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第61話 弾丸

「あんた、団の人?」



冷たく鋭い目で、こちらを見つめる青年。


アイリは一瞬言われた事の意味が分からず、当惑の表情を浮かべた。


──まだ国の人にお披露目してないのに、ナイショなのに、何故団の人だと分かったんだろう。


口に出したわけではなかったが、青年にはなんとなくアイリの反応が伝わったらしい。小さなため息をつく。



「マーチが流れてるってのに、悠長に歩いてる奴なんて、団の奴か田舎者って決まってるんだよ」



「マーチ?」



確かに、襲われる前に可愛らしい音楽は流れていたが。それが一体、どうしたと言うのだろう。


ポカンとアイリが首をかしげると、青年はピクリと眉を動かし反応する。



「……は? 知らないとか、あんたもしかして田舎者かよ」



──青年曰く。


あのマーチは、このダリュロス通りで決められた、警戒の合図だったらしい。マーチが流れたら避難せよ、と。


基本的には見えざる者の発見があった時に、通りの人々に報せる物だ。それ以外でも、たまに使われるけれども。



「てっきり、マーチを聞きつけて来た団の新入りか、と思ったんだが……どうやら違ったみてーだな」



そう告げながら、青年はスクッと立ち上がり、何やら辺りを探し始めた。



「そうだったんだ……」



アイリは、息を吐き出すかのように呟く。


それでマーチが流れた途端、人の波が一斉に無くなったのだ。皆が必死に逃げていたのに、気付かなかった。


今回もいつもの通り、マーチが流れ──だが、現れたのは謎のゴーレム。


ではやはり、あのゴーレムは見えざる者なのか。



「……」



近くを歩き回っていた青年は、その場にしゃがむと、あのゴーレムが残した弾丸を拾う。


綺麗な線が入った弾丸。弾を指で摘んでジッと観察し、青年の瞳が鋭くなる。


よくある弾丸と、変わりはしない。固い金属の感触。



「あんた、あの機械に見覚えは?」



「ゴーレム」



「ゴーレムじゃねーだろ、流石に。実際に見たことは?」



立ち上がった背中越しにそう聞かれ、アイリは首を横にふる。



「じゃあ、誰かに恨みをかったことは?」



「分からないけど、無いと思う」



アイリはかすかに震えながらも、はっきりと答えた。


街に来る前はずっと里に篭りっぱなし、この通りに来た事すら無かったアイリだ。どこぞの誰かに、恨みを持たれるようなことなど。


だが、青年は何故そのようなことを尋ねるのか。


青年はだろうよ、と呟くと再びアイリに向き直った。



「あの金属野郎が狙ってたのは、間違いなくあんただぜ」



その言葉に、アイリは思わず目を見開く。


薄々分かっていた事ではあった。行儀よく並び、こちらにはっきりと向けられていた銃口。


──間違いなく、アイリを狙っていた。


アイリの顔が青くなる中、青年は背を向けて大きく伸びをする。



「それにしてもあんた、団の奴じゃないなんてな。でも、エイドリアンはエイドリアンだろ?」



なんか能力使ってたみたいだし、と言われて、アイリは頷く。



「で?──弾が思いっきり腕かすめてたみたいだけど、具合は?」



「!!」



青年の言葉に動揺し、忘れていた痛みを一気に自覚した。血が未だ滲む腕は、どこか熱を持ち痛みが滲み出す。



「──イタッ」



痛みが身体を貫きながらも、アイリは自分の身体が未だに震えている事に驚いた。心臓は早鐘のように鳴り、未だに治らない。



「おいおい、大丈夫かよ。病院遠いっつーのに」



しょうがない、という表情で、青年はアイリの手を取ろうとしてくる。



「だ、大丈夫です」



「血だらけだけど?」



青年は無愛想に返し、それ出せ、と手を差しだす。アイリからブラウスの飾りのリボンを受け取ると、青年は手早く応急処置をし始めた。



「……ありがとう」



「生憎、医術には疎いんでね。テキトーだし、とっとと病院行くんだな」



そう言いながら、病院の方向を顎でしゃくって示す。そして、立つように促してきた。


病院まで手助けしてくれるつもりのようだが、ここで病院に行ってしまうと、恐らく約束の午後の時間に間に合わない。



「……」



「おい、どうした?」



ハーショウとの約束。


確かに、先輩達からは団員である事を明かすなと言われた。


だが、ここまで助けてもらった人に身分を明かさないのはいかがなものか。


アイリは覚悟を決め、ギュッと口を結ぶ。



「──あ、あの!!」



「お?」



「私、団員です。51期生」



青年はその言葉に、目を見張る。



「あの、行かなきゃ行けないところがあって、時間が無いの。知りませんか? エルドラドってアパートメントの、シリュウさんって人の家」



「……はぁ?」



青年は、何言ってんだと言わんばかりのポカンとした顔で、アイリを見つめたのだった。




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