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第59話 銅

【二日後】


【テイクンシティー 西南ブロック】


【ダリュロス通り 16番地付近】



アイリは住所が書かれた紙を片手に、地図を探していた。ハーショウのお使いだ。



「この辺りだと思うんだけど……」



ダリュロス通りは、アイリが住んでいるセントバーミルダ通りからは、パレスを挟んで反対側にあった。


パレス周辺の大通りに比べると、人通りも建物も少ない。


住宅地のようだが、家にしろアパートメントにしろ他の建物にしろ、全体的に背も高く敷地も広い。どこか街の雰囲気も、ゆったりとしている。


同じシティーだ、カラフルで華やかなのは変わらない。ただ、すれ違う人々がどこか高貴で、上品な印象を受ける。


アイリは周りをキョロキョロ見渡しながら、どんどん歩く。迷わずこの辺りまで来れた、とアイリは上機嫌だった。


お使いを頼まれるのは嬉しい。里にいた頃は、アイリに頼み事をしてくる者などほとんどいなかった。


長老さま、お兄ちゃん、あとは……。



「あ!!」



大きな看板に書かれた地図を見つけ、アイリは看板に走り寄った。古い地図のようで、文字がかすれてしまっているが、なんとか読める。


今日はついてるみたい。


だがここは住宅地で、周囲は家ばかりだ。じっくり見ても、大したことが書いていない。そもそもアイリには、地図の見方がよく分からない。



「エ、ル、エルドラド!……これかな?」



それでも紙に書かれた住所と、同じ言葉が書かれた場所を見つけ、その方向に行ってみることにする。


──やっぱり、今日はついてる。


どこからか、軽やかな太鼓の音を皮切りに、可愛らしいマーチの音楽が流れてきた。耳に心地よく、足取りも軽くなるもの。


アイリは、音楽に乗って軽やかに歩きだす。



「伝説、か。どんな人なんだろうな」



新しい51期生の事も気になるが、これから会いに行く人の事が気になった。


ハーショウの説明によると、その卒団生は16歳という若さで入団。五年間も団に在籍し、団の歴代最長在籍記録を持っているという。


通常は団の任期は三年と決められており、任務の危険性も考慮され、基本的に伸ばすことはない。そう考えるとかなりの長さだ。



「ザイセキ、ニンキ? 人気じゃなくて?」



「と、とにかく。今までの団員の中で、一番長く団にいてくれたってことさ」



今の49期生が入団した時には、最上級生として、エースとしてかなりの人気を誇っていたらしい。ルノと入れ替わる形で、卒団した。



「まさに伝説だよ」



更に。



「その子も、本家の子なんだよ。それもアイリ君と同じ直系の末裔で、長子だ」



「ほえぇ」



そんな凄い人なら、もしかしてかなり威厳のある人なのだろうか。長老様みたいな。



「怖い人なのかな?」



少し心配になり、落ち着こうと周囲を見渡したその時。



「……あれ?」



ぼうっと考え事をしていたアイリは、周囲の異変によくやく気が付いた。


周りに、誰も街の人がいないのだ。


静寂が辺りを包む。今ここには、アイリただ一人しかいない。


この辺りは人通りが少ないが、それでも先程までは間違いなく、パラパラと人が歩いていた筈。



「何で誰もいないの?」



──そういえば、先程のマーチ。あのマーチが流れてから、さぁっと人の波が無くなったような。


まだ午前中、比較的人が多くなる時間帯にこれはどういうことなのだろう。


必死に辺りを見回すが、やはり誰一人いない。建物を見渡しても、人の気配がしなかった。



「……」



どうしたことなのか。


嫌な予感が、気持ち悪い感情が、アイリの心の中に湧き上がってくる。


もしかして、見えざる者か。そうであれば、少しはその気配を感じないものか。だが、感じない。


アイリはこっそり呪文を呟きながら、通りを一人歩いた。


──怖くない、怖くない!!


どこへ願うのか。何度も念じた、その時。



ガシャン、ガシャン、ガシャン。



どこからか、怪しい金属音が耳を貫く。それが幾重にも重なり、どんどん増えていくのが分かった。



「な、なに!?」



ガシャガシャ。



この音は一体何だ。音の重なりが次から次へと行き交い、いくつものその存在をアイリに知らせる。



「誰かいるの!?」



アイリが警戒し、グルリと周囲を見渡した──その時。


荒々しく壁にぶつかりながら、音の主が大勢姿を現す。


その姿を見たアイリは、思わずその名を口にした。



「ゴーレム……?」



昔、本の挿絵で見たことがある。銅で出来た、島を守る巨大な人形。


銅の体が炎のごとく熱くなり、近づく怪しい者がいれば全て焼いてしまったという。


目の前の銅の人形達は、そんなゴーレムと見た目がそっくりだ。


つぎはぎの金属の板を、組み合わせたような体。小さな丸い頭に、小さな六角形の目。それに反した、人間二人分の大きさはあろうか、という大きな首から下。


全身に、びっしりと刻印のように刻まれた文字。どこかの異国の言葉だろうか。


無機質な表情で、アイリの目の前に列を作って並ぶ。



「ゴーレムが、どうしてここに?」



本来のゴーレムは確か、どこかの島の守り神。であるならば、もしかしてこのゴーレムも何かを守っているのか。



「この通りを守ってるの?」



団と一緒なのかな。それとも、警察の人が作ったとか?


アイリは興味が湧き、ゆっくりとゴーレム達に近づこうとした──その時。



ガシャガシャ。



彼等は隠していた腕を見せ、真っ直ぐアイリにむけてくる。



──腕の先は、銃口だった。



「……!!」



次の瞬間、アイリに向かって弾丸が放たれた。



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