第20話 順番
その女性は、口元で僅かに笑みを浮かべながらも、軍人のように引き締まった表情を浮かべていた。
腰に届くほどの長い青紫の髪が、歩く度に左右に美しく揺れる。
「一体、何を騒いでいるのですか? 」
芯の通ったはっきりした声に、ジェイ、カリン、ルノはピシッと姿勢を正した。それに倣い、アイリ達もおずおずと礼をする。
女性は口元だけに笑みを残したまま、ジェイに指摘する。
「ジェイ、あなたがいて何をしているの? あなたが何故、私が帰って来た事に気がつかないの」
「す、すみません。団長」
笑顔のままだが、力のある威厳のある姿。ナエカはその姿に、絶えず頬を赤くして耳まで染めている。
あなたがどうして気付かないとは、どういう意味なんだろう。
そんなアイリの疑問を他所に、女性はクルッと振り向いてアイリ達に微笑む。
「51期生の皆さんね、挨拶が遅れてごめんなさい。49期生、剣の団団長、エリーナ・バンディアよ」
真っ先に前に出たのは、レオナルドだった。アイリもそれに続く。
「レオナルド・ローシっす! レオって呼ばれてるんすよ、よろしくお願いしまっす!」
「レオ、よろしくね。あら、グローブが素敵」
「私、アイリ・ジェイド・クレエールです。よろしくお願いします」
アイリがはっきりとクレエールの名前を告げると、エリーナはピクリと眉を動かした。
「そう、あなたが聞いていたクレエールの……。よろしくね、アイリ」
「は、はい!!」
そう言いながら、エリーナは爽やかな笑みをアイリに向けた。
恐らく誰かから先に話がいっていたのだろうか、あまり動揺した様子もない。冷静な人なのだ。
先程の皆の反応を見てから、少々不安を抱えていたアイリは、安堵し頭を下げた。
「どうやら、あなたのことで騒いでいたようだけど」
その言葉と共にはっきりと視線を向けられたナエカは、ビクッとして固まる。その頬は、最早リンゴのように赤かった。
「名前は何と言うの?」
「あの、その、えっと」
「ん?」
「ナ、ナエカ、ナエカ・シュヴァンで、です……」
聞こえづらい声を気にしてか、エリーナがナエカの方に身をかがめる。近付く距離に、ナエカは余計に緊張していた。
「え、ナエカ? 合ってるかしら」
「は、はいぃ……」
エリーナはこの子大丈夫かしら、という表情をしたまま、マルガレータに軽く会釈した。
「オーナー、今戻りました。もしかして、もう終わってしまったのかしら?」
「いや、これからなんだよ。まだ説明しただけさね、間に合って良かったじゃあないか」
その言葉に、エリーナは予想外だったのかわずかに目を見開いた。
「あら、これからなの? てっきり、それで騒いでいるかと思ったのに」
──じゃあ、これから見られるのね。
楽しみだ、というエリーナの視線は好奇心に満ちていく。アイリ達は、期待されるプレッシャーで物怖じした。
「さて、見せてもらおうかしら。誰からいくの?」
エリーナの問いかけに、三人は自然と集まった。
「どうしよう、誰からいく?」
「わ、私、3番がいい……」
「おいおいナエカ、ちょっと待てよ。お前、アイリの後にやれんのか?」
「!!」
レオナルドの言葉にナエカはハッとして固まり、アイリの方をバッと見やる。
アイリの顔を凝視して、パチパチと瞬き。そのまま色々想像したのか、どんどん顔が青く染まっていく。
アイリは血の濃い本家の子で、始祖の直系の末裔だ。その能力は計り知れない。
出した結論は、勿論──。
「ムリ」
「だろ~? だから、アイリは3番な」
「え、私が3番でいいの?」
ポンと決められてしまったアイリだが、まぁいいか、と思い直す。
問題はナエカとレオナルド、どちらが先をいくか。
「……」
しばらく見合った後、ナエカはチョイチョイ、とレオナルドに先を促す仕草をした。
「え、オレが最初??」
「おねがいぃ……」
「オレ、最初ヤダぜ?」
懇願され、戸惑うレオナルド。その様子を眺めていたカリンが、助け舟──のようなものを出す。
隣に座るルノに、ちょいと近づいた。
「ルノちゃん。ルノちゃんはナエカちゃんとレオちゃん、どっちから先に見たい? ウフッ」
「レ、レオちゃん?」
カリンから突然話を振られたルノは、一瞬目をパチクリさせ、ジッと真剣に考え込む。
皆の視線が、じっとルノに集まった。
ルノは少し考えた後、おもむろに口を開く。
「そっち」
「そっち?」
「どっち?」
──そっち。
「えーー!! やっぱオレっすかあ?」
レオナルドはまるで崖っぷちにでも立たされたように、大声で叫んだ。天井を仰ぐ。
こうして順番はレオナルド、ナエカ、アイリの順番に決まった。




