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第297話 お利口

【テイクン南部 バーナ地方】


【岬の家】



「ようこそいらっしゃいました!」



明るく溌剌とした声。


一つに結んだ髪を揺らし、目の前で爽やかな笑顔を向けてくる彼女に、二人も顔を綻ばせた。



「こんにちは、貴方が依頼してきた方ね?」



「はい、うわぁ〜本当に本物!? スゴイスゴイ!!」



「本物か、いいね」



エリーナとシキを前に、興奮して飛び上がる彼女に、シキは軽い笑みをこぼす。


彼女の名前はテフィ、と言った。岬の家で長く働き、働く者達の中でリーダーを務めているという。



「あら、じゃあ私と同じね」



「きゃあ〜! エリーナさんと同じだなんて、いやだ、そんなことないですよぉ」



分かりやすく染まっていく頰。団員として過ごしてみれば、すっかり見慣れた反応になった。



「わざわざ団長さんに来てもらうなんて、どうしよう」



「うふふ、早速ここの動物達に会ってみたいわ」



「いけない、そうですよね」



彼女は慌てた様子で、奥の大きな扉に駆け寄る。木の床がギシギシと鳴り、大きな屋敷の中で高くまで響く。



「この奥です、どうぞ」



開いた扉の隙間から溢れる、太陽の光。


扉を開けると、そこには緑が生い茂る広い敷地が広がっていた。



「広い……」



柵であちこち区切られた草原に、たくさんの動物達がいた。


犬、シカ、ウサギ、ヤマアラシ、ヒツジ、アナグマ、サル、キツネ。


草原を駆け回る、何本もの足。


目で追えない程の動物が、牧場のように広い草原で、のびのびと自由に暮らしている。



「すごい、こんな所があるんだね」



「そうね」



「これで全部じゃないんですよ。ほら、あそこの厩舎にも、あの向こうにも」



視界いっぱいに広がる緑に、大勢の動物達。


都会で暮らしていると、いやそうでなくても、このような光景に出会うことはない。



「ここの動物達、みんな……」



「はい、行き場をなくした子達です。みんな一緒に暮らしているんですよ」



「これは想像以上ね、驚いたわ」



近くに行ってみますか、とテフィに促され、二人は柵の近くに寄った。


見慣れない人間が来ても、動物達は怖がりはしないようだ。興味津々で、二人の足元に寄ってくる。


慣れているのだ。餌でも期待しているのか、真っ先にヒツジ達がシキに突進してきた。



「くすぐったいよ、ルーイ達」



「あらぁ……」



随分と人懐っこい動物達だ。エリーナは近寄ってくる動物達に、キラキラと目を輝かせる。



「ひゃあ、なんて可愛らしいの!」



口角が上がる。頰が緩んで、また緩む。エリーナは目尻をこれでもかというほど下げ、近くに来たリスを撫でた。



「お利口さんねぇ、怖くないわよ」



これが、剣の団の団長なのか。


声も上擦り、嬉しそうだ。普段の凛としている彼女からは想像も出来ない反応に、シキは僅かに目を見開く。



「職権濫用じゃないよね?」



「シキ」



エリーナは背を向けたまま、シキに声をかける。その声は、少しだけ固かった。



「さっき話したでしょう、頼めるかしら」



「……」



エリーナの言葉に、何事かと戸惑うテフィ。


シキは大きくため息を吐き出すと、前に進み出た。近寄ろうとしてくる動物達を、優しくそっと身体から引き剥がす。



「ふぅ……」



息を吐き、集中する。



いち、に。


いち、に。



そして、その身体が強い光に包まれていく。


光に照らされ、予想外に動いていく影。だがすぐに、その光が収まった。


収まった先には。



「グル!!」



「ブォ!?」



「ギャン!」



目の前に突然現れたシキカイト。動物達は、突然現れた獣に何事かと騒ぎだした。


そこにいたのは、確かに人間だった筈。



「え、え、えぇ!?」



目の前で起きた現象に、テフィはパニックになって頭を抱えた。目がおかしくなったのかと、目を何度もゴシゴシと擦る。


だが、美しい獣はやはり凛としてその場に立っていた。



「いや、だって、え!?」



シキカイトは暴れることも威嚇することもなく、ひたすら動物達に呼びかけた。



「グル、グル!」



「アン、アン」



「メェ〜」



動物達は戸惑いながらも、徐々にシキカイトの周りに集まっていく。


どうやら、通じたらしい。



「グルル」



シキカイトも安堵したように、彼等をぐるりと見渡した。


テフィは今だに目の前の状況が信じられず、呆然と口をパクパク動かす。


彼女はさりげなく頰をつねってみたが、現実を自覚しただけだったようだ。



「この人は一体……。人間、なんですよね?」



「ええ、人間よ」



美しい後輩の姿。エリーナは軽く答えながら、くすっと笑ってみせた。



「同じ動物じゃない」



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