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第35話 瞬き

「サーフェさん」



ブライアンは倒れていたその者に手を貸し、なんとか立ち上がらせた。



「ブライアン……」



「大丈夫か」



「お、おう」



最近アメマを釣り上げたと自慢していた、高齢だが元気で気さくなこの親戚は、今は額に脂汗を浮かばせている。


突然助けに現れたブライアンに、驚きを隠せない。それでも、駆けつけたブライアンにホッとした様子を見せる。


サーフェに肩を貸し、離れようと歩きだす。地面に臥していたので、すっかり服の裾が汚れてしまった。


後ろでは、怪物のベースボイスの唸り声が何重にも重なり響き合う。


里の者も次々と術をぶつけて対抗するのだが、あまり効果は無いようだ。あの固い腕が何本にも伸びていき、家や里の人々を襲う。



「ちくしょお! 俺たちの里を……。見えざる者が何故ここに!!」



吐き出すように言うサーフェに、ブライアンはグッと唇に力を込めた。



「──俺達のせいかもな」



「お?」



聞き返してきたサーフェに、ブライアンは何でもない、とヒラヒラ手を振って返す。



「長老は?」



「さっき、エレーヌとイオの手引きで避難していったぞ。恐らく無事だろう」



「そうか」



ブライアンが周りを見渡すと、里の地面はほぼ荒らされ奇妙なまだら模様を浮かべている。


サーフェ以外にも、何人か里の者達が転がっていた。徹底的に里を潰すつもりか、そんな見えざる者に歯が立たない。


この見えざる者は、明らかにクレエールの能力と相性が悪い。そうでなければ、クレエールの者達がこのような羽目になるものか。最強のクレエールが。


──何者の意思なのだ。誰が送り込んできた、何故里を襲う。


ブライアンは、口惜しそうに顔を歪ませる。


自らの拳をそっと握った。強く握ったつもりだったが、上手く力が入らない。



──仕方ない。


この里を失うわけにはいかない。ここは俺たちの居場所だ。



「……ブライアン?」



ブライアンの表情の変化に気付いたのか、こちらに視線を向けてきた。怪訝な表情をするサーフェに、ブライアンは敢えて笑みで返す。


サーフェをそっと肩から下ろす。動揺するサーフェを他所に、ブライアンは一気に前に躍り出た。


大きく息を吸う。



「聴こえるぅ!??」



思いの外、大きな声が出た。こんな声、出した事あっただろうか。


聞いた事もないブライアンの大声に、散らばり戦っていた里の者達も、見えざる者達さえも動きを止めた。



「今から、3秒数えるからぁ、3秒数えたら全員その場に伏せること!!──いいか!??」



「な、なんだと?」



「なんだいきなり」



「いいか!!?」



見える位置にいた里の者達は、戸惑いながらも頷く。


それを確認し、ブライアンはもう一度拳を握った。少々、勇気がいる。



「じゃあ、いくよ!!」



3。



2。



1。



ブライアンは握っていた拳を前に伸ばす。



ドン。



それは、瞬きする時と同じ時の長さ。



「うわっ!!」



サーフェは心臓をドクンと駆け抜けた謎の衝撃に、思わずキュッとまぶたを閉じた。目がチカチカして、開けていられない。


──何だ、今のは。心臓をギュッと掴まれたような。


衝撃が落ち着くと、サーフェは恐る恐る目を見開いた。



「なっ……」



四体いた見えざる者は全て砂のようにボロボロになり、その姿を消していく。


姿を保てないのだ。



「ノオオオ……オオオオ……」



サラサラと、怪物の破片が風に流されていく。丘に吹く、いつもの爽やかな風。


後に残されたのは、あの無気味な唸り声だけ。しつこいその唸り声の響きも、すぐに消えて静寂が戻る。


サーフェだけではなく、その光景を見ていた里の者達全員が呆気にとられ口をパクパクさせた。


彼は、呪文すら唱えていない。あのたった一瞬で、全てを消し去った。



「あ〜あ、やってしまったな」



本人としては、不本意だったのだけれども。



「ブライアン」



なんとか衝撃から抜け出したサーフェが、ブライアンに近付く。



「い、いやぁ〜! あんなのは初めて見たぞ」



よくやった、と褒めるサーフェにブライアンもぎこちない笑みで返す。


それを合図に皆がブライアンの元に集まったのだが、ブライアンはハッとある事に気付き一同を見渡した。



「そうだ、アイリは?」



「え?」



「アイリはどうしたんだ? 長老の家の中にいた筈だが。もしかして、まだ中にいるのか?」



「え、えっと」



詰め寄ってくるブライアンの顔が少々青白く、サーフェは戸惑う。


そんな二人に、ニダヤが割って入った。殴り飛ばされたダメージがあるのか、顔をしかめている。



「アイリ様なら、とっくに逃げたぞ」



「どこに?」



「コレンに、アイリ様を連れて里の出口に逃げるように言った」



「出口だって?」



慌てたブライアンは、バッと里の出口の方向に目を向ける。



──あそこには、まだ。



その顔は、緊迫感に満ちていた。



「アイリが危ない!!」



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