第77話 総出
【テイクンシティー 西側】
【ヘヌニ通り 廃校前】
その廃校になった学習舎は、シティー全体を囲む城壁に近い場所にあった。華やかな中央通りとは一線離れ、人の気配すら無い静かな通り。
もう何年も、そのままにされていたのだろう。古くに建てられた壁のあちこちにヒビが入っており、今にも崩れそうだ。
当然、灯りもついていないので暗い。周りの建物も老朽化が進んでおり、随分と寂れている。
少し遠くに目を向ければ、まさに城壁が目に飛び込んでくるような土地柄だった。テイクンシティーにも、このような場所があるのだ。
「え〜、ここなのぉ?」
元気にパレスを出てきたカリンだったが、流石に二の足を踏んでいた。
そんなカリンの肩を、ジェイが軽くポンと叩く。
「なかなか雰囲気あってええやんか。ほな、早速これ持ってってな」
ジェイがエリーナ、カリン、ヨースラに差し出したのは、手のひらサイズより更に小さなぬいぐるみだった。仲良く三匹いる。
毛糸とフェルトで出来た普通のぬいぐるみ、のようには見える。ねずみだろうか。持たされた小さい彼は、薄い黄緑色。
色違いの大きな彼は、濃い緑色。緑色の大きな方を、ジェイ自らが抱えて持つ。
「なんすか、これ」
「ちっちゃいんがボノ、大きいんがホノ。ヌヌレイさんからわざわざ借りてきたんや、壊さんといてや」
「これがあると、緊張しそうね」
小さなボノを、三人がペットを連れるように肩の上に乗せる。なぜ不安定な肩の上に乗るのか、乗ることが出来るのか。
「じゃ、行ってくるわね」
「おお」
「行ってきます〜」
三人は颯爽と、古びた学習舎に足を踏み入れて行った。行方が分からない警察官達は、無事なのか。
「みんな、こっち来てや」
ジェイに促され、アイリ、ナエカ、レオナルド、ショウリュウ、そしてルノはジェイについていく。
アカデミーから、少し離れた場所。石畳の階段になっていて、そこにジェイは腰掛けた。なんとなく、他の五人もそれに倣いジェイの周りに座りこむ。
「ここで一体何をするつもりだ? 何故あそこから離れる?」
「まぁまぁ、今から見せるわな」
そう言ってジェイが取り出したのは、先程のホノだった。
頭のてっぺんに三角の形をしたランプがちょこんと飛び出てており、それが可愛らしい。
「ランプちゃうで」
「ほえ」
ジェイは、ランプ──いや、どうやら違うらしい──その突き出た突起をパン、と押す。
すると。
「え!?」
「すげぇ!」
『こちら、エリーナ。どうかしら、聴こえてる?』
パアァッとホノが光を放ち、目の前に緑色の映像を映しだす。
ホノが生み出したスクリーンからエリーナの声が聴こえ、更に一同を驚かせた。
「おお、声が聞こえるっすね!!」
「何これ!?」
「へぇ」
建物の内部の映像が、エイガのように動いている。まさに、今の状況を伝えているのだ。
「動いてる!」
それに、映し出された映像の少々位置が高い。そう、宙に浮かんでいるような。
「これって、もしかして」
「せや、ボノが送ってくる映像をホノが映しとるんや」
先輩達の肩にいる、あのぬいぐるみから。ジェイはすごいやろ、と得意げに機械を動かす。
このホノとボノは、とあるラナマン系のエイドリアンが作製した物らしい。流石は、エイドリアンが作っただけのことはある。
凄まじい技術だ。
「今日やるんは、任務の見学やで!」
「見学?」
「ケンガクって?」
「アイリ、あんたなぁ……」
ショウリュウの呆れた声を他所に、ジェイは上機嫌でホノを動かす。
「本格的に任務に就く前にな、日頃俺らがどんな任務しとんのか、このホノとボノででみんなに見てもらおうってわけや」
「なるほどな」
「すげぇっすね!」
ヨースラが合流し、先輩達に気合いを持たせる意味もあるのだろう。
「今回は49期生総出や、派手な任務になるで」
その言葉にショウリュウは何か気付いたのか、はた、と動きを止めてジェイの方を向く。
「……あんたも?」
ジェイは不敵な笑みを浮かべた。
「せやで?」
ジェイさんも任務に?
こんな離れた場所から、どのように任務に加わるのだろうか。
アイリは、ケンガクにワクワクする気持ちが湧き上がるのを感じた。
ナエカは、ジェイを横目に真剣な表情になる。
「私、ジェイさんの能力知らない……。ヨースラさんのも」
「知らないの?」
「あ、オレもそうだぜ。ルノさんのも強そうだけど、よく分かんないしさ」
ナエカとレオナルドの言葉に、アイリは目を見開く。
「そうなの?」
意外だ。
特にナエカは昔から剣の団が好きと公言しており、すごく団員の事に詳しい。まさか、団員の能力を知らないとは思っていなかった。
「そういえば俺も知らねーな、ジェイジーとヨースラの能力は。ルノは、まぁ、なんとなく知ってるけど」
「ショウリュウも?」
団員の身内であるショウリュウですら、その能力を知らない、という。エースであるルノの能力ですらなんとなく、と。その程度なのか。
団員の能力というのは、意外と知られていないものなのかもしれない。
もしかしたら、ベールに包まれた二人の能力を見る事が出来るかもしれないのだ。
後輩達はその能力が気になり、一斉にジェイに視線を集める。
皆の注目を集めたジェイは、スッと眼を鋭くさせた。
「……さて、始めよか」




