第21話 披露
トップバッターとなったレオナルドは、気合いを入れてグッとグローブをはめ直す。
「よっしゃああ!」
アイリはレオナルドに、頑張れ〜と声援を送る。それに応えてか、レオナルドはブンブンと手を振り回す。
「あのグローブ……」
エリーナが小さく呟くと、ジェイが頷いた。
「ラナマンの子やからな、あのグローブが多分そうなんやろ」
「素敵〜。ウフッ」
トップバッターで緊張していたが、いざ立つと自信を見せる。レオナルドのその姿に、次の順番であるナエカは早々に怯えていた。
「やるぜぇ!」
「何でそんな自信満々なの……?」
しまいには、アイリの影にこっそり隠れてしまう。
結局、今から何をするのかというと。
「──本当にいいんすか?」
「ん」
レオナルドの目の前には、ルノが無表情で立つ。
ルノ相手になんでもやってもいい、というものだったのだ。まさか、団のエースといきなり対決する事になるとは。
「全力でいいんすか?」
「勿論」
軽く手首を回し、ストレッチ。
ルノの表情は微塵も揺るがず、周りの先輩達も涼しい表情で二人を見守っている。心配などしていないのだ。
アイリはそんな先輩達の様子に、表情が引き締まるのを感じた。
──この人、本当にエースなんだ。強いんだ。
レオナルドはふぅ、と息をつくとグッと拳に力を入れた。ついでに腹にも。
「……じゃあ、遠慮なくいくっすよ!!」
気合いと共に一気に助走をつけ、右足でダンッと勢いよく足を踏み切った。
「うぉりぁああああ!!! 光弾玉!!!」
レオナルドの気合いに反応するかのように、グローブから衝撃が発せられた。
衝撃が塊となり、ルノに向かう。
「な、なにあれ!」
アイリが驚きの声を上げた。
太陽の始祖の一人、チャド・ラナマン。鍛冶屋だった彼はオロロの血を浴び、その能力であらゆる不思議な武器を生み出した。
だが不思議なことに、その武器は彼自身しか扱う事が出来なかったという。
彼の子孫であるラナマン系能力者の殆どは、彼が生み出した武器を扱う事が出来るのだ。それが彼等の能力となる。
ただし、扱える武器はただ一つ。それぞれ扱える武器は異なる。
チャドの子孫であるレオナルド。レオナルドの場合は、グローブがそうだったらしい。
「はあああ!!!」
大きな衝撃が自身向かうにも関わらず、ルノの表情は揺るがない。
手のひらを上に、左手をサッと差しだす。
そして、左右違う色だった瞳が同じ色になった。
──次の瞬間。
「あれは!!」
アイリ、ナエカは目を疑った。
ルノが差し出した手のひらに素早く、黒き美しい何かが創り出された。
しかし、それは一瞬。
しゅおおおおお……。
いつのまにかレオナルドの放った衝撃は消え、その跡にはルノが平然と立ったまま。
レオナルドは、その場にどかっと尻餅をつく。
空気が虚しい音を立て、レオナルドは呆然と自らの手を眺めた。
「今、何が……」
間違いなく、衝撃波を打ち込んだのだ。手にはまだ、感触が残っている。
──確かに、手応えはあった筈。
状況を読み込めない三人を他所に、ジェイが椅子から立ち上がり、パチパチと拍手を送る。
「いやぁ、なかなかの威力やったな。上等上等、こりゃ有望やで」
「素敵だったねぇ〜。 ウフッ」
「本当に。運動神経いいのね、あの距離だけの助走であれだけ飛び上がれるのね」
「団長、そこかいな」
「あ、あざまっす!……へ?」
とりあえず先輩達に褒められて、レオナルドは戸惑いながらも頭を下げた。そのまま、レオナルドの番は終わってしまう。
「……コワイ」
次の順番はナエカだ。
次が自分であることに気が付き、ナエカは顔を真っ青にする。
「あ、あの、私の能力はちょっと、その、しょーもないです……」
「大丈夫なのかい、こりゃ」
マルガレータに呆れられながらも、おずおずとナエカは前に進みでた。
「でもまぁ確かに、この子の能力は変わってるんだよ。そうだねぇ、カリン!」
マルガレータから突然指名され、カリンがキョトンとする。
「カリンですかぁ?」
「そうだよ、何か投げてみな」
「ナエカちゃんに?」
「そうだよ」
「ふうん?」
「ヒィッ!!」
その言葉に、ナエカがギョッとして飛び上がる。
カリンは少し迷うそぶりをしながらも、キョロキョロと辺りを見渡す。そして素早く、ルノが座るのに使っていた、大きめのクッションを鷲掴みにした。
「あ」
「えぇい!」
ルノが文句を言う前に、クッションを勢いよく投げたのだが。
「はや!!」
あのカリンの細腕からは、想像もつかないパワーだ。クッションが弾丸となり、凄まじいスピードで的確にナエカに飛んでいく。
「ヒイィ!!」
ナエカは悲鳴をあげ、全力で目をギュッとつぶり必死に両手を合わせた。
そして一言。
「おまじない!!!」
その刹那。
「……あれぇ?」
真っ直ぐナエカに向かって投げられていた筈のクッションが、ナエカの真後ろでコロコロ転がっている。
何が起きたか分からなかった。周りも、ポカンとクッションとナエカを見つめた。
──おかしい。まるでクッションが、ナエカをすり抜けたような。
クッションの位置を確認したナエカは、息を吐きだしてその場にへたり込む。
「よ、よかったあぁ……。おまじない成功した……」
「これがこの子の能力だそうだよ。おまじないをすると、飛んできた物が何故か勝手に避けるんだそうだ。ただし、確率は五分五分らしいがね」
「100%ちゃうんかい!」
まさに、おまじない。
ジェイはブツブツと言葉を吐き出し、考え込む。
「ナエカちゃんはマジェラの子やろ? マジェラにしては、変わった能力やな〜。聞いたことあらへん」
「その通りさね、前例が無いそうだ」
「えぇ??」
マジェラの一族は始祖であるリーゼがそうであったように、特定の範囲に影響を及ぼす能力が多かった。
自身で能力の範囲を指定し、能力を行使する。例えば、結界を張るような。
だがナエカのおまじないは奇抜過ぎて、マジェラの中でもどの能力なのか、さっぱり分からないらしい。
「しょーもないです」
──ちゃんと出来ないし。
そう言って、ナエカはしょんぼりと目を伏せる。
やたら緊張していたのはこれもあったのか、とアイリは納得する。しかし、周りの反応はナエカの予想とは違っていた。
「不思議~! ウフッ」
「回避能力な、極めたら便利そうやな」
これなら、他の者を守ったりなども出来るのでは。レオナルドは興奮気味に、ナエカに駆け寄っていく。
「すっげぇ。ナエカの能力、すげーおもしれーじゃん!」
「……」
ナエカは照れくさそうに、小さく呟いた。
「そうかな」
──さて、次。
全員の視線が一人に集中する。
アイリは、チラッとルノに視線を向けた。
ルノも先程とは違い、流石にやや表情を固くしているようだった。
アイリはギュッと拳を握り、前に足を進める。
「アイリ、行きます!!!」




