第40話 王
【いずこかの島】
「ギャギャギャギャギャギャ!!」
「ギャギャギャギャギャギャ!!」
薄暗い雲が取り囲む、とあるどこかの島。
島の中央、大きな洞窟の前。高笑いにも似た下品な声が島中に響く。
並ぶ木々のあちこちに影が射している。夜も近付くその時は、影が一日で最も長くなる。
人間が立ち入らない暗闇に、見えざる者達が不気味にもその場を埋め尽くす。
ザクザクと踏み鳴らす足音。島の草花が踏み荒らされ、道のようでない道を生みだす。
異形のその姿は姿形も様々だ。彼等は何かを待っているかのように、揃って強く興奮している。
「ギャギャギャギャ!!」
そんな人でない者達の間を通り抜け、一人の男がゆっくり足を進める。
「ようやくここまで集まったか……」
僅かに含み笑いを浮かべるその男は、190くらいはあるだろう高い背に、地面に届きそうな程長い銀色に黒みがかった髪。
グルベールだった。
しかしグルベールですら小さく見える程、周りの見えざる者達の大きさが目立つ。
大勢集まった見えざる者に、満足そうだ。
グルベールに気付いた見えざる者達は一斉に男に視線を向け、グルベールを取り囲み騒ぎ出だす。
「ギャギャギャ!!」
「ジャンクスサマ、バンサイ!! ギャハ、ギャハ!!」
「ジャンクスサマ、バンサイ!! ギャ、ギャハ!!」
「オドドサマ!!」
「オドドサマ、バンサイ!!」
ハイテンションにあちこちで騒ぎ立てる者達に、男はわざとらしくため息をつく。
彼等は人の言葉に慣れてない為、かなり舌足らずな言い回ししか出来ないのだ。グルベールは苦笑を隠せない。
「まったく、いつまでも学習せん奴等だな。我が名はジャンクルーズ・グルベール! きちんと発音しないか」
「ギャハハ! ギャハ!!」
「キャッギャッギャ!!」
浮かれ切っていて、話を聞く気もない。
まるでお祭り騒ぎのようだ。無論、今日は記念すべき日なのだが。
まあ、よい。
男は再び笑みを浮かべると、彼等の前に意気揚々と立つ。
「──皆のもの、よいな」
男が一言そう告げると、騒いでいた見えざる者達が一斉に静かになる。
「いよいよ、時は来たぞ」
見えざる者達は、どこか興奮を抑えきれない様子で聞き入っている。行儀よく、大人しく。ギラギラとおぞましいギョロっとした目を光らせていた。
目の光が、暗闇の中でキラキラと光り美しい。
男はその前に堂々と立ち、両腕を大きく広げる。その姿は、王の姿。
「者どもよ、我が声を聞け! このグルベール、オロロより力を受け継ぎし新たなる王だ!」
一瞬の静寂に包まれた後、まるで歓声をあげるかのように見えざる者達が一斉に騒ぎだす。
「ギャギャギャ!!」
「ジャンクスサマ、バンサイ!! ギャハ、ギャハ!!」
グルベールがサッと空を手で振り払うと、見えざる者達は再び静まった。
「この声は我が声にあらず、オロロのものぞ!! このグルベールが、この世の新たなオロロとなったのだ!!」
グルベールは拳を勢いよく天に突き上げた。枯れ木のような腕が、パリパリと音を立てて伸びていく。
遥か上にある、何かを掴もうとするかのように。
「今ここに宣言する! このグルベール、お前達の新たなる王、新たなるオロロとなった。我に従え!──このグルベールは、この世界の新たなる王となるのだ!!」
「ギャギャギャ!!」
「ジャンクスサマ!!」
「オドドサマ!!」
「バンサイ!! バンサイ!!」
見えざる者達の歓声が、島の周囲に響き渡っていた。
グルベールは、決意に満ちた目で彼等を見渡す。
「このグルベールはオロロとなり、王となり、必ずこの世を支配する!!」




