第72話 挑戦的
【パレス 三階】
【オーナーの間】
ショウリュウは大いに困惑していた。
「なるほど、ゴーレム集団ね」
「言っとくが、ゴーレムってのはアイリが勝手にそう言ってるだけだぞ」
目の前で座って話を聞いているのはマルガレータ、ハーショウ、エリーナ、そしてルノ。
だが、ショウリュウを困惑させているのは彼等ではなく、背後に立つドナだった。じっと立ったまま、表情をピクリとも動かさない。
最早、機械でも置いているかのよう。
──なんでこいつここにいるわけ? やりにくいんだけど。
「いいじゃないの、分かりやすくて。ふふ」
「それで、どうなのさね。見えざる者なのかい?」
金属の機械、武器は銃。人間の武器を利用する見えざる者だなんて、なかなか賢いじゃないか。
そう付け足すマルガレータに、ショウリュウはあっさりと首を横に振る。
「さあな。だが、アイリを狙ってたのは間違いない」
「そうなのか……」
クレエールの娘を狙ったということなら、やはり見えざる者であった可能性は高い。アイリはクレエールの末裔で、次期当主だ。
そう考えてはいても、どこか腑に落ちなかった。本当に見えざる者の仕業なのだろうか。
「あのゴーレムの──」
ゴーレム、まで口にすると一同がバッとショウリュウの方を向く。ドナ以外。
意味深な視線がショウリュウに突き刺さり、咳払いで誤魔化す。
しまった、アイリに乗せられた。
「……金属野郎の体に、文字が書いてあった」
「ああ、アイリ君も言ってたね」
突然その文字に光が宿り、真っ赤になり興奮したようだった、と。
何かの術の一種だろうか。
「あの文字。記憶が間違ってなければ恐らく、古代ヘリシェ文字だ」
「古代ヘリシェ文字?」
昔のバタライ地方で使われていた文字だ。今では過去の産物で、見る機会は少ないが、エイドリアンの一部の術にも使われている。
だが──。
「見えざる者の連中は言葉や文字に弱い、そうだろ? 人間の文字を使いこなせるとは思えないね」
「なるほど、そういうわけかい」
マルガレータが納得し、深く頷く。
そもそも、個人差はあるだろうが人間が嫌いな連中だ。武器ならともかく、文字をわざわざ利用するとは考えにくい。
それも、古代の文字を。
「てか、文字読めねーだろ。こっちの今の言葉だって、あいつらはろくに喋れねーし」
「……それがね」
ここで、エリーナが口を挟む。
「何だよ」
尋ねるショウリュウに、エリーナはチラッとルノに視線を向けた。
ルノも察したらしく、軽く頷くとショウリュウに向き直る。そして、ゆっくりと口を開く。
「しゃべる見えざる者に、会ったかもしれない」
「は?」
「人と変わらないくらいしゃべる」
「はぁ!?」
驚くショウリュウに、エリーナがグルベールの話をする。
あの人間とは思えない、変化した不気味な姿。そして、人と変わらない流暢なテイクンの言葉。
本当に、人間かと思えるほどの。
ショウリュウの目が徐々に挑戦的になり、瞳にギラギラと光が宿っていく。
「……へぇ、じゃあそいつの仕業かもしんねーな。面白いことになってるっつーか」
上等だ、と言い切る。
「ショウリュウ君は、もう知ってるのかい?あの話」
「あの話?……ああ、聞いたな」
あの話、には心当たりはあった。入ってすぐに、アイリとレオナルドから聞かされた話。
クレエールの長老の話だ。アイリが入団した時に皆に伝えた、長老の占いの話。
──アイリが、団に入った理由。
あっさりと聞いた、と答えるショウリュウに、ハーショウはニヤリと笑みを向けた。
血の王が蘇ったと聞いても、この様子では動揺したりなどはしなかったのだろう。
流石、と言ったところか。それでも、彼はまだ若いのだ。いや、若いからこそ強気になれる。
「せめて、君は来年に入団した方が良かったんじゃないかい?」
ハーショウの言葉に、鼻で笑うように返す。
「オールブライトなめんじゃねーよ。オロロが蘇ったんなら、俺がぶっ倒す」
俺が誰だか知ってんだろ?
その表情に、迷いはなく。かえって周りが戸惑ってしまい、ショウリュウが首をかしげる。
「そりゃ、頼もしいことさね」
「はぁ? 何だその反応は」
ドンドンドンゴロゴロゴロゴロ!!!
ガンゴンガンゴン!!
ドーーン!!!
「なあぁああ〜〜!!」
広い部屋が揺れる。扉の奥から何かが落ちるような、大きな音が立て続けに聴こえてきた。
更に続いて、聴き慣れた誰かさんの虚しい叫び声。
「……?」
集まっていた一同は、一瞬のことに言葉を失う。
「どうしたんだろう、今の」
「レオの声だったわよね」
レオナルドの悲鳴のような声。
コンコン。
何が起きたか分からず頭に疑問符を浮かべる中、唐突なノックの音がした。
「入りな」
オーナーの呼びかけに、キイィと扉が開く。
姿を現したのは、やけに真剣な顔つきをしたアイリだった。
「アイリ君」
アイリはペコリと頭を下げると、ショウリュウに近付く。
「ショウリュウお願い、来て!!」
「はぁ?」
「いいから、来て!!」
アイリは実は、ほとんど半泣きだったのだ。




