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第300話 眷属

「キィアアアアアアア!!!」



空気が震える。


大きく開かれた口から、鋭く尖った牙が覗く。



「クーちゃん!!」



「キィイイ!!」



テフィの必死の叫びも、クーには届いていないようだ。


爪で地面を引っ掻きながら、勢いよく地面を蹴りだす。


その小さな瞳は、血走りながらこちらを真っ直ぐ見据えていた。身体を大きく伸ばし、こちらに向かって来る。



「きゃあ!!」



「退がって!!」



シキが庇うように前に飛び出し、その身体が刺すような光に包まれていく。


姿を現したシキカイトは、飛びかかって来るクーの前に立ちはだかった。



「シキカイト!!」



「グルルル!!」



「キィアアアア!!」



対峙する白き獣。クーは構うことなく、シキカイトに突進する。


もんどりうって共に柵にぶつかり、柵ごと奥に倒れ込む。バリバリと音を立てて柵が倒れ、土煙が舞った。


シキカイトはクーを押さえ込もうと、素早くクーに全身で乗りかかる。



「キィアアアア!!」



逃れようと、クーは激しく暴れてもがく。突き飛ばし、もう一度地面を転がった、次の瞬間。



ザクッ!!



「ギャン!!」



シキカイトの前足に、クーの牙が深く突き刺さった。


噛みついたクーは、シキカイトから離れようとしない。深々と食い込む牙。


シキカイトはそれでも、もう一度押さえ込もうとする。


だがシキカイトの力で本気で反撃したら、クーが危うい。押さえ込むことしか出来ない。



「シキ!!」



エリーナが加勢しようと、踏み出そうとした時。



ダァン!!



強い砲弾の音と共に、近くの柵がガラガラと崩れた。



「攻撃!?」



「きゃああ!! みんな、逃げて!!」



「テフィさん、こっちへ!」



崩れてくる音から逃れ、動物達の混乱した鳴き声が飛び交う。



「……何の音?」



続いて聞こえて来る、騒がしい機械音。


草花を踏みつけ踏みつけ、こちらに向かってくる。滑らかではない軋む音が、どんどん大きくなっていく。


エリーナは、音の正体に目を見張る。



ガガガガ。



広々とした草原を、窮屈そうに動く機械。鈍く動く機械が、こちらに近づいて来る。


そして、機械の横を歩く影。



「い〜いケシキでぇすなぁ。ギギ」



「ふふ、確かによい眺め」



ヒラヒラと落ちる鱗が、彼の乗る機械にピタッとくっつく。


エリーナはヒラリと舞い、彼等の前に立った。



「マンキャスト! それに貴方は、グルベール!」



何故こんな時に。


いや、この時を待っていたか。これも彼等の仕業か。



「これはこれは、団長様」



「唐突ですのね、何か用かしら?」



毅然と、あくまでも平静を装って尋ねる。


そんな彼女に、グルベールは薄ら笑いを浮かべると、クーに視線を向けた。


すっと腕を伸ばし、長く鋭い爪でクーを指差す。



「あの獣は、我らが眷属」



グルベールは、はっきりとそう告げた。



「え?」



「我らが眷属になったので、迎えに来たのですよ」



眷属。繋がりを示す言葉に、何故ここまで冷たさを感じるのか。


テフィは圧倒されてしまったのか、顔を真っ青にして、その場にへたり込む。



「ギギ」



マンキャストのギラギラと輝く視線が、クーを射抜く。



「見たぁい、見たぁい!ギギ」



「眷属? それはどういう意味かしら、あの子が見えざる者だとでも?」



問いかけるエリーナに、グルベールはニタリと微笑んでみせる。



「その通りなのですよ、団長様。厳密に同じでは無いが……」



例え完全ではなくても、あのイタチは最早見えざる者の眷属。


兄弟が増えたようなものなのだ。



「なんとデデタイ、新しい兄弟が出来たんだなぁあ! ギギ」



「それを言うなら、めでたい、であろう」



「うん、メデタイ、メデタイでぇすなぁ! ギギ」



はしゃぐマンキャストは、銃になった片手をぐるぐると回してみせる。今度は細長く、軽くなった銃。


新たに誕生した。それは、つまり。



「あの子が、元々見えざる者だったわけではないのね?」



密かに心の奥底で考えていた、僅かな可能性だ。テフィ達の瞳にもここまで映っているのだから、可能性は低いけれど。


だが、グルベールはいや、と首を振り否定する。



「その答えはつまらない。その者は正真正銘、ザワトイタチだったのだ。そう、ザワトイタチだった」



それも、人に育てられたザワトイタチ。


人に捨てられたが、また拾われた。幸運で純粋で、邪な心を持たない存在。



「だから面白いのではないですか。剣の団の団長様は、その生命いのちを消すつもりでここにいらしたのでは?」



──民の為に。


イタチが見えざる者である可能性を考えていたとは、そういうことだ。



「それが、剣の団の使命だったのではないですかな?」



そうでしょう、民の盾になる剣の団というのは。


真っ直ぐに突き刺さり、エリーナの瞳の色が揺れる。



「キキィ……」



奥で今だにギョロギョロとうごめく、黄色の瞳。



迷いを見せるエリーナに、グルベールは口の口角をこれでもかと上げる。



「やはり、来てよかった。マンキャスト、やれ」



「ギギ」



グルベールの指示に、マンキャストの片手の銃が鈍く動き、銃口がこちらに向けられた。



クーではなく、シキカイトに。



「迷うのなら、早く引き渡していただきたい。貴方は邪魔だ」



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