第23話 封切り
【中央通り】
【映画館 インペリアル】
「さぁさぁいらっしゃい!! 昨日封切りしたばかりだよ、どうぞどうぞ!!」
「こちらです、こちら最後尾!!」
「押さないで、押さないで!」
テイクンシティーの中央通り沿い。この国で一番の映画館は、その日も沢山の人で大盛況だった。
多くの人がぎゅうぎゅうと列に並び、動き回るスタッフの小気味良い声が飛び交う。
人の背をゆうに超える幟が、通りにずらりと立ち並ぶ。晴れやかな空に重なった。
映画館の上に掲げられた、目印の大きな看板。そこにはその日一番の、目玉の作品の名前が大きく書かれていた。
『国境線からきた男2 太陽は眠らない』
去年大ヒットした、アクション映画の続編である。
銃片手に各地を放浪する元エリート軍人の主人公が、行く先々でトラブルに巻き込まれながら悪の一味と決闘するという、王道冒険活劇だ。
公開される前から既に、前作を超える人気が出るのでは、と噂されていた。
噂通り、いや、噂以上の人気に係員達は忙しく汗を流す。
「こちら、本日の分はもう完売だよー!」
「完売、完売!!」
「黄色の券をお持ちの方はこちらねー。はい、こちらだよ、危ないよ、押さないでー!」
多くの人で賑わう、映画館の裏の路地。とある若い男性二人組が、ひっそりとこんな会話をしていた。
「なぁなぁ、やっぱり券、どうにかならないか?」
「どうにかなるかよ、券は明後日の分まであっという間に完売だ! あの話題作の続編だし、主演はあのヨースラ・イーストウッドだぞ?」
「そこをなんとかさぁ……」
宣伝ポスターには、水色の髪の爽やかな若い青年が映っていた。
デビューしてそこまで経っていないが、デビュー作品がいきなりのヒットを飛ばし、その演技力で一気に注目を集めた。今や、女性に大人気の若手俳優だ。
アクション物の出演が多く、その甘い容貌からは想像もつかない巧みなアクションも、大いに注目を集めている。
映画の昼の上映回の席は、あっという間に多くの人で満席になった。席を埋め尽くした観客達は皆、目の前の大きなスクリーンに釘付けのまま。
まさに今、映画は終盤の見せ場に突入していた。
『しまった、囲まれているぞ! ここはもうもたない!』
『こんなに早く奴等が来るとはな』
『くそぉ、ヤダの奴め。裏切りやがったな!』
『落ち着くんだ、俺が奴等を引きつける!』
『なに!? よせ、ダン!』
『危険過ぎるぞ!』
『囮になるつもりか、ダン!』
『囮? 俺が何を諦めたっていうんだ。道を切り開こうとしてるんだぞ、俺は』
観客の一人の女性が、ポツリと呟いた。
「ヨースラ、素敵」
それに呼応するかのように、他の観客も続々と呟きだす。
感嘆の息と共に。
「ヨーくん、かっこいい」
「素敵」
「なんて素敵なの……」
金の取り引き、仲間の裏切り、脱走。そしてならず者との銃の撃ち合い、敵の本当の野望。
ずっと行方知らずになっていた、友人との涙の再会。
崖から一気に飛び降りるシーンでは、観客が一斉に息を呑んだ。
そして終幕。スクリーンには、颯爽と背を向けて歩く主人公の姿が映る。
『彼がどこに行きどこに向かうのか、それは彼のみぞ知る。彼の冒険は、また新たな一歩を踏み出したのだ』
映画はエンディングを迎え、おわり、の文字がスクリーンに映し出される。
「おお!!」
パチパチパチパチ!!!
観客は皆立ち上がり、歓声と拍手で応えたのだった。




