第57話 砂
【8年前】
【砂漠の国 ザガ国】
「はぁ……はぁ……!!」
「はぁ……」
どこを見渡しても景色が変わらぬ、広い砂漠の真ん中。
激しく砂が吹き荒れる中を、二人の姉弟が砂に足を取られながら、息を切らしながら駆け抜けていく。
子供だけで、たった二人。弟の方は、まだ十歳にもなってないだろう。前を行く姉に手を引かれながら、必死に姉の後をついていく。
まだおぼつかない様子で、何度も転びそうになる。それでも顔を上げ、ひたすら前を目指す。
弟の首には、勾玉のネックレス。夕陽と同じ色をした勾玉は、揺れながら陽の光に照らされ、光を放つ。
「ショウリュウ、ノラ!」
姉は息を切らしながらも、何度も何度も振り返った。後ろを走る弟に声をかけ、励ましながら、ひたすら足を前へ前へと進める。
もうどれほどの時間、こうしているのか。いくら足を動かしても、目的地はまだ見えてこない。果てしない砂漠。
ふと姉が振り返ると、遥か彼方に黒い豆粒のような物が見えてきた。豆粒はいくつにも重なり、どんどん数を増やしていく。
それが人影だと気付くのに、時間はかからなかった。姉は顔色を変え、慌てて足を進めるペースを上げる。
弟の腕を、グイッと引っ張った強い力。
「あっ!!」
その時、弟が砂に足をとられ派手に転んでしまった。小さな手のひらに、鋭く砂が食い込む。
「ショウリュウ!!」
姉が弟に駆け寄り、必死に彼を起こそうとする。
その間にも、後ろから来る黒い豆粒がどんどん大きくなっていた。
「クツラヤ、ナラヨ! ナラヨガ!」
「ヌアデリ、クツラ!」
「コツォノシ! ユガバワ!」
豆粒──人影からの叫ぶような声が聞こえてきて、姉は恐怖で顔を白くする。
ついに言葉が聞き取れる距離にまで、追いつかれてしまった。
砂には二人の足跡がくっきりと残され、道標になってしまっている。当然大人の方が足が速い、このままでは捕まってしまう。
「……!!」
姉が恐怖に慄いたその時、バッと弟が姉を庇うように、前に躍りだした。
キッと顔を上げ、遠くの豆粒達を睨む。
懐から何やら札のような物を三枚取り出すと、それを一気に前方に向かって放つ。
「オリバル!」
ビュオオオオオオ!!!!
そう叫んだ瞬間、凄まじい逆風が砂を巻き込み、砂嵐となった。形となり、遠くの人影に襲いかかる。
──砂漠の風が、砂が生きて彼に従うかのごとく。
「!!!」
「ハイヒノワジュ!!」
「ノノプツ!」
目に入って来る砂。
砂がピシピシと、顔にも目にも絶え間なく叩きつけられる。人影は、激しい砂嵐から身を守ろうとするが、精一杯もがくしか出来ない。
今の内だ、と姉弟は一気に走りだす。
「クツラ!」
「クツラガ!」
砂が目に入り、先を行く二人が上手く見えないようだ。
気付いた人影の内の何人かは、二人を追いかけようとする。だが、砂を振り払うのに必死で、その余裕など無く。
「クツラガ!」
あっという間に、二人にかなりの距離を離されてしまった。
伊達に砂漠で過ごしてきたわけではない、必ず目指す場所へ辿り着く。
絶対に、追いつかれるものか。
姉弟はそれからは振り返ることもなく、ひたすら必死に足を動かす。足の感覚など、とうに忘れてしまった。
「ノラ……ノラ、カマリダオロサ……」
彼女が、自分自身に言い含めるかのように呟く。目的地は、まだ遥か遠く。
──砂漠は、もうすぐ日が暮れようとしていた。




