第64話 言葉
「バカ!! 何言ってんだよ!!」
青年──ショウリュウは、ともだち、という言葉に顔を真っ赤にして叫んだ。
先程までの、分からない言葉の羅列は一瞬で変化した。聞き慣れた、テイクンの言葉の羅列に。
「大体、さっき会ったばっかりだっつーの!!」
「ん? でも、次に入る……のは? ショウリュウと同じ51期生。だったら、だから、ショウリュウのともだち!」
女性はニカッと笑顔でそう言い切る。
──今、何と言った?
「5、51期生!?」
随分と辿々しいカタコトの言葉だが、彼が51期生だと、確かに女性は言った。
「まさか、今日パレスに来るって言ってた……」
新しい51期生。
アイリの言葉に、ショウリュウはバツの悪そうな表情で返す。
「そうだよ」
「この子、弟でショウリュウ! よろしくね」
ショウリュウは、彼女の弟だったらしい。
弟だというショウリュウは、姉である彼女とは違い、かなり流暢に話せるようだ。発音もこの国の人間と変わらずに綺麗で、違和感を感じさせない。
恐らく、アイリよりも喋れるだろう。
──この子が新しい子、新しい51期生……。
アイリがまじまじと見つめるのが癪に障るのか、ショウリュウはフンッと不機嫌そうに、目を逸らしてしまう。
そんな弟の肩を引き寄せ、彼女はニコニコと微笑む。
「でね、わたしおねーちゃん、シリュウ! 仲良くしてな」
「ほえ!?」
その言葉に、アイリはギョッとした。
──リ・シリュウ。
予想外だった。この女性が探していた、リ・シリュウその人だったとは。
伝説の団員、まさにそう呼ばれた人。本家の子で剣の団、元エース。想像していたような威厳は無く、朗らかで優しい印象だ。
よりにもよって、あのゴーレム達から助けてくれたのはシリュウの弟だったのだ。アイリは、おずおずとシリュウに頭を下げた。
「こんにちは」
「あんたに用があるってよ」
「え、わたし?……何?」
戸惑うシリュウに、アイリは再び深々と頭を下げ、そっと包みを渡す。
「私、51期生のアイリって言います。これ、ハーショウさんがシリュウさんにって」
51期生のアイリ、だなんて初めて口にする。
シリュウはその包みを見た瞬間、大喜びで包みを受け取った。よほど嬉しいのか、その場でピョンピョン飛び跳ねる。
「これ、ハーショウさんが頼んだものだよ! やった、ありがとね」
大はしゃぎするシリュウとは反対に、ショウリュウは呆れたようにため息をつき、包みをシリュウからもぎとる。
「ハーショウさんに、頼んでた、だろ? ったく、ハーショウの奴もこんなの郵便で送るか、自分で持ってくりゃーいいんだ」
ショウリュウのその物言いに、シリュウが顔をムッとさせる。
「ショウリュウ! そんなの言わない、失礼よ」
そんな姉に向かってあからさまに肩をすくめると、ショウリュウはバッと上着を脱ぐ。上着を肘掛け椅子にかけると、ギシギシと椅子が揺れた。
そして、軽く目でアイリの方を示す。
「そんな事より、怪我診てやれよ」
「けが?」
そこでシリュウはようやく、アイリの腕の傷とブラウスの血の跡に気が付いた。顔を真っ青にすると、大きく悲鳴をあげる。
「キャー!!」
いつの間にか、赤い色で染められた範囲が広くなっていて物騒だ。
「マオニ、マオニ! とってくる!!」
何と言ったのか分からないまま、シリュウが大慌てで奥の部屋に入っていく。
そんなシリュウを他所に、ショウリュウはドカッと中央のソファーに腰掛けると、チラッとアイリの方に視線を向けた。
「……そんなとこにつっ立ってないで、さっさと入ってくれば?」
「うん、ありがとう」
アイリは少しホッとしながら、奥にに入ってみた。
そのリビングは、見た事が無い物で溢れていた。
茶色、深緑、真紅の赤。家具は全体的に深い色に染められ、落ち着きがある。縫ったのだろうか、ずっしりとした刺繍の布が家具のあちこちにかけられていた。
棚の上には謎の仮面に、綺麗な石が並ぶ。木で出来た仮面に見られているような感覚。
これも作り物だろうか、垂れ下がった笹のような植物が飾られている。全てが目を引いた。
興味津々でキョロキョロと部屋を見回るので、ショウリュウは少し気恥ずかしくなったらしい。
「──おい」
「ん?」
「あんま見んなよ」
「え、素敵だよ」
アイリがはっきりと返すと、ショウリュウは黙り込んでしまう。
ふとアイリは、ショウリュウの首にかけられた勾玉のネックレスに気が付いた。
「それ……」
「お?」
紐の部分だけ見れば年季を感じるが、中央の勾玉が強く目を引く。
夕陽のような、真紅にオレンジの混ざった色。部屋の灯りに反応してか、僅かにキラキラと光を放つ。
──綺麗。
プルルルル!!
眺めていたその時、家の電話が派手に鳴り響く。
「誰だ?」
プルルルル!!
ショウリュウは首をかしげると、ソファーから立ち上がった。




