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第49話 宝物

「──見えざる者の研究?」



ヌヌレイは三人を前に、得意げな笑みを浮かべた。



「そうだとも。だからここでは、見えざる者の検体も置いているんだぁ」



「ケンタイ?」



「ん〜、そうだなぁ。皮膚とかだろうか?」



皮膚、内臓、その他もろもろ。見えざる者のまさにその身体の一部が置いてある、ということだ。


三人は、揃ってブルブルと縮み上がった。見えざる者の一部、想像しただけで気持ち悪い。


しかし、レオナルドがふと首をかしげる。



「あれ? でも見えざる者って、倒されたら砂みたいになって消えるんじゃないっすか?」



ヌヌレイはいい質問だ、と頷く。



「見えざる者の形態、あるいは倒し方によっては消えない事もあるんだぁ……。そういった検体を集め、調べているわけだよ」



敵を倒すには、まず敵を知らなければ。敵を知らなければ、敵と戦えない。


ここにいる人達は皆、そういった研究で団をサポートしているのだ。



「それはそうと……そこの娘」



ヌヌレイの視線は、今度はアイリに向けられていた。



「わ、私?」



「そう、君だ。君はどこの家の子かな? 私の記憶でも、あまり見覚えの無い顔の系統じゃないかぁ……ヌフ」



そう言いながら、ヌヌレイはニタリと粘り強い笑みを浮かべ、これでもかというくらいに顔をアイリに近づけてきた。


アイリは、驚きと恐怖で飛び上がる。



「ほ、ほえ、ほえぇ」



「シーッ!!」



ヌヌレイは人差し指を口に近づけた。仕草から察するに静かにしろ、と言われているのか。一体、何故。



「クイズといこう、ちょっと考えさせてくれないかぁ。……ふむぅ。そうだぁ、ヒントを貰おう。君は本家の子か?」



「は、はい」



「ほぉ、本家の子か。ならば……」



ヌヌレイはしばらくアイリの顔をジーッと見つめると、眉間にシワを寄せた。ググッと、顔に深く浮き出る。



「まさかとは思うが……クレエールの子なのかぁ?」



アイリは勿論、ナエカとレオナルドも驚きと感嘆の入り混じった顔になった。



「すごい。はい、そうです」



アイリがはっきりとそう告げると、ヌヌレイはパァーッと顔を目に見えて明るくした。


そのまま、両手をガッツポーズで天に突き上げる。



「奇跡だ!! 神は我を見捨てなかったのだ、ついにこの日が来た!!」



「え、ほえ?」



「いかほどぶりか……。クレエール、それも本家の子!!」



戸惑っているアイリを他所に、ヌヌレイはクルクルとその場で小躍りする。祭りの最中のようだ。



「宝はここにあり!!──ムノ君、カメラを」



いつの間にかヌヌレイのそばに助手の男性がサッと駆け寄り、カメラを手渡す。



「ちょっと写真を撮らせてもらおうか。あー、きみぃ、名前は?」



「アイリです」



「……アイリ女史。我がコレクションへの参加、誠に感謝する!!」



そのまま、凄まじい勢いでバシバシとアイリの顔を撮り始めた。


更に恐ろしいのは、周りの研究者達がこの状況に何も意に介さず、挙げ句手早く反射板を準備していることだ。


雑誌の撮影のような時間が流れ、アイリは必死に表情を作る。


オロオロしながら、ひたすらフラッシュを浴びるアイリ。レオナルドとナエカは、唖然としながら見守るしかない。


レオナルドは、そばにいたヒラリスにそろそろと近付いた。



「なぁ、ヒラリス! なんなんだよこの人は?」



「ごめんなさいです。ヌヌレイ主任っていつもこんな感じで──今日はいつもより、ちょっっとおかしいかな、です」



ヒラリスはそう答えながら、冷や汗を流す。久しぶりにクレエールの人間が来て、ヌヌレイも興奮しているようだ。


アイリ撮影大会は、ようやく終了したらしい。アイリがヘロヘロになって、こちらに帰ってくる。



「ほえぇ、ほえぇ」



「おつかれさん、マジで」



「……お疲れ様」



足がおぼつかなく、二人に労いの言葉をかけられる結果になった。



「お前たちぃ、お客さんだよ」



気がつくと、騒ぎに気付いた他の多くの研究者達がアイリ達のそばに集まってくる。



「いらっしゃいませ!!」



「いらっしゃいませ!!」



歓迎されて少し恥ずかしくなった一同を、ピシャッと冷やしたのはヒラリスだった。



「では、裏の紹介も出来ましたし、そろそろ教官をお呼びします」



「え?」



「教官?」



「何で?」



今日の予定は、ここの紹介だけじゃなかったのか。


──教官って、確か。


隣のヌヌレイも、何か知っている様子だ。待ってました、とばかりに、その目が大きくニヤつく。


そして、裏の重い扉が開かれた。



「ヒラリス、あなたおっそいわねぇ。待ちくたびれちゃったじゃないのよぉ」



この野太い声、キセルの煙。


強く響くヒールの音、そしてあまりにも大きいその人影。



「ま、まさか……」



ナエカとレオナルドは、ヒクッと顔を引きつらせた。


アイリはやはり隠せないその存在感に、動けずぽかーんと立ち尽くす。



「おチビちゃん達、今からこのあたしのお時間よぉオン?」



ドランジェ──いやリンゴ教官は、隠し切れない得意満面の笑みを浮かべたのだった。




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