリアだった。



『え!?』



見上げると、そこには傷だらけの天井が広がる。



『な、なにこれ~~~!!?』



『べべべべヘヘヘヘ!!!』



カリンが倒れていたのは、部屋の天井だった。



部屋の天井と床が、上下すっかり入れ替わっていたのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ