表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/327

第30話 果実

【8年前】


【リジュの里近くの森】



「ひーとーつーみー」



アイリは必死に背伸びをして、高く手を伸ばす。上に上に、届くように。


目の前にはナナボタの木。緑の鮮やかな葉をつけるこの木には、オレンジ色のいくつもの実がなっている。


丸々と太り、てかてかと光るオレンジ。


果実は陽に照らされ、ピカピカと光りなんとも美味しそうだ。



「ふーたーつーみー」



だが、小さなアイリでは、どれだけ腕を伸ばしても届かない。手がたまに実に触れるが、指先がチョンと軽く触れるだけで、実を採ることは叶わない。


足はプルプルと震え出し、体全体もぐらぐらと揺れる。揺れるのは体だけではない、枝も。



「ん〜〜」



やはり、上手く採れない。


アイリは虚しく背伸びをするのを諦め、チラッと隣の木に目を向けた。


隣の木はナナボタではないが、かなり低い位置にいくつも太い枝があった。風が吹き抜けていても、揺れもしない。


それを確認すると、アイリは何か思い付いたかのように目をキラキラさせる。


──よおし、いっちゃえ!



「せぇの!」



タン!!



アイリは隣の木の枝に向かってジャンプし、枝にしっかりとしがみつく。そこから枝から枝によじのぼり、スルスルと器用に木を登っていく。


そして枝を握る手をズラしては持ち替え、ズラしては持ち替え、ナナボタの木に近づいた。


そうやって近づけるギリギリまで近づくと、身を乗り出して手を伸ばす。


──今度こそ。



「ん〜!!」



指先に実が触れる。


もう一度、今度はきちんと掴んだ。ほとんどむしりとるように枝から実を切り離す。


指に挟まれてキラキラ光るその実に、アイリは顔を輝かせる。しかし、ふと我に返り辺りを見渡した。



そうだ、どうやっておりよう。



下を見下ろすと、地面までなかなかの高さ。少し怖気づいたが、すぐに思い直す。



──まぁ、いいか。アイリはできるもん。



意を決すると、片手で枝にぶらさがりながら体を揺らし始める。



「ぶーらん、ぶーらん」



重みと衝撃で、枝がギシギシと鳴った。枝の揺れが体を大きく揺らす度に、どんどん勢いが増す。


ここだ、アイリは思い切ってその手を離した。


体がフワッと宙を舞う。


ドンッと大きな衝撃と共に、アイリは地上に降り立つ。



「んー」



バランスがとれず、地面に手をついてしまった。小石が手のひらに食い込み、アイリは少ししょぼんとしてしまう。


もう一つの手にはピカピカ光る実。潰れてしまったかと不安だったが、幸いにも実は美しい形を保っていた。


実をじっくりと眺め、アイリは機嫌を戻す。


皮をめくってみると、皮よりは少し赤みがかった実の中身がのぞいた。果肉はプリッとしてぎっしりつまっている。


おいしそうだ、と一房だけポイッと口に放り込む。


甘酸っぱい香りが口いっぱいに広がる──筈だったのだが。



「すっぱーーい!!」



思いの外酸味のある味に、アイリは目を白黒させた。どうやらこの実は、まだ食べごろではなかったらしい。


目から少し、涙が出てきた。



「アイリ」



聞き慣れた声。目を白黒させながら振り返ると、兄のブライアンが苦笑混じりの顔で駆け寄ってくる。


とんがった靴が歩きにくそうで、少し危ない。石がゴロゴロしているのに。


兄はアイリが手にするナナボタの実に目をつけ、手元をのぞきこむ。



「こんなとこにいたのか。それ、まだ熟してないだろ」



「すっぱかった……」



まだ目を白黒させて涙目のままのアイリに、ブライアンはアハハ、と笑う。



「里で桃を干してただろ、里に戻らないの?」



早く戻ろうと言うブライアンに、アイリはサッと表情を曇らせた。


それに気付いたブライアンは、僅かに首をかしげる。



「ん?」



「……みんな、ずっとお話ししてるんだもん。こわいんだもん。アイリ、帰りたくない」



絞り出したアイリの言葉に、ブライアンはスッと笑顔を消した。



「──そっか」



そうだよな、あれは怖いよな。



ブライアンはアイリの目の前で座り込むと、里の方向にチラッと視線を向けた。流石に遠く、里は見えない。しかし、この頃里の様子はおかしいのだ。


兄に倣ってか、アイリもそろそろと隣に腰をおろす。


ブライアンは、隣に来たアイリに笑顔を向けた。



「じゃあ、どうする? もうちょっと遊んでいくか?」



「ううん」



アイリは笑顔で立ち上がる。手のひらについた砂をらパンパンと手で払った。



「おまいりするの、お石のところ!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ