第46話 裏
【パレス 大広間】
「──ふぅ、これで全部拾ったっしょ」
ようやく全ての散らばった紙を集め切った一同は、疲れてその場に座り込み息を吐く。
「はぁ……」
「よくあれだけ運んだっすね~!」
タワーのように積み上がった、紙の束の山。一生懸命運んでいたのだ、こんな小柄な少女が。
レオナルドが感心すると、入って来た少女は必死にペコペコ頭を下げた。
「すみません、すみません! 手伝わせてしまって……」
「大丈夫だよ、気にしないで」
アイリがそう声をかけると、焦っていた少女はホッとしたように座り直した。そして深々とお辞儀する。
「ヒラリスは、パレスのサポート員で事務員をしてる、ヒラリスです」
「……最初に名前に言っちゃってるね」
「え!!」
衝撃のあまり、口をがくーんと縦に開ける。
ヒラリスというその少女は、ドナと同じくらい幼く見えた。大きくはっきりした、可愛らしいアーモンドのような目。
ヒラリスはニコニコしながら、三人をゆっくり見回す。
「皆さまは新しい団員、51期生の方ですよね。これからこのヒラリス、よろしくお願いするのです」
パレスにいるのは団員だけではなく、彼等の縁の下の力持ちとなって働く者達がいる。そんな彼等は、補助員と呼ばれていた。
ヒラリスは事務員になって、まだ二年目だという。
ピンク色の髪を、ドナと同じようにボブにして綺麗に切り揃えている。事務員の決まりなのだろうか。
パレス内部の情報は絶対機密であり、それ故に厳しい審査があるという話だ。この若い年で、パレスに採用されているというのは。
「優秀なんだね」
ナエカにそう言われ、ヒラリスは顔を真っ赤にした。
「ヒラリスが優秀!? とんでもないです、ヒラリスはまだまだで──さっきも手伝わせてしまって」
「いいっていいって!!」
レオナルドは景気良く笑い飛ばす。そんなレオナルドに、ヒラリスも安堵したようだ。
「それで、俺らに何か用っすか?」
レオナルドがそう尋ねると、ヒラリスはハッとして先程のタワーを漁り、一枚の書類を差しだす。
それは、パレスの内部の全体見取り図だった。
「ヒラリスはエリーナ団長から、皆さまにパレスの内部を紹介するように言われたのです」
三人はキョトン、となる。
パレスの内部なら、最初に来た時にハーショウにくまなく紹介してもらった筈。三人共、同じ様に。
ヒラリスにそう伝えたが、ヒラリスは笑顔を崩さなかった。
「そうですね。ですが、それは表だけじゃないです?」
「表?」
「はい。ヒラリスは、パレスの裏を紹介するように、と言われました」
──パレスの裏。
聴き間違えてしまいそうな、不思議な単語。
レオナルドはへぇ、と言うと、ニヤリと口角を上げ身を乗り出した。
「面白そうじゃんよ! 裏、だって」
すっかり乗り気のレオナルドだが、ナエカはどこか訝しむ表情だ。
「裏って……どこ?」
「地下に行ける通路があるんです! そこから、地下の中枢部に入れるんですよ」
「チュウスウブ?」
アイリが首を傾げる中、レオナルドは更に目をキラキラさせた。
「隠し通路!! いいじゃん、いじゃん、かっけーじゃん!!」
「隠してはないですけど……。ご安心くださいです、ヒラリスが案内するのです」
地下にある場所、まだパレスで見れていない場所があるのか。
ヒラリスに続き、レオナルドはノリノリで着いていく。
アイリとナエカは困惑していたが、二人の後に着いていった。広いが長い廊下を、ひたすら突っ切って歩く。
「補助員って、どれくらいいるんすか?」
「うーん、ヒラリスも詳しい人数は知らなくて。でも、このパレスで暮らしている人達だけでも、二十人はいるんですよ」
外から来ている人を含めれば、かなりの数になるという。ただ、その中で事務員は少ないそうだ。
ヒラリスを含めて、三人だけ。
「え?……じゃあ他の人達は、一体どんな仕事をしてんだぁ?」
「そうです、裏で働いているんです。裏は面白いですよ」
ヒラリスはキラキラした笑顔でそう告げると、とある壁の前で止まった。
そこにあるのはリスだろうか、小さな動物の剥製が飾られた台だった。何も無い壁に、アンバランスに配置されている。
「ここ?」
「……後ろ、何もないね」
「ただの壁っぽいじゃん」
クラリスはその前に立つと、リスの腕をグイッと下の方向におろしていく。
──カチッ。
どこかで軽やかな音がした。何か、鍵でも開いたような。
すると、ゴゴゴ、と凄まじい音が鳴りだす。
「な、なんだぁ!?」
「さ、さがって下さい!! 危ないです!!」
すると台の下に穴が開き、台はその下にゆっくり降りていく。
そして台の後ろの壁がゆっくりと横に動き、その後ろに地下に続く階段が現れる。
これが、隠し通路。
「うそぉ」
「うわぉ」
「さぁ、階段なのです。足元が暗いのです、気をつけて下さい」
一行は、ゆっくりと地下に続く階段を降りて行く。先頭はヒラリスだ。
随分と狭く、段差もそこそこあるので通りずらい。古そうに見えるが、きちんと掃除されているようだ。
「せ、せまいぃ……」
「そこ、掴まって下さいね」
ヒラリスは慣れているのか、スイスイと階段を降りていく。
「ふぅ、着いた」
「あ」
三人は、揃って息を呑む。
長い階段を下り終えると、そこには研究施設のような、無機質な施設が広がっていた。
「わぁ……」
「どうぞ、こちらがパレスの裏なのです」




