第60話 刀
バンバンバンバン!!!
アイリに向かって、一斉に銃口が火を吹く。
「きゃあ!!」
アイリは必死に後ろにジャンプして、地面に伏せて弾丸を避けた。
いけない、あれに当たっては。
咄嗟に動いた体は、本能だった。後ろの壁に弾丸の残した跡が連なって残り、アイリは思わず目を見張る。
「どうして……」
ゴーレムがこちらを狙っているのか、何故。
何が起きているのか分からず、頭が思考を止める。だが、先程から唱えていた呪文は完成した。
「冥地蘇生!」
お願い、みんな助けて!!
アイリは、必死にその死者達を呼び覚ました。
アイリを守るように煙が立ち昇り、実体の無い影がいくつも現れる。知り合いではないが、力となってくれる者達。
「ぐあぁ!!」
「のわぁあ!!」
次々と現れる影。幽霊達の力で、あちこちで派手な悲鳴があがる。
幽霊達は次々と彼等にぶつかっていき、金属の体をべっこりと凹ませてしまった。
「あれ?」
──今のが、ゴーレムの声?
アイリは首を傾げる。随分と、人の声に近いように聞こえるのだが。
アイリの疑問を他所に、またも金属が動きだす。
幽霊達のおかげで応戦出来たが、ゴーレムの数が多い。いつの間に、これだけのゴーレムに取り囲まれていたのか。
アイリは只ならぬ状況に、次の呪文を唱えだす。
──その刹那。
ダァン!!
一つの銃声が鳴り響いた瞬間、アイリの腕を鋭い痛みが貫いた。
「イタッ」
痛みが治まらない右の腕を見てみると、上着が切れていた。傷から覗く中のブラウスが、みるみると血で滲んでいく。
弾丸が、腕をかすめたようだ。そう自覚すると、痛み共に血がどんどん滲み出してくる。
この服、お兄ちゃんが買ってくれたのに……。
アイリは悲しくなり、一瞬動きを止める。ゴーレムは、その瞬間を見逃さなかった。
「!!」
まだ、幽霊に襲われていなかった生き残り。他の建物の角にいたゴーレム達が、銃を構えて一気に飛び出してくる。
今度は最初から銃を構えているのだ、アイリは身体がすくんでしまう。
まだ、アイリの呪文は完成していない。
「……!!」
ダァンダァン!!
アイリに向かって、正確に弾丸が放たれた。
……当たる!
反射的に目を瞑った──次の瞬間。
「バルナ!!」
まぶたで閉じられた暗闇の中で、誰かの鋭い声が聞こえてきた。
「え?」
──バシュッ!!!
驚いて目を開けると、強い風が大きな刃の形となり、弾丸を綺麗にぶった切ってしまう。
まさに、風の刃。
後ろから吹き抜ける風が、アイリの髪をバタバタとはためかせた。
──だ、誰!?
困惑するアイリを背に、躍り出たその青年。一人の赤い髪の青年が、ゴーレムの集団を前に立ちはだかった。
ガシャガシャ。
いきなりの助っ人に困惑した様子のゴーレム達は、一斉に助っ人の方へ標的を変えた。
金属同士がぶつかり合い、不快な音を立てる。
青年は畳み掛けるように、上着のポケットから札のような物を一気に取り出す。それも、四枚。
まとめて天に向かって高く掲げると、青年の周囲に見た事も無い光る文字が踊った。青年の頭上に広がり、綺麗な円を作る。
これは、術の陣。
ふゅおおおおお。
「チェバル!!」
──ドン!!!!
彼が天高く叫んだ途端、美しい円から嵐のような凄まじい風が、まるで大砲のように放たれた。
「うわっ!!」
「ぐわぁ!!」
まさに突風だ。ゴーレム達は金属であるにも関わらず、なす術もなく風で吹き飛ばされていく。
ダガアアアアアン!!!
そのまま壁に強く打ち付けられた。壁はガラガラと震え、崩れてしまう。
壁にめりこんだゴーレムは、ギシギシと虚しくもがくが、ゆっくりと動きを止めていった。ぶすぶすと、謎の煙を上げながら。
幽霊から逃げ出したゴーレム達も、顔を出した途端に、風にもろとも吹き飛ばされた。こちらも派手に転がっていく。
運良く飛ばされなかった者もいたが、軽く吹き飛ばされてしまった仲間達に、明らかにオタオタし始めた。
そのまま、我先にと逃げ出していく。
「あ、おい!!……待て!!」
青年の制止の声も届かず、ゴーレム達はそそくさと撤収していった。
破損したゴーレム達も、動けるゴーレム達が凄まじい勢いで担ぎ運んでいく。素早く、手際よく。
後には、静寂が残されただけだった。青年は、誰もいなくなった道をジロッと睨みつける。
「逃げやがった」
「はぁ……」
ホッとしたのか気が抜けてしまい、アイリはよろよろとその場にへたり込む。
青年はそんなアイリに気付き、大きなため息をつくと、アイリの方に近寄って来た。
この国ではまだ見た事がない、浅黒い肌。この街の人々は特に皆肌が白いので、際立って黒く見える。
青年はつかつかとアイリに近づくと、座っているアイリの視線に合わせて、目の前にしゃがみこんだ。
「あんた、団の人?」




