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第50話 卵

【バーナ地方 ヤラカサ村付近の崖】



「──ほな、行こか」



ジェイとカリンは、ロッククライミングの要領で軽やかに崖に登って行く。この辺りは小さな出っ張りが多く、掴みやすい。


そんな二人に、エリーナが崖の下から声をかける。



「先に行ってるわよ」



エリーナは朗らかにそう言うと、軽く助走をつけてポンと地面を蹴り、フワリと浮かび上がった。


上へ、上へ。


エリーナの身体が優雅な弧を描いて、ルノがいる崖の出っ張りの近くに、見事に着地する。


あんなにも、あっさりと。



「羨ましいわぁ……あの能力」



「かっこいい~! ウフッ」



遅れをとるわけにはいかない。急いだ二人は力強く崖を登って行き、手早く目的地にたどり着いた。


巣の穴の一つに、ジェイは手をかける。



「よっしゃ、そっちは頼んだで」



「了解~! ジェイちゃん頑張ってね、ウフッ」



カリンはウインクを投げると、そのまま軽やかに更に上の出っ張りの方に登っていく。


ジェイはグイッと身体を起こし、ぽっかりと空いた穴、オオヤナサガチョウの巣の一つに降り立った。


中は外から見たよりも広いが、明かりも差さず暗い。この穴を鳥が空けたとは。


土の壁はそこそこ分厚い。隣の巣の音も、これでは聞こえてこないだろう。


奥には、藁や木の枝か何かで作られた巣もある。巣には卵も鎮座していた。残念ながら、この巣には男の子の姿は見えない。



「さて」



ジェイはスッと目を閉じて、意識を集中させた。


上、横、横、下、あちこちに意識を巡らせる。



「結構動き回っとるやんけ……」



──これは厄介だ。


そう言うと、ジェイは巣の奥に足を進めていく。カリンが言った通り、他の巣に続く道がある。



「狭いやん、ここ」



それでも、ジェイがギリギリ通れるくらいの広さはあった。子供ならもっと楽に進めるだろう。


土の壁に手を突きながら、ジェイは上に上にどんどん進む。


ここまでの穴を掘れる、あの鳥が凄い。


穴を通っている間にも、見えざる者の鬱陶しがっているような威嚇の鳴き声が聞こえてきた。ルノと争う音。



「ギョビイィイイイ!!」



ザバッ!!



見えざる者が、紫色の霧のような飛沫をルノに向かって吐き出す。


だがその前に、ルノは黒曜のダイヤを生み出していた。飛沫を、ダイヤに素早く吸収する。


いなされたのに苛立ったのか、見えざる者はその場で地団駄を踏む。そのまま怒りに任せてルノに突進してきた。


いや、突進しようとした。



「ギョビイィイイイイイ!!」



前に進もうとしたその身体が、まるで地面に縫い付けられたように動かない。



「ほら、大人しくしなさい」



いつの間にか、エリーナが片足一本で見えざる者の尻尾を踏みつけていた。痛いのか、見えざる者はもがいてぎゃあぎゃあ騒ぎだす。



「団長」



「この子、なかなか力強いわね」



踏みつけられながらも、見えざる者は取り憑かれたように前に進もうとする。


──見えざる者は、オオヤナサガチョウを襲おうとしているのか、少年を襲おうとしているのか。それとも、崖の向こうの街に行きたいのか。


何にせよ、ここから離れようとせず一直線に向かって来る。


ジェイはふんばって別の巣にたどり着くと、そこのオオヤナサガチョウの巣には卵が一つも無かった。



「ここの卵、持っていきおったんやな」



物凄い度胸だ、とジェイはニヤリと笑う。見えざる者より先に、親鳥が来てしまったらどうするつもりだったのか。


少年は混乱しているようで、ちょこまかと動き回っているようだ。これでは少年を捕まえるのは難しい。


どう動こうか。



「──ん?」



その時、先程まであちこち動き回っていた少年が、その場から動かなくなったのがジェイには分かった。


何かあったらしい。ついに親鳥に見つかり、身を潜めているのか。


ジェイは更に意識を集中させる。



「よっしゃ」



その理由を知ったジェイは、別の巣に向かう穴に入っていった。



巣の周りには、ジェイに気付いたオオヤナサガチョウが幾重にも飛び交っていた。



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