第41話 部屋
【セントバーミルダ通り 269-12】
【アパートメント アリビオ】
とある一室の小さな扉を開けて、アイリとブライアンは玄関に足を踏み入れた。
「わあ!!」
「はい、おかえり~」
初めて入る家に目を輝かせるアイリに、ブライアンは笑みを浮かべる。
「おかえり、で合ってるよな」
「すごいすごい!! これが部屋!?」
床の白で塗られた木の木目。ふわふわのカーペットはマス目状の柄にそれぞれ動物、リーフ、チェックなどあらゆる模様が描かれている。
壁も家具も、全体的に白で統一されていた。
シンプルが角が丸く、優しい雰囲気の白いダイニングテーブル。カーテンはシンプルなリーフ柄の緑。
あれは台所だろうか? ピカピカの台所は、シンクも随分広くて長い。
何より、一番アイリの目を引いたのは。
「お兄ちゃん!! こ、こ、これ何!?」
アイリは目の前に飛び込んできた大きなベッドに、目を白黒させた。
「──まさかこれって」
見つかるの、早かったな。
ブライアンが、これでもかというくらいにしたり顔で笑う。
「ああ、それがこの部屋の一番の目玉だぞ。──ベッドだ」
「ひゃあああ!!」
白く塗られた、太い木で造られた立派なベッド。その上には、可愛らしい鹿の刺繍が施されたマットレスと布団。ヒヤシンスと同じ色だ。
アイリは大喜びでベッドにダッシュした。恐る恐るマットレスを触れ、瞳を輝かせる。少し冷たいが、すべすべの触感。
「こ、これで寝るの?」
里にいた頃といえば。固くガタガタの木で出来た台のような物に、無造作に薄い毛布が乗せられただけだったのだ。それをベッドと呼んでいた。
アイリは思い切って、ベッドにダイブしてみる。思いの外勢いがついた。
「ふわぁああ」
「コラコラ」
「フワフワだ!」
アイリが飛び込んだ衝撃で、ギシギシと音を立てるベッドにブライアンは思わず苦笑いする。
早々に壊れたりしないか?
ブライアンがアイリよりも先にこの街に着いて、別行動をとったのも全てこの為だ。
「まだ荷物完全には片付いてないんだ、そこにあるから見てくれるか」
「うん」
そうは言っても、引っ越ししたばかりとは思えない程整理されていた。もっとも、里から持ってきたものなんてほとんど無かったのだが。
アイリはすっかり、この新居が気に入ったようだ。
「どうだった? 剣の団は」
「楽しそうだよ! 同じ51期の子がいてね、団の人達みんないい人みたいだし」
「確かにな、あの団長さんは話しやすそうだ」
「分からないことだらけだけど」
「そりゃそうだ。アイリは団のことよりも、まず常識について知らないといけない」
愉快そうに言う兄に、アイリは口を尖らせる。分かっている、分かってはいるが。
今言わなくても!
しかし、何かを思い出したのかハッと顔色を変えた。
「そうだ! お兄ちゃん、お人形様は?」
「──あぁ、あそこだよ」
ブライアンが指差した先。アイリは慌ててリビングの端に飾ってあった、とある人形に駆け寄る。
小さな女の子を模した人形だ。赤い頭巾に縦縞のスカート、膨らんだ白いブラウス。
ギョロっとした大きな瞳の目。ウェーブのかかった髪も、長旅のせいか乱れている。すっかり年季の入った人形だ。
「人形様、こちらが新しい家です!」
アイリはまるで祈願でもするかのように、人形に手を合わせた。深々と頭を下げる。
すると、人形がそれに応えたかのようにカタカタと体を揺らす。
だがアイリもブライアンも、気にしたり驚いたりする様子を見せない。
「お人形様も、この部屋気にいるといいね」
「そうだ、アイリ、外見てみたらどうだ? 景色綺麗だぞ」
「外?」
「ほら、そこ。バルコニーあるんだぞ」
ブライアンが促すと、アイリは一目散に扉を開けてバルコニーに出て行く。
「うわぁ……」
すっかり日が落ち、街は夜の姿になっていた。風が心地よく肌を叩く。
カラフルな街は、暗くなると灯りに照らされ非常に綺麗な姿を見せていた。ポワンと少し赤い灯りが並び、あちこちを照らす。
遠いが、パレスもここから見える。やはり、他の建物とは違い遠目からもあの姿は目立つ。
「長い一日だったな……」
街並みをボーッと眺めながら、アイリはポツリと呟く。
この街に来て初めての夜だ。
色んな事が一度に起こり、アイリはその一つ一つを思い返す。今日一日で、思い出す事が沢山だ。
そうだ、パレスにいる人達は今頃どうしているのだろう。まだ起きてるのかな。
そんな事をぼんやり考えていると、空にはっきりと何かが通った。
「あ、流れ星!」
アイリは目にいっぱい輝きを浮かべた。空には、満天の星。
その頃、パレスのとある一室。
その部屋は三階にあった。外に突き出した窓を開け、爽やかな風が部屋の中に吹く。
「……」
ルノはジッと空を見上げていた。
これは、彼の日課でもある。瞬きもせずに、ただ星の並びを見ていた。
そろそろ部屋に戻ろうとした、その時。
流れ星が空を駆けていったのだった。
age 3 is over.
次回予告!
『テイクン緊急ニュースです!』
「裏を紹介するように、と言われました」
「後輩ができた気分はどう?」
「我が城にようこそ」
「胸の中の、あっついもの。そのあつさを持って力を行使するのよん」
次回、age 4!
見えざる者!
「絶対ここから引きずりだしたんねん!」
お楽しみに!




