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第299話 新入り

「あの木のせいでおかしくなったのは、間違いないみたいだよ」



シキカイトから元の姿に戻ったシキ。手すりに器用に腰掛ける彼の周りに、動物達が集まっていた。


人の姿に戻っても、シキカイト(さっきの新入り)だと理解しているようだ。


クーを抱きながら、隣に腰掛けるエリーナ。耳を傾けながらも、周りを取り囲む動物達にただ困惑する。


誰だ、今服の裾を引っ張ったのは。動物達がしきりにこちらに話しかけているようで、気が散ってしまう。



「そこの羊のルーイがおしゃべりだから、教えてくれたんだけどね」



「メェ」



「あら」



いつのまにかすぐ側にいた、ふわふわの毛をした羊。



「今もお話し出来るのかしら?」



「いや、残念ながらシキカイトにならないと、聞こえないというか……分からないんだよ」



「そうなの」



エリーナの腕の中で、クーは眠たそうに瞼をおろしている。


確かにあの日、胞子はこの岬の家まで届いていた。



「キラキラしてて、気になって食べてみたけど不味かったって」



「あら、食べたらダメよ」



「メェ〜」



「でも、それだけじゃない」



城壁のおかげか距離のおかげか、届いた胞子は僅かだった。


だが、届いたのは胞子だけではなかった。



「知らないにおいがしたそうなんだよね。それも、人間じゃなくて動物の」



「知らない動物?」



それも、姿形は分からずにおいだけ。


ここにはこれだけ多くの動物がいるのに、全く知らないにおいがした。



「強く臭ったから新入りかと思ったのに、気配だけだったみたいだよ」



「それって、まさか」



テフィが顔を真っ青にする。エリーナも、グッと口を結ぶ。



「見えざる者、ね」



シティー中の人々が眠りにつき、見えざる者すら眠ったと言われていた。胞子の主である、リグベリの木を除いて。


シキは、ジッと遥か向こうの城壁に視線を向けた。



「眠らなかった子がいたのかな」



「もしかして、シティーから逃げ出した見えざる者がいたのかしら。胞子から逃れようとして」



「どうだろうね。でも、えっと……クーって言ったかな。そのイタチがいたところの近くにいたらしいよ」



新入りらしき動物が、ね。



「その新入りが、その子に何かしたとしか思えないんだけど。どうかな」



「そう、ね」



「そんな……」



テフィは、泣きそうな顔でクーに顔を寄せた。


シパシパと瞬きする瞳、その色は未だに変わらず。光って浮かび上がり、黄色く血走っている。


エリーナはその瞳を見つめながら、ジッと考え込む。



……もしその通りなのだとしたら、見えざる者は何故この子を襲ったのかしら?



「胞子から逃げてる最中だったでしょうに、何かが変ね」



僅かとはいえ、この家にも胞子は届き、テフィ達も一度は眠ったのだ。呑気にも、こんなに小さなこの子を襲うなんて。


だが、考え込んでいても答えは出ない。



「どうしようか、団長さん」



こちらを見るシキの視線の温度が、グッと下がる。鋭い目つき。


エリーナは意を決して、手すりから降りた。



「テフィさん」



「は、はい!!」



「申し訳ないのだけれど、クーを一旦私達に預けてくれないかしら」



エリーナの言葉に、テフィはギョッと大きく目を見開く。



「どうしてですか!?」



「パレスに、ヌヌレイという博士がおりますの」



エイドリアンだけでなく、見えざる者にも精通する博士。



「見えざる者の仕業である可能性が高い。ならば、ヌヌレイ博士なら原因を突き止められるかもしれませんわ」



「な、なるほど……」



動揺していたが、落ち着きを取り戻したらしい。彼女はそっとクーの頭を撫でた。



「よろしくお願いします、エリーナさん!」



「ええ、では早速」



「パレスに帰るんだね?」



シキが大きく背伸びをした、次の瞬間。



「あっ!」



「クー!」



クーがエリーナの腕から逃れ、スタッと地面に降り立つ。


そのままトコトコと、彼等と距離をとり始めた。尻尾がだらんと垂れ下がる。



「あれ?」



「クー、大丈夫よ? このお姉さんの言うこと聞いて、一緒にパレスに」



宥めようとするテフィの声。しかし、クーには届いていないようだ。


その場でくるん、と丸まってしまう。



「クー?」



その身体が、ふるふると震えだす。



「どうしたの!? 大丈夫!?」



ますます震える身体。全身の毛が逆立ち、瞳の中までぶるぶる揺れていく。


その口から、しゅうしゅうと息が漏れる。


周りの動物達も、異変を感じたのかクーから逃げだす。



「クー!!」



そして、その口から牙がニョキッと伸びた。



「……!!」



鋭く尖っていく爪、浮き上がる血管。


そして、ギロッと血走った瞳がこちらを睨む。



「キィアアアアアアア!!!」



空気が震える。



エリーナは思わず後退りした。



「そんな……」



そしてクーは、こちらに向かって飛びかかってきた。


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