第19話 確認
【パレス 大広間】
アイリ達三人がパレスに戻ると、オーナーとルノ、ジェイ、カリンが広間で既に待っていた。
広間を見渡すと、ハーショウの姿が見当たらない。いつの間にどこに行ってしまったのか。
先輩を目の前にして、先程まで落ち着いていたナエカがまた怖気づく。
「時間通りに来たね、準備はいいのかい?」
マルガレータに唐突に聞かれたが、何も聞かされていないアイリ達は戸惑う。何故説明役を担っていたハーショウが、ここにいない。
「準備って、今から何するんすか?」
代表してレオナルドがそう尋ねると、ジェイがパッとマルガレータの方を振り返った。
「あれ? オーナー、言ってないんか?」
「ハーショウが言っておくって言ってたんだけどねぇ、どうやら忘れてたみたいさね」
マルガレータは小さくため息をつくと、あの人は適当なんだよねぇ、とブツブツ呟きながらアイリ達に向き直る。
「今から説明するけど、その前にちょっと確認させてくれよ。アイリとレオナルド、お前さん達は外からここに通うのかい?」
「は、はい」
「うぃっす」
アイリは広場から少し離れた、セントバーミルダ通りのアパートメントに住むことになっている。
レオナルドは更に離れた、ヤダペスト通りを少し入った所にあるアパートメントだ。
「セントバーミルダ、アイリは近いね。レオナルド、お前さんは遠すぎやしないかい? しかも、一人暮らしじゃないか」
「でも、あそこ広いんすよ! オレ、広い部屋が良かったんで。安いし!」
そう言いながらニカッと笑う。グローブをつけた手で親指を立てた。
確かにあの辺りの住居は、格段に安い。が、しかし。
「中心から遠いのだから、安いに決まってるさね。遠いと、ここまで駆けつけにくいだろうに」
これは、近い内に彼の引っ越しが決まりそうだ。
「ナエカ、お前さんはここに住むって聞いたけど、そうなのかい?」
「は、は、はい。 お、お父様とお母様が、その、きけ、危険だからってそうしろって」
おぼつかない口の動き。最早目をグルグルさせているナエカに、カリンは口元を綻ばせた。
「かわいぃ~。ウフッ」
「大丈夫なんかいな、これ」
「おっほん!」
マルガレータは眉を下げてしかめながらも、仕切り直しだ、とばかりに咳払いをする。
「これから、たくさん任務をこなしていくことになる。アイリとレオナルドは一人で帰ることになるわけだから、危険もあるだろう。そこでね、お前さん達の能力を見ておきたいわけさ」
「!!!」
──それはつまり、能力を見せろと。
三人が三人共慄いたのはそうなのだが、ナエカはそれを聞いた途端、顔を真っ青にして固まってしまった。
「ひいぃいいい」
「ナエカ、おい、ナエカー!」
しまいにはしゃがみこんでしまったナエカに、慌ててレオナルドがナエカの背中をさする。
「ナエカー。生きてるかナエカ、おーい!」
「えー、ナエカちゃん大丈夫~? 具合悪いの?」
「なわけないやろ、阿呆!」
カリンもトンチンカンな事を言いつつも、慌てて飛び出してくる。ナエカの表情は真っ青を通り越して、真っ白だ。
周りがここまで緊張すると、逆にそちらに目がいってしまい、アイリはかえって落ち着いてしまった。
「の、能力を、今ここで……?」
ナエカは縮み上がりながらも、恐る恐るマルガレータの顔色を伺う。
──今、ここで?
こんな、先輩達の前で?
「いやいや、その通りだけども、そんな最初から上手くやれだなんて誰も言ってやしないよ」
呆れたようにマルガレータが言う。アイリとレオナルドは、密かにお互いに目を見合わせ安堵した。
自分達だって、怖い。
「訓練はこれからなんだし。要は、あんた達の能力を把握しておきたいっていうだけなんだからさね」
その言葉に、ナエカもいくらか落ち着いたらしい。何故か深呼吸を始める。
「まぁそれでも、剣の団に入ったわけなんだから、多少は出来ないと困ったもんだけどねぇ」
「ひいぃいいい」
マルガレータの追い討ちに、ナエカが再び言葉にならない悲鳴をあげた。しまいには、白目を剥いて倒れてしまう。
「ナエカー!」
「ナエカちゃん!」
「しゃんとせーぇ!」
「おやおや」
「具合悪いの~?」
皆がナエカを取り囲み、ぎゃあぎゃあと騒ぎになる。
ナエカに気を取られていた一同は、その時誰かが大広間に入って来たことに気が付かなかった。
「──随分と騒がしいわね」
凛とした女性の声が広間に響く。
一同の動きがピタッと止まった。
コツコツとヒールの音を鳴らし、団の制服を着た一人の女性が優雅に歩く。
キリッとして凛とした、涼やかな目。パンツスタイルに、高いヒール。腰まで届くかという髪が、軽やかに揺れる。
モデルと見紛うスタイルで、一般の男性よりも高いスラッとした背を持ち、それだけで圧倒されてしまう。
アイリとレオナルドは、その迫力に言葉を失った。ナエカは二人の反応に何事かと、ゆっくりと身体を起こす。
目に入ったその姿に、ナエカは明らかに動揺し、頬は赤く染め上がった。
「団長!!」




