表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
216/327

第215話 手招き

こちらを見下ろす海のような、静かな瞳。



少女はルノに促されるまま、少しずつ足を後ろに動かした。目は赤く滲み、腕にしずくがポタッと落ちる。



「えぐっえぐっ」



少女が退がったのを確認すると、ルノはジャンプし、軽やかに少女と見えざる者の間に降り立つ。



「……」



「フフフフ」



少女は、目の前の状況に混乱し、ただ泣くことしか出来ない。


しばらく見なかった、その顔。確かにここにいる。



「ル、ルノ」



しゃくりあげながら、その名前を呼ぶ。


だが、一人だけなのか。ルノが一人で乗り込んだようで、全く他の者の気配がしない。そう、他の剣の団の者達。


動揺する少女の前で、ルノはパンパンッと足をはたき、再び瞳に映る見えざる者を見据えた。


目の前の見えざる者も、同じ考えなのだろう。ルノ一人だけだからと、どこか余裕そうに笑みを浮かべている。


半魚人、と言うべきか。亀のような、前に突き出して尖った口。前に不自然に突き出した目。どうやって支えているのか、すぐに折れそうな程へこんだ細い腰。


何本もの水かきのついた腕。ビラビラしたヒレが、体のあちこちにくっ付いている。


異形な見た目とは裏腹に、まるで子供がはしゃいでいる時にだすような、無邪気な声。



「フフ、フフフフ」



邪魔をしに来たルノに、見えざる者は威嚇するようににじり寄る。


対するルノも、見えざる者に立ち向かうと思われたが。



「……」



ルノは足をスッと後ろに引き、後ろに退がった。


一歩、また一歩。



「フフ」



突然後ろ向きでルノが近付いてくるので、少女は驚いてパタパタと後ろに退がる。


見えざる者も、ルノの予想外の行動に驚いたのか、首を傾げゆらゆらと揺れだす。様子を窺っているようだ。


冷たいオーラを纏ったまま、ルノはちょい、と見えざる者に向かって手招きした。



「……」



「フフ?」



コツコツ、と靴で地面を軽く叩く。


見落としてしまいそうな程、僅かに笑みを浮かべて。


まるで、さっさとかかってこいと言わんばかり。



「フフ、フフフフフフ」



ダンダンダン!!


流石に見えざる者も気付いたようで、騒がしくその場で足踏みする。


目に映らない者が鳴らす音に、少女はビクッと恐怖に震えた。


再び、ルノの手招き。



「ブバァ!!」



挑発してくるルノに痺れを切らしたのか、見えざる者は一気にルノに飛びかかる。


ビラビラのヒレが大きく広がる。突き出した口から覗く、不揃いな出っ歯。


食べてやろうと、その口がガバッと大きく開かれた。



リンゴーン、リンゴーン!!



「うっ!!」



音が波動となって押し寄せる。


空間をビリビリと揺らすほどの、大きな衝撃波のような音。


これが、噂の鐘の音の正体だったのだ。いや、噂を再現した音。



「ブバァ!!」



一歩、また一歩。


退がっていくルノに、見えざる者は飛びかかろうと大きく跳ぶ。


伸ばした腕が、届くかというその時。



「ブバァアアアア!!」



どぉおおおおん!!!!



轟音。



「!?」



ルノが降り立つ前にいた穴──通り路から、真っ直ぐ叩きつけられるように、凄まじい圧が放たれた。



どごおおおおおお!!



同時に少女の目にも映る、沢山の若い幽霊達。


真っ白な顔をした、透明な人外の存在が一人、二人、いやもっと。



どごおおおおおお!!!



「ブバァアアアア!!」



霊の圧が一瞬で、見えざる者を踏み潰す。


見えざる者は声を上げる隙もなく、あっという間にボロボロになり、姿を消した。


僅かな塵のようなそれは、鱗だ。


跡には、千切れたような鱗がヒラヒラと舞うだけ。呆気に取られる少女の前で、ルノは残骸を冷たく見つめていた。



「ああああん」



小さな彼女のその小さな目から、大粒の涙が溢れだす。


ぐるりと彼女を取り囲む幽霊、いやお化け達。あまりの光景に驚いて泣きだす少女に、ルノはオロオロするしかない。



「ごめん」



「うああああん」



水の粒から、滝のように変わる涙。


えぐえぐと泣く少女を他所に、幽霊達は次々にルノにサムズアップを決め、去っていく。


今回の幽霊達は、陽気な者が多かったらしい。何故か長く伸ばした、同じ髪型ばかりだ。



『ルノー、いけたかー?』



頭に響いて聴こえてきた呑気な声に、ルノはため息をつく。



「終わった」



『さよか、アイリちゃんバッチリやったな。そこ右や、近いで』



「……」



ルノはまだ泣いている少女の方を振り返ると、少し屈んで視線を合わせる。



「一緒に行こう」



「ぷえぇ」



少女はまだ泣き止まないようだったが、手を引かれると大人しくルノについて来た。


ルノと一緒にいれば安全だ。暗い道の中で少しだけ、少しだけ勇気を出す。



おぉーん、おぉーん!



ずっと聴こえてくる、鳴き声。足を動かすにつれ、どんどん近くなってくる。寂しい、悲しい、そう叫んでいるようだ。


次の右の角を、二人揃って曲がる。


そこはこじんまりとはしていたが、僅かに膨らんだ空間になっていた。恐らく、小さな塔の中だろう。



「……!!」



真上の小さな小窓から射し込む光に、二人は照らされる。そして、目に入った存在も。



「ウオォーン、ウオォーン!!」



「……だぁれ?」



少女は、恐る恐る話しかけた。


そこには、寂しく吠える一匹のどこぞの犬。不気味な声の主。



そして、その傍らですやすやと眠る可愛らしい赤ん坊がいた。



毛布にくるまれ、怪我をした様子も無い。微かだが、自然な寝息を立てている。



「……間に合った」



どうやら、この犬に呼ばれたらしい。



三角耳の小さな犬は、見慣れない顔にキョトンとする。だが、すぐに二人に駆け寄り、擦り寄って来たのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ