第48話 主任
【パレス内 裏】
三人は、パレスの裏に足を踏み入れた。
「すげぇ……広いじゃん」
「ここの地下に、こんなところがあったなんて」
研究施設のようだ。
多くのフラスコが立ち並び、フラスコの中には濁った青い色の液体が入っている。ボボボ、という奇妙な音を立てていた。
奥には実験室のような部屋も見える。爆発注意、という物騒な文言が書かれた看板があった。
そこを多くの人が行き交い、働いていた。
アイリに至っては、目に入る物全てが見覚えの無い物だった。あれもこれも何なのか、どのように使うのかさっぱり分からない。
目に飛び込んでくるあらゆる物に、アイリは目を白黒させていた。
──この透明な入れ物は何だろう。何か、水が入ってる。水じゃないんだろうけど。
アイリが興味津々でたまに物に触ろうとするのを、ナエカが素早く止めていた。
「そこの数値、今どうなってる?」
「安定してません!」
「ポノグフ追加だ!」
技術者達の声が飛び交う中、その内のひょろっとした痩せた体つきの男が一人、ゆっくりブラブラと近づいて来た。
「おぉ……ヒラリ女史。ここに来るとは、珍しいじゃないかぁ」
「こんにちは、ヌヌレイ主任」
ヌヌレイというその研究者は、裾の長いズボンに手を突っ込み、長い髪をあちこちにザンバラに伸ばしていた。白髪が目立つ。
ニヤニヤとこちらをじっくり見回しながら、どこか怪しげな笑みを浮かべている。まるで獲物を眺めているかのよう。
ナエカはすっかり怖がり、ヒッ、という声を上げてレオナルドの後ろに隠れてしまった。
「お、おい、ナエカ! 袖引っ張るなって」
ヌヌレイはそんなナエカの反応を見て、更に意地の悪い笑みを浮かべる。
「ヒィ」
「服、伸びんじゃん!」
「そちらはもしかして……もしかすると、そうなのかなぁ?」
「はい! 今度新しく入団した、51期生の皆さまです。ヒラリスは、皆さまをここにお連れするように言われて来たのです」
「そうかそうか……」
そのまま、じっくり何かを探るようにアイリ達を眺めている。ねっとりした目つきが、怪しさ満点だ。
ヒラリスは慣れているのか、そのような雰囲気に怯まずヌヌレイと対話していた。
「皆さま、こちら研究班の班長であるヌヌレイ主任です」
「こ、こんにちは」
「……」
裏を取り仕切ってる人物らしい。
偉い人なのだと分かり、三人は恐る恐る頭を下げる。ヌヌレイは目をギョロッと開けると、口角を更に上げてニーッと笑った。
かえって不気味で、ナエカは完全にカチコチに固まってしまう。
そんなナエカを気にする様子もなく、ヌヌレイは大袈裟にバッと腕を広げた。
「歓迎しようじゃないかぁ……!!──我が城にようこそ」
そう言うと、ヌヌレイは突然パッとレオナルドの前にぐいっと顔を突きだす。
「おわっ!……な、なんすか??」
慄いて後退りするレオナルドに、ヌヌレイは軽く頷く。
「──君はラナマンの子だねぇ。遠い分家の息子で、出身はチャド・ラナマンの故郷とさほど離れていないが、小さい頃にシティーに近い場所に引っ越した。そうだろう?」
レオナルドの瞳が大きく開かれた。告げられた言葉に、呆然としている。
「なんでそれを……」
レオナルドはまだ出身どころか、名前すら名乗ってないのだ。
「簡単なことだぁ……。始祖の血が顔の造作にも影響するのは、長年の成果で分かっている」
どの家系なのか、顔を見れば大体分かるという。これも、血の力。
「あとは言葉の抑揚かぁ……。あの地方の喋り方のようだが、微妙に完全ではないようだね」
シティーの人間の喋りに、近くなっている。
しばらく地方を離れていた証拠だろう、と付け足すヌヌレイに、アイリは感嘆の声をあげた。
レオナルドの表情を見れば、それが真実なのが分かる。
喋っている、とは言っても、レオナルドは彼の前で二言くらい喋っただけだ。それでここまで分かるとは。
更にヌヌレイは、ナエカの方を見やった。
「君は……マジェラだねぇ。おぉ、君は結構血が濃いなぁ。ただ、本家ではない。ここのテイクンシティーの出身のようだが、どうなのかなぁ?」
これも大当たりだ。ナエカはヒッと声をあげたが、少し間が空いてその通りだ、とコクリと頷く。
「もしかして、ここではエイドリアンも調べてるんですか?」
興味が沸いたアイリがそう尋ねると、ヌヌレイは大きく頷いた。
「その通りだぁ……血はまさしく芸術だよ。今のは私、の趣味も混ざっているがねぇ。ただ、この城でやっているのはそれだけじゃあない」
ヌヌレイは、芝居掛かったようにパッと大きく手を広げた。
「──ここでは、見えざる者の研究もしているんだよ!!」




