第24話 内緒
【パレス 大広間】
「はあぁ……」
披露が終わり、アイリはその場に崩れ落ちた。とにもかくにも見せることが出来て、三人揃って安堵する。
そんな三人に、エリーナは笑顔で近寄った。
「さてさて、これから忙しくなるからね」
これから、51期生としての活動が始まるのだ。
エリーナは何かを思い出したのか、あ、そうだと手をポンと叩く。
「一つ、大事なこと言い忘れてたけど。あなた達が51期生だって事は、まだみんなにはナイショにしておいてね」
「え?」
三人は目を見開き、キョトンとした。
「みんなって?」
「だから国のみんなに、ね」
「街の人達ってことっすか?」
レオナルドの言葉に、エリーナもジェイもカリンも、その通りとばかり笑顔で頷く。
「どうして……?」
「すぐに実戦に出るというわけではないし、それに」
エリーナは三人を見渡し、いたずらっ子のような笑みを向ける。
「──51期生、まだ揃っていないんだもの。どうせなら、揃ってからみんなにお披露目したいじゃない?」
「!!」
三人に衝撃が駆け抜けた。
「お、オレ達以外にも51期生いるんすか!?」
「そうさね」
「何人ですか?」
アイリが素早く立ち上がり聞き返す。だがこれには答えを持っていないらしく、マルガレータは言葉を濁す。
「さあね……。ハーショウが、他にも交渉してる子がいるって言ってたんだよ。その内の一人は、ほぼ確定だそうさね」
少なくとも四人以上にはなる可能性が高い、ということか。
三人は思わず目を見合わせる。
「何人になるんだろう……」
「ルノさんが一人だけだし、いっぱいとるんじゃね? 賑やかじゃん」
「え、いっぱい入るの?」
もっと賑やかになるのか、大人数になったらどうしようか。仲良くなれるのか。
「それとね、この後なんだけど」
ギギギギギ。
エリーナが口を開こうとしたその時、広間の扉が大きな扉を立てて開く。
「出迎えがなかったじゃないのぉ? おチビちゃん達」
野太い声と共に現れたその姿。
「いつまで待たせるおつもり? まったく、冷たい子ねぇ」
入って来た人物に、ナエカとレオナルドは完全に顔を引き攣らせた。
大きく胸の開いた紅色のスーツに、紅色の短いタイトスカート。強めの厚化粧。はちきれんばかりのバストにヒップ。
その背はなんと、2メートル近くはあった。あまりにも大きな体躯に、隠しきれない筋肉隆々とした肩の広がり。
髪は、ドナより更に短いボブに切りそろえている。キセルだろう、長いパイプを左手に持っていた。
まさか、片手であの重い扉を開けたのか。
濃いアイシャドウと共に、狐のような鋭い目つきで口だけの笑みをたたえている。
「あ……あ……」
「ヒィッ」
あまりのビジュアルにナエカとレオナルドが後退りする中、アイリはおずおずとその人物に近付いた。
「ほえ……」
──おっきいなぁ。前に里にいたミャンゲルおじさまのところのマヤハお姉さまだって、ここまで大きくはなかったよ。もっと細かったし。
顔をずっと見ようとすると、首が疲れてしまいそうになる。声も随分低い、男の人のようだ。
やはり世界は広い、色んな人がいる。
「はえぇ」
「あなた……」
好奇心満載で自身を見つめるアイリに気付き、その人物はフッと口角を上げてアイリに近づく。
そして、軽く肩に手を回してきた。
「わぁ!!」
「あなた、なかなか違いの分かる女ね」
「えっと」
「気に入ったわよん」
混乱するアイリに、周りもあたふたするばかりだ。エリーナが、慌てて二人の間に割り込む。
「三人とも、この方がえー、リンゴ・ドランジェ教官よ」
「キョウカン?」
「教官って何すか?」
元々血の研究にも携わっており、アイリ達に能力の使い方を特訓してくれるらしい。リンゴ自身も、元団員ということだった。
先生ということか、とアイリは納得した。元団員から教わることが出来るなんて、それは心強い。
ところでこの先生、距離が近い。
「これから教官から色々な事を教わるのよ、しっかりね」
「よ、よろしくお願いします」
頭を下げる彼等に、リンゴはねっとりした笑みを返す。
「──ひとつだけ、あなた達によーくよーく言っておくわよん」
「え?」
リンゴ教官は、キセルを指でくるくるいじり始めた。一変してサッと笑顔を消し、冷たく彼等を見据える。
カッと縦に大きく開かれる目は、獲物を捕らえようとするかのよう。
ギッと視線で射抜かれる。
「あたしのことはリンゴとお呼びなさい。間違ってもドランジェ、なんて呼ぶんじゃないわよん。分かったわねん!? 呼んだらぬっ殺すわよオオン!???」
「ひええ!!」
──まだ何も言ってないのに!!
恐ろしさのあまり、三人は揃ってハイ!!と元気よく返事をしたのだった。
返事を聞き、リンゴはもう一度ねちっこい笑顔を見せた。
「これからビシビシいくわよん、よろしくねん」




