表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
310/327

第309話 背中

【パレス 玄関】



「シキ!!」



ようやく帰って来た。角を曲がって目に入って来た、エリーナ、シキ、ルノ、ショウリュウの姿。


アイリははやる気持ちを抑え、大急ぎで駆けつける。


真っ先にシキがこちらに気付き、爽やかな笑顔で手を振ってきた──のだが。



「シキ……大丈夫!?」



どこから心配すれば良いのだろう。


シキは、ショウリュウの生み出す風に乗っていた。歩けないのか。


更に、その身体にはいまだに派手に巻かれた包帯。アイリはギョッと、満身創痍のその身体を見つめる。



「迎えに来てくれるなんて、姫は心まで美しいね」



「いや、美しいはいいけど」



狼狽えるアイリの目の前で、かたまりの風からスタッと優雅に降りてみせる。



「平気なの?」



「ご覧の通りさ」



不敵に微笑み、キザに軽く腕を広げてみせた。



「何が平気だ、じゃあ歩いて帰れよ」



「坊やって、空気読めないとか言われない?」



「うるせーな。あんたが全然起きないから、遅くなったんだろ」



いつもの通りの言い合いだが、アイリは余計に不安になる。


──平気は嘘ってこと?


どうしたのかと、近くにいるルノに視線を送るが、相変わらずの無表情だ。


二人が揉めている間に、他の団員達も皆やって来た。



「団長!」



「エリーナさ〜ん!」



「みんな、ただいま。そっちは大丈夫だったの?」



「そっちはって……」



全員の視線が、包帯だらけのシキに注がれる。


シキは笑みを見せて立ってはいたが、さりげなくかたまりの風にもたれていた。足もふらついているようだ。


気付いたジェイは、口元を引き締める。



「……軽く事情は聞いたけど、思ったよりヤバい事態やったみたいやな」



「誰か、追加で行くべきでしたか?」



「ほんっとに大丈夫なのかよ?」



怪我の具合を確かめようと近付くレオナルドとナエカを、シキは避けて誤魔化す。



「ナエちゃんも、大丈夫だって」



「ここ、まだ赤い──あれ?」



その時、ナエカが何かに気付き動きを止める。



「どうしたよ、ナエカ」



「シキくん、背中どうしたの?」



「背中?」



ほんの一瞬、背中の影が動いた気がした。背中がいつもより、膨らんでいるような。


ナエカが指摘すると、エリーナもショウリュウも、苦笑いを浮かべた。


ジェイも気付いたらしく、目をパチクリさせる。



「──ホンマや、何かおるな」



ゴソゴソと、何やら動いている存在。


アイリは恐る恐るシキの背中に近付き、ちょん、と指で突いてみる。



「姫、ちょっとそれは」



背中の動きが、より激しくなった。ボコボコと、背中が出っ張る。シキは慌てて、パッと後ろに退がった。



「ほええ」



「なあに、何かいるのぉ?」



困惑する皆に、エリーナはどう切り出そうかと悩む。



「あのね、その……帰って来たの、私達だけじゃないのよ」



「え?」



──次の瞬間。



「キュッ!」



「ほえ?」



「──ん?」



「え〜!?」



「なああ!!」



シキの背中から、顔だけひょこっと出した存在。



「ちゃあ!! うそぉ、かわいぃ〜!」



高く響く、カリンの黄色い声。その存在を、一同は二度見──いや、三度見した。



「キュキュッ!」



小さな、紫色の毛をした可愛らしいイタチ。その瞳には、淡い黄色が浮き出ている。



「可愛い」



アイリが目をキラキラさせて顎を撫でると、イタチも尻尾を振って喜ぶ。尻尾が随分と立派だ。



「運んでる間ずっと、背中にくっついたまま離れなくてよ」



ショウリュウがそう告げながらクーに近付くと、クーはタイミングよくくしゃみする。



「チュン」



「おい」



「美しい、やっぱりルーイは人を見る目があるね。分かるんだ?」



「何の話だ!!」



そんなショウリュウの怒号を他所に、ヨースラがそっとイタチに触れる。



「そうか。エリーナさん、もしかしてこの子が例の──」



「そうよ、名前はクー。この子、団で引き取る事になったから」



「ええええ!?」



皆の絶叫が重なった。



前例に無い、見えざる者を飲み込んだイタチ。


血が混じった身体がどうなっていくのか、分からない。今後の安全の為にも、クーの生命いのちの為にも、自分達がそばにいた方がいい。


エリーナの判断だった。



「というわけだから、みんなよろしくね」



皆が困惑した様子で、クーを見つめる。



当の本人は、シキの肩の上に乗ってすっかりご機嫌だ。



シキは顔に擦り寄ってきたクーに、笑顔を向けたのだった。







age 21 is over.








次回予告!




「アン・ドゥ・ナーガ!!」


「我が命令に従ってもらおう」


「グルベールって、あのグルベール?」


「最初から狙われていた、ということですか……」


「国同士が争えば、最も傷つくのは民なんだよ。分かるだろう?」




次回、age 22!


公国へようこそ!



『軍事司令部より、緊急命令である。軍から二名、捕縛者が脱走した!』




お楽しみに!




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ